実際の仕事編
知られざる扉が今開かれる!?(^^)


1.国の予算について

1)予算作成のスケジュール

 国の予算はおおむねこんなスケジュールで作成されます。
4月 年度始め。このころは前年度の後始末で大変。
5月 各省庁は省庁内でプランニングを始めます。不要な予算の削除とその年度の目玉   となる予算を結構必死で考えるんですよ。
6月 このあたりで各局(会社で言うところの「部」)でヒアリングが行われ、局単位の予算   の原案が決まります。
7月 このころ省庁単位で予算の原案が決まります。大枠が決まったあたりで「休戦日」   といって、2日くらい予算関連の作業をしない日が設けられます。省庁の予算担当   者はその後休みなく折衝が続けられるので、一息つくための配慮です。
8月 大蔵省からシーリング(*)が言い渡され、各省庁の予算案が確定します。たいてい   お盆くらいです。
  *シーリング−財政危機のため、各省庁は大蔵省から予算の上限を決められます。          ですからどうしても増額したい予算がある場合は何かを減らさなければ           ならないという仕組みになっているのです。
9月 大蔵省に対し各省庁各説明が始まります。
10月 このあたりで大蔵省内部で各省庁の説明をふまえて、政府の予算案の議論が始    まります。
11月 引き続き大蔵省で議論が行われ、疑問がある場合は各省庁に説明が求められま    す。
12月 20日頃大蔵原案が出ます。いくつかの折衝(局長折衝、大臣折衝など)を経て、   確定するのは年末、御用納め(12/28)直前です。
翌年1月〜 国会審議が行われます。国会が紛糾した場合、国会の可決が翌年に繰り       越すこともあり、その場合、給与や旅費など、最低限どうしても必要なものにつ      いて「暫定予算」が組まれます。

 これ以外に通常業務があるため、国家公務員は、予算説明だけのための資料づくりや新しい予算の議論をしなくてはならず、結構忙しい日々を送っています。

2)無駄な予算?

 ですから、よく「全予算を毎年見直せ」とありますが、事実上不可能です。できるのは、前年の予算がおかしければ修正して、そうでなければそのままにしておくということです。

 そうすると、「無駄な予算が増えて行くだけではないか」という方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは「シーリング」がありますので、その範囲内しかお金はありませんのでしっかりと削られます。
 具体的にはシーリングを越えてしまった場合は、例えば人件費は一律1割カット、などの方法を使います(おかげで残業代が・・)。

 いずれにしても無駄な予算がどんどん増えていく構造にはなっていません。ご安心下さい。

 ただ、問題は公共事業など、何年間か継続して行われる事業です。役所では「無駄な予算を削った者を評価する」というシステムがないので、やめることは非常にリスクがあります。例えば・・
 テレビでお気づきの方もいらっしゃると思いますが、無駄な事業の削減で、「何でそんな事業を始めたんだ」と非難を浴びるのは「今の」担当者なんですね。「立案した」担当者ではないわけです。しかも前の仕事を否定するわけですから、それを否定する明確な根拠が求められます。場合によっては人事上も不利を被るでしょう。

 また、事業をやめるということは、それが行われるとして生活設計をしていた労働者を路頭に迷わせ、その事業が行われている地域の経済を停滞させることになる場合もあるため、そのあたりの補償や苦情対処なども引き受けねばなりません。

 このようなリスクがあるため、一度始めた事業をやめることは、大規模なものであればあるほど難しくなるのです。

 もちろん研究開発などについては1年ごとに評価を行っているため、ダメな物には金を出さないとか工夫をしていますし、公共事業についても中間評価などを始めることになりつつあるようです。

 これらの点をよく考えた上で、マスコミは報道して欲しいものです。またそのような勇気がありそして国民全体を考えている担当者を潰すような構造にも問題があるといえましょう。
(余談ですが、一番困るのは前述のように「無駄な事業を減らした」だけで、後始末を他人に押しつける人です。)

 いずれにしても「事業を中止する」というのは非常に様々な困難を乗り越えないとできないのです。

3)なぜ年度末に工事が

 次にご質問があった年度末の予算消化についてです。
 これは予算を「消化」(この用語も変ですが)しないと翌年予算が削られると言う奇妙な構造にも問題があります。
 根本的には地方公共団体が予算を消化をしないと次回の地方交付税が減ってしまうというところです。

 で、それを突き詰めていきますと、前述の問題と同じで、今のマンパワーでは膨大な予算の案件一つ一つを査定しきれないと言うのに行き着くわけです。
 個人的には、県ではなく、市町村単位での地方自治なら、個別案件の査定が可能ではないかと思います(能力の問題はありますが)。

 ただ、無駄な地面の掘り返しよりもっと必要なところ(歩道の整備とか、バリアフリーのための段差解消など)があるだろう、というのがあって現状では疑問ですね。

 この点、「地方分権」を唱える人には是非よく考えていただきたいところです。つまり、よく言われているように予算などを都道府県の自主性に任せるということは、結局、この「掘り返し」については何も変わらないばかりか、ストッパー(国)がなくなることにより、地方交付税獲得のためさらにそれが助長される危険があると言うことです。

 こんなエピソードがあります。ある予算をつけるとき、複数の県で、それがほとんど使われていないんです。にもかかわらず予算要求してきているんですね。早速担当者に電話をかけたところ、「いや、我が県でも担当が誰だかわからないんですが毎年こういう要求をしているようなので出しました」との返事。即刻ゼロ査定にしましたが、この査定がなかったら、と考えると恐ろしいですよね(注:あくまで悪い例です)。

 ですから、もし国が何もせず、地方公共団体の自主性に任せるというのであれば、市民オンブズマンも含め、きちっと予算が使われているかチェックする機関が必要です。

4)単年度予算の限界

 最後に予算の根本的問題について。
 予算は成立してから、お金の支給を日本銀行にお願いします。
 これまで時間がかかりすぎる。例えば、第一四半期(4月〜6月)については、国会情勢により遅れる可能性審議拒否などにより、成立が新年度にずれ込むことです)も十分あるので、結局確実にその1年の計画をたてられるのは第二四半期(7月以降)になります。
 よく、国の研究会などが秋以降になるのは、これをもとに計画を立てるからどうしてもそうなってしまうのです。私自身もう少し時間があればもっと良い報告書ができたのに、と思うことがありました。
 もっと深刻なのが研究現場で、例えば、補助研究員1人の予算を獲得したとしましょう。で、上のような事態が生じると、9ヶ月1人雇って、うち3ヶ月もう一人雇うわけですね。でもこれは、結局(最初の)3ヶ月間研究が思うように進まないということなんです。研究は受験勉強と違って日々行い、継続的なデータを取ることが必要なのでこれは困った事態なわけです。
 このような点、政治家は気づいて欲しいものです。予算を盾に取った無駄な審議拒否などはやめて、「予算の審議」を真剣にしてもらいたいものです。
 

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