木村朗国際関係論研究室
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Last Update :01:35 99/01/18

アメリカの単独武力介入主義の危険性を問う
−日本政府は支持表明の撤回を!−

木村 朗(鹿児島大学法文学部助教授、国際関係論・平和研究専攻)

今回のアメリカによるイラク攻撃は、今年八月のス−ダン、アフガニスタンへのテロ報復攻撃に次ぐ、国際法と国連の安全保障理事会を無視した「大国によるテロ」ともいうべき一方的軍事行動であり、アメリカの単独武力介入主義の表れだ。査察拒否を表向きの理由にしているが、アメリカの目的が国連決議にも無い「フセイン政権の打倒」であることは明らかであり、そこに国際社会にとっての重大な問題がある。
国連大量破壊兵器特別委員会のバトラ−委員長(オ−ストラリア人)の傲慢な態度がアメリカの横暴さの象徴として見えるのも単なる偶然ではないだろう。また、クリントン大統領の決断が不倫疑惑での議会弾劾決議の動きをにらんだものであり、今回なされたアメリカ軍の行動自体が大統領による「私的な軍事利用」というもう一つの側面をもっていたことも指摘しておきたい。
冷戦後の国連の大国(とくに米国)支配の問題とも関連して、今日の国際社会の最大の課題が、「唯一の超大国」となったアメリカの恣意的な軍事行動をいかにしてコントロ−ルすべきか(あるいは、できるのか)、であることを突きつけたのが今回の出来事である。「アメリカの正義」が必ずしも「国際社会(あるいは国連)の正義」ではないことを示している。
今回アメリカに追随したイギリスは当然非難されるべきだが、より重要なことは、新しい日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)の下で、「周辺事態」に対して軍事協力を強化している日本政府の対応である。日本政府は、前回と同じく今回もアメリカの軍事行動に「理解」と「支持」を表明している。だが、沖縄・佐世保や横須賀の米軍基地が海外での米軍の無法な軍事行動への出撃拠点となっている現実を直視するならば、今回のアメリカのイラク攻撃が日本と全く関係のないかのような事実関係の確認を欠いたあまりにも無責任かつ主体性の無い姿勢であるといえよう。
とくに、アメリカやイギリスがイラクへの軍事攻撃を継続して行いイラク側に民間人を含む多くの犠牲者が出ているばかりでなく、イラクの生物・科学兵器使用に対して新たな核兵器使用を示唆しているだけに、日本政府はこうした対応は厳しく批判されなければならない。日本政府は平和憲法がかかげる紛争の平和的解決の視点から直ちに支持表明を撤回し、湾岸に派遣されている在日米軍基地に所属する米艦船・航空機の日本への帰還を要求すべきである。
またこのことは、日本政府ばかりでなく、安保「再定義」と新ガイドライン策定によって、こういったアメリカの一方的軍事行動に直接的・間接的に「荷担」させられる各自治体や国民にとっても身近な問題である。現に、佐世保米軍基地の所属で昨年九月に鹿児島港にも寄港した米揚陸鑑ベロ−ウッドも湾岸地域に派遣されてイラク攻撃に加わっているだけに、わたしたち鹿児島県民もこの問題を真剣に考えなければならないであろう。

『南日本新聞』(1998年12月18日の朝刊に掲載)


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