Last Update :03/05/28

 

 

 
      

「聞く語る−イラク戦争から1年−」

                      木村 朗(鹿児島大学・平和学専攻)        

 

 

 米英軍によるイラク攻撃から一年。須賀龍郎知事は3月議会で「国際協調の中で人道支援がされることを期待する」と述べたが、自衛隊派遣に反対する市民運動も展開されている。鹿児島大で平和問題ゼミを開いている教授の考えはー。

 

―この1年、国内の変化をどう見ますか。

 「昨秋の衆院選で打ち出された二大政党制に象徴される。自民と民主の両党が政権交代を繰り返すことで政治が活性化する、といわれていますが、それは違う。両党が基本的に賛成したイラクへの自衛隊派遣を見れば分かるように、かえって政治は膠着してしまう可能性が大きい。」

 「多様な選択ができなければ、51%の支持で政権が独占できる。民主主義の基本原則のうち、尊重されるべき少数意見が聞き入れられず、多数決の原理だけが強調される結果になる。平和的手段によるイラク復興支援を求めた女子高生に小泉首相が投げかけた一言にも同じ問題があります」

 

―たった1人で5千人余の署名を集めた宮崎県三股町の女子高生(18)への「学校の先生もよく生徒さんに話さないとね」という言葉ですね。

 「一国の首相が高校生相手に、集団に同調しろと脅している。あの発言には二つ問題があります。高校生の自発的な反戦運動を批判したことと、その責任追求の矛先を教師と生徒に向けたことです。生徒と教師の関係を国が監視している。監視社会が進んでいます」

 

―鹿児島市の天文館にも防犯カメラが付きました。

 「犯罪の抑止を狙った防犯目的にとどまらず、映像を捜査機関に渡してしまった。監視社会は警察社会であり、それが進むことで自由に意見を言えず、権力主導のファシズムがまかり通るようになる」

 

―鹿児島市内で27日行われた小中高生による討論会では「戦争平和」のテーマで様々な意見が出ました。

 「私も立ちあいましたが、子供たちの話にいくつもの真理が含まれていた。もし、自分が自衛官でイラク派遣の命令が出たら、逃げると答えた子がいた。侵略されたとか家族が犠牲になったとかでなければ、わざわざ海外まで出かけて行きたくないというのは健全です。県内には大小六つの自衛隊基地・駐屯地があるので、派遣が身近に感じられるのかもしれませんね」

 「平和には戦争のない状態という消極的平和と、皆が降伏で安全に暮らせるという積極的な平和がある。力による解決では、最強の一国しか勝つことができない。皆が消極的平和を求めるには対話しかありません。子供たちの考えを聞いて、希望はここにあると感じました」

 ( 聞き手・永井真紗子、 『朝日新聞』2004.年3月29日付に掲載 ) 

 

            

                 

 
 

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Composed by Katsuyoshi Kawano ( heiwa@ops.dti.ne.jp )