実際の仕事編
知られざる扉が今開かれる!?(^^)


2.法律の作り方

 はい、よく官僚の「支配」「権益拡大」のためといわれる法律についてです。
それは本当なのか。実際にはどういう形で作られるのか。ここで述べたいと思います。

1.法律の作り方

 法律は次のような手順で作られます。

@原案作成
A省庁内審査
B法制局審査
C各省協議
D国会審議
E成立
F関係政令整備(@からBの繰り返し)
G関係省令整備(@、Aの繰り返し)

 一見簡単そうに見えます。しかし、これが非常に大変な作業なのです。私も、法律改正を担当しましたが、はっきり言って体力の限界に近い感じでした。おかげで、お正月はその反動(疲れ)が出て、風邪を引いてしまい、寝正月に終わりました。
 それでは順に、どのような作業を行うかご紹介します。

2.原案の作成
 原案の作成は、まず担当課で行います。このとき、大きい法律や他省庁と関係がありそうな法律は臨時の、いわば「法律作成室」ができます。この場合T種(キャリア)の課長補佐を中心として各課から人が集められ、その業務に専念することになります。
 余談ですがこの臨時の室を通称「タコ部屋」といいます。これが業務内容を示していますね(^^)。

 さて、その原案ですが、そもそもの新法か、既にある法律を改正するものかで、作り方に違いが出ます。新法の場合は、まさによく考えニーズなどを調べた上で1から作成することになります。しかし、改正法の場合は、これまでの法律について、何故そのような規定となったか、また他省庁との関係は?などを調べ、その上で改正の理由ニーズなどを構築していくことになります。
 ですから歴史のある法律であればあるほど大変になってきます。書類がない!と焦ることもままあります。もちろん新法についても他の法律との整合性などで、他法律を調べなければいけませんから、大変さは同格またはそれ以上になる場合もあります。

3.省内説明

 さて、古文書あさり理論武装などで相当な時間を使って原案ができると次は省内の説明です。
 ここでは、その法律の必要性(または改正する必要性)を中心に法律案文が適切か、また他法律と比べておかしいところはないか、などの審査を受けます。

 ちなみにその法律案文のことを「マス目」と言います。文字一つ一つを原稿用紙の中の「マス目」に書いていたからだそうです。今はもうそういう用紙を使わなくなりましたが、「役所用語」としてはなお健在です。

 法制局審査への前段階として、制度の内容説明から入り、法文の書きぶりまで細かい審査を受けます。具体的には、一回につき、4〜5時間、これをふまえて指摘事項の説明資料を作り過去のデータを調べ、また審査、と言うことになります。この審査は通常1月以内に終わらせないと、後の法制局がつらくなるので担当者が少なければ少ないほど資料作成が大変になります。

4.法制局審査

 ここでは、過去の他の法律に照らして、考え方をはじめ、言葉の解釈に間違いないか、用語等これでいいのか、徹底的な審査を受けます。

 これまでの例を調べたり、考え方が他の法律に比して適切かなど、調べるのは大変です。また、条ごとにその条の考え方や解釈を記載した「逐条解説」を作るのもこのころです(というより無いと説明に困るので自然にできます)。

 この審査は(審査する方も含め)過酷なもので、大抵4時間コース以上になり、時間は法制局の参事官(各省の総務課長クラス)が空いている時間であるため、深夜となることも珍しくありません。これは、参事官がいくつもの法律や政令を同時に審査しているためで、参事官の数が少ない以上は仕方のないことです。

 急ぎの法案の時は審査後翌々日くらいにまた審査があるため、その間、つまり約48時間で資料を作って、また指摘により案文を直した上で総務課の了解をとる必要があります。大抵は調べものであるため、これもまた時間との争いです。

 こうして、官房審査から法制局審査までで大変な労力を要することになります。私も約1ヶ月で残業時間は約200時間でした。肉体労働ではなく、「考える」部分も多いためつらかったですね(いうまでもなく残業代は200時間どころか100時間ですらつくはずありません)。
 何とか参事官の了解が得られると、参事官が部長に説明し、それが終わった段階で各省協議となります。

5.各省協議

 法制局部長への説明が無事終わると、大抵その時点で微修正以外はなくなりますので、各省との協議に入ります。これはあくまでも「政府提出」であるため、政府全体の相違として提出する必要があり、そのため各省庁の合意を得なくてはなりません。これを各省協議と言います。

 大抵1週間で、法律案に対する質問と意見が出されます。利害関係がない場合は関係ありませんが、利害関係が少しでもある場合は質問案が送られています。特に、相手の法案が自分の省庁の権益を侵すとその省が判断した場合は、最悪の場合「紙爆弾」攻撃を行います。
 具体的には1日で答えなければならない(暗黙のルール)であることを利用し、100問から200問の大量の質問を送りつけ、「自分の省の要求を聞かないともっとどんどん質問するぞ」とやるわけです。

 法律は大抵提出期限がありますので、これをやられて各省との折衝が解決しないと非常にまずいことになります。どうしようもない場合は政治の力を使うことになりますが、大抵はその前の両省課長以上の「覚書」によって双方の権益はこれまで通りと確認して終わります。
 いずれにせよこうなったらまた担当者の体がぼろぼろになります。こうならなくても、各省庁から何問かの質問が来るとそれに対応しなければならないので大変です。

6.国会審議

 国会審議の前に各議員に「根回し」が行われます。
 こういう「根回し」は一般には「悪いこと」のように言われますが、実際には法案の内容を国会に提出のみで理解してもらうのは難しいことです(「国家国旗法案」のような簡単なものだったら別ですが)。
 ですから、やらざるを得ないのです(もしやらずに理解してくれるのならなんと楽なことでしょう?)。もちろん、賛成してくれるよう説明する、という側面もありますが、基本的には、戦前と違い、役人は国民誰でもなることができますし、特権階級ではありません。そして役人自身も一国民です。ですから、国民のためにならないことはしない、というのがあるのでよく言われる悪い意味の「根回し」とは少し違うと思います。
 個人的には、国会議員が半分だったらこの手間も省けるし、印刷物も半分で済むのでありがたいと思います。

 実際に国会審議にはいるとまず「委員会」で審議されます。この後本会議へ出され、可決(否決)されます。これを衆参2セットやるわけです。
 委員会では、質問は政府に対する一方的なもので、大臣または担当政府委員は「答えること」しかできません。ですから、「論戦」などできるはずがありません。政府は質問される一方です。このことが、「政府はすべて悪い」ようなイメージにつながる一因にもなります。
 
 また、テレビが入る場合はやたら目立つ質問、はっきり言えば「演説」を延々として、肝心の法案に触れない人もいます。こういうのは本末転倒で、某党の女性議員は、全く関係ない法案の時に「貸し渋り」の質問をして10分間「審議」していました。また、予算委員会で「首相は自分の人柄をどう思いますか」という質問をしたタレント議員もいました。もちろん、某党の俳優出身の議員のように、一生懸命法律を勉強してくれて、それについて質問した議員もいますので、念のため。

 こうして、国会審議をクリアするとようやく法案成立となります。

7.成立

 こうして国会を通ると成立です。
 しかし、ここに書かなかった以外でも、幹部への説明や、関係者への説明会、利害調整など、また内閣総務課、大蔵省をはじめとする関係者への根回し、印刷発注の作業、「読み合わせ」といわれる誤字脱字がないかの見直しの繰り返しなど様々な業務があります。
 ですから法律を担当することは、官僚として必ず通らなければいけない道ですが、正直、あまりやりたくないですね(自分の体の方が大事です)。
 

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