Last Update :03/05/28

 

 

 

「非核・反戦」の意思を鮮 明に!

      
              木村  朗(鹿児島大学法文学部、平和学・国際関係論専攻)

      

ブッシュ政権の「単独行動主義」は、9・11対米テロ事件後、その傾向をさらに徹底し、強大
な軍事力による「世界的覇権」の再編・強化という「一国覇権主義」の新たな段階にまで突き進
んだように思われる。
それは具体的には、「ミサイル防衛」構想の推進と並んで、今年1月に米国防総省が議会に提出
した報告書「核戦略体制の見直し(NPR)」に見られる。この報告書では、非核保有国を含む7カ
国(イラク、イラン、北朝鮮、シリア、リビア、ロシア、中国)に対する核攻撃計画の作成や地
下貫通型の新しい小型核兵器の開発とそのための核実験再開などの必要性が強調されている。
特に注目されるのは、核兵器先制使用を「選択肢」の一つとして確保するという方針を明確にし
ていることだ。これは、ブッシュ大統領が同じ1月に行った演説で、イラク、イラン、北朝鮮を
「悪の枢軸」として名指しで非難し、これら「ならず者国家」・「テロ(支援)国家」に対して
は従来の核抑止力は機能せず核兵器による先制攻撃を行うのが最も効果的だ、と表明した事実と
も合致している。つまり、こうした「ならず者国家」・「テロ(支援)国家」が核・生物・化学
兵器といった「大量破壊兵器(WMD)」を米国やその同盟国に対して用いる可能性が生じた時には、
米国は核兵器によって敵を先制攻撃して大量破壊兵器関連施設を破壊する選択肢を取ることも辞
さない、というわけだ。
このように、ブッシュ政権の新しい核戦略では、核攻撃に対する抑止力だけでなく、大量破壊兵
器に対する抑止力としての新しい役割を核兵器に持たせようとしている。ここでの核兵器は従来
の「使えない兵器」ではなく、「使える兵器」として考えられているのが新しい特徴だ。この新
しい貫通型核爆弾の破壊効果を確認するためにも核実験が必要になるとの予測もある。米英両国
は今年の3月に臨界前実験をネバタ州の実験場で初めて共同で実施した。英国もまた核兵器を含
む大量破壊兵器に対する抑止(「準戦略抑止」)を重視する核政策に転換しつつあり、保有核兵
器の老朽化への対策やミサイル防衛計画で迎撃ミサイルに核弾頭を用いる案の浮上などとともに、
核実験再開への圧力は強まるばかりだ。
ブッシュ米政権の新核戦略の特徴は、ミサイル防衛構想の推進のために行った弾道迎撃ミサイル
ABM)制限条約からの一方的離脱にもよくあらわれている。これは、冷戦時代のソ連との「相
互抑止」の前提となっていた「相互確証破壊」戦略の事実上の放棄であり、核軍拡を宇宙にまで
拡げてまでも米国の「絶対的かつ一方的優位」を確保しようとする狙いがある。これによって米
国はロシアなどの意向に縛られることなく自由かつ無制限に世界各地で相手を問わずに軍事介入
を行うことが可能となったわけだ。相手が非核国であろうが核保有国であろうが核兵器によって
先制攻撃することも辞さない、というのはまさに「狂気の沙汰」だ。国際社会は、こういう非理
性的で常軌を逸した核戦略をとるブッシュ米政権の暴走を何としても止める必要がある。米国で
もすでに「テロ情報を事前に知らされていた」との報道をはじめさまざまな批判が起こっている。
ところが、親米タカ派路線をとる日本の小泉首相は、こうした米国の核先制使用戦略に対して「
理解」を示したばかりでなく、英国を含む欧州諸国が反対や慎重な姿勢を見せている米国のイラ
ク攻撃に対しても「無条件に支持」する姿勢を隠していない。
今国会で有事法制をめぐる論議が行われている最中に出た福田官房長官の「非核3原則見直し示
唆発言」やそれの導火線となった安部官房副長官の「核使用合憲発言」なども、こうした脈絡で
考える必要がある。それは、有事法制整備の最大の目的がイラクや北朝鮮など「ならず者国家」
「テロ(支援)国家」への米国の軍事行動を「有効に支援する」環境・条件づくりにあることや、
ミサイル防衛への共同開発への参加という形でも小泉政権が米国の新核戦略を含む世界戦略に積
極的に協力する姿勢・方針をとっていることと無関係でないことは明白だ。そして、カシミール
問題をめぐって印パ両国が核使用を含む全面戦争の一歩手前という最悪のタイミングで、経済面
ばかりでなく軍事面でも急速台頭する中国へのいらだちや不審船・拉致疑惑問題での北朝鮮への
敵意・不信の高まりといった背景の中で、こうした無責任な発言が被爆国日本から出たことは国
際社会に大きな衝撃を与えた。
いま日本に求められているのは、このような形で米国の危険な核・軍事戦略に積極的に荷担する
ことではない。そうではなく、平和憲法と「非核3原則」の原点にもどって日本の「非核・不戦」
の意思を明確にし、これまで国際社会が積み重ねてきた核軍縮の流れを一挙に逆流させようとす
る米国の暴走を欧州諸国などと共に説得して歯止めをかける努力を真剣にかつねばり強く行う必
要がある。
故鎌田定夫先生(長崎平和研究所所長、今年2月に72歳で永眠)が終生一貫して追及された「
長崎を人類最後の被爆地に!」という重い課題に、いかにわたしたち一人ひとりが応えていくの
かが、今こそ問われているのではないだろうか。

                  (『西日本新聞』2002年8月6日掲載)

 

                        

 

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