9.審議会の実態その2

5.準備

 準備は割と面倒です。
 まずは委員のアポ取りです。審議会は「委員」の出席が必要です。基本的には審議会で20〜30名程度→省庁再編後は20名以下となります。

 なお、正式な「委員」以外に「専門委員」「臨時委員(これは省庁再編後新設)」がいます。
 一般には、大元の審議会を除き、分科会などでは専門委員の方が多いこともしばしばです。
 これは、部会や分科会になればなるほど専門的な知識や限られた業界の意見、現場の意見が必要とされるため、専門委員を増やさないと対応できないからです。

 こうして十数人の委員のスケジュールを確認して部会(分科会、小委員会)長のスケジュールを前提に委員が出席できる日にちを探します。

※審議会によってはこういう区分をするのを省き全て「委員」としている例もあります。 念のため。

 アポ取りと並行して場所取りです。

 役所は意外と会議室が少ないので、これが結構大変で、特に「審議会」となると普通の会議室(パイプ椅子系)ではすまないので、20くらいしかないんです。
 で、「審議会なんでゆずってくれませんかねー」などという交渉もあります。

 一方審議会資料の作成は役人の仕事です。ベストなのは審議会事務局は別な機関が行うことですが、年に何回もないもののために職員を雇うのは非現実的ですし、行革に逆行するため、所管課が行うわけです。
 この作成はさまざまな意見を踏まえ、書きます。よく「役人の意見を・・」などとありますが、これもきっとやったことがない人が空想で言ってるんだと思います。

 なぜなら役人が思いこみで文章を書くと当然ながら次の「事前レク」で修正が要求されるからです。
 あくまで現場と社会の趨勢に反しないように、そこに委員の意見を採り入れる、という形で作成します(と言っても意見はいろいろな方向性がありますから、全方位外交は不可能なので、結局特定の方面の意見を中心に書くこともあります。しかし、委員の半分以上がおかしいと言っていることを書くのは不可能です)。
 
 ちなみに最も面倒なのは前の審議会で「○○のデータを調べてくれ」と言われたときです。
 この場合、そのデータが一般的なものであればいいですが、多くの場合アンケートや統計資料あさりをやらなければいけないので結構大変です。
 しかも、「これを調べろ」ということは「調べた上で次の審議会資料に織り込め」または「審議会で回答せよ」ということですから、時間との争いにもなります。
 かくしてばたばたするわけです。

 次に事前レク(審議会の内容を事前に説明するレクチャー)です。誰にレクするか(委員だけか、専門委員も含むか)は、その審議会の案件の重要性に応じて、です。定例のものでいちいちレクして時間頂くのも・・・なので。

 ただ、この段階で委員から修正が出ると時間もないので徹夜仕事になります(改めて案を作成し、委員に了承を得ないといけないのですから、案は数時間でできても委員に対するお返事の期限は1日ですから)。

 必要な修正をし、資料がセットできれば、前日夜に担当者で資料コピーと綴じを100部程度(大きい審議会はもっと)行い、準備できれば、当日を待つばかりです。

 一般に審議会は臨時なものなので、これを通常業務に加えてやるわけです。しかも、普通1月に1回、短いものだと2週間に1回やるので大変なんですね。

6.会議の様子

 当日は我々下っ端は会場設定やコーヒーの注文、テープレコーダーなどの準備を行います。午後の会議だとお昼もそこそこに机の移動なんかやるんですね。
    
 会議はたいてい事務局(役人側)の資料説明から始まり、それが30〜60分くらい、その後自由討議ということになります(内容によっては章ごと、資料ごとなどで何回かにこれを区切ります)。

 ここで紛糾する場合は座長の腕の見せ所になります。
 私の経験では、座長は役人OBで業界や企業のトップクラスの方(つまり優秀な人)が割と純粋に司会役に徹するケースが多い上、裁きもうまいので良いような気がしました。

 大学の先生がやる場合は、おっとりされていたり、逆に一因として自説を主張したりでなかなかうまくまとめられなかったような気がします。もちろん司会経験豊富な先生でしたら全く問題はないのですが。

 このように審議会が何回か開催され、最終回に結論ということになります。大臣の諮問を受けていると、とりまとめレポートである「答申」を出さなければなりませんが、ここで役人の作った「とりまとめ案」がいまいちで修正が続出したらどうなるのでしょう?

 この場合は「座長一任」になります。座長は委員の意見を踏まえ案を修正するように指示し、役人が書き直したものを後日再チェックし、答申とするわけです。
※なお、この「答申」は当然あとで委員に送られますので、委員の意見を踏まえていない と大変なことになります。念のため。

7.審議会は不要か?

 私は不要だと思います・・といった方が仕事が減るので楽なのですが、現実的にはよく言われている「役人の机上の論理」では政策は成り立ちません。

 また、「現場を歩け」と言われても日頃雑多な業務が多い(審議会の対象となっている案件はone of themですから)状況下でなかなか出歩くことはできないこと、出張費も限られていること、先方の都合もあること、なによりも全てを見ることは不可能なことなどの問題があります。
※時々「2年間の在職中現場を見るために日本を回った」などと豪語している人がいます が、余裕あるんですねぇ、という感じです(^^)

 もちろん私としてはいろいろな現場を見せていただいて、非常に勉強になった(見ないと分からないです、ホントに)上、現地の生の声などはこれまでの役人生活の上でもとても良かったと思っています。

 しかし、利害が対立し、公平性を求められる場合は、それのみをもって政策を決定するわけにはいかず、また「現場」を見きれるはずもありません。

 ですから、審議会は必要、ということになるのです。

 「審議会は役人の意見を通すための隠れ蓑」などは思い込みから来る決めつけで、実際は「役人が事務局となり、現状の問題点を踏まえ、各界の現場の意見を拝聴した上で実状に合うよう政策を立案するために現状では必要なもの」といえます(情報化が進み、様々な有意義な意見を取り入れられる状況になれば必要なくなるでしょう)。

 もしへんてこな審議会の結論があるようでしたら、委員の人選に問題があるとしか思えません(普通は局長まで上がるのでこれは局長及び担当課長の責任です)。

 なお、審議会は必ず「パブリックコメント」をすることになりますので、審議会の内容に関心があり、建設的な意見をお持ちの方はこまめに各省庁のHPをチェックいただければ、と思います。よほどのご意見でない限り総論である「答申」には取り入れられないとは思いますが、現場の実態などを踏まえたご意見は、その後の役所が行う細部の立案過程で取り入れさせていただくケースもありますので。

8.独り言

 なお、行政改革の一環で、審議会の数が大きく減らされました。趣旨は「無駄な審議会」はやめて委員謝金なども減らそうということです。

  しかし、これまで書いてきましたように、いわゆる「無駄」な審議会は基本的にはありません。

 もちろん、「そういう審議会をやるのはもう古いのでは?」というのもあるかもしれません。しかしそう言う場合は審議会をやめるのが先ではなくて、政策自体を手放すことが先なのです。
 政策は残って審議会が廃止されることはあり得ません。なぜならこれまできちんと審議会をやっていたのにやめるということは役人の独走を認めると言うことです。それはおかしいわけです。

 ですから、今回廃止された審議会は、別の審議会の下に「部会」や「分科会」として残ることになります。そして多くの場合、そこでは必ず部会や分科会の上にある審議会本体に許可を取る必要が生じます。

 なんのことはない、よけいな手続きが1回増えただけなのです。そして審議会本体でも部会以下が増えれば増えるほど、1つ1つについての審議時間は減少し、形骸化、つまりただの承認機関となるのです。

 まさに「見せかけ」の行政改革です。
 
 この責任は全ては政府与党にあるかのように見えますが、私は野党の方も同罪だと思います。野党の方も「数減らし」に執念を燃やして、審議会の本質の議論をしていない(気づいていない?)という問題があります。

 結局、無駄に削減の作業をさせ、結果的に業務は減らず、むしろ増える。そして与野党ともに公務員をスケープゴートに「行政改革」と胸張っているわけです。行政の効率化に反する審議会改革。何が改革なのでしょう?

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