5.霞ヶ関での日常2〜他省庁との関係

1.はじめに
 よく新聞やテレビでは「省庁の利権争い」という言葉が出てきます。
 この「利権争い」は実際はどのような感じなのでしょうか。そして職員も省庁ごとに対立して、霞ヶ関内は省庁ごとにぎすぎすしているのでしょうか。だとしたら複数の省庁にまたがる政策はどのようにやっているのでしょうか。
 この辺りについて記していきたいと思います。

2.「利権争い」について
 この「利権争い」については、いろいろありますが、基本的にはその時々の時流によって今までの各省庁の役割分担の区分だとここの省庁担当、と決めきれないことが原因になります。
 これは一般に「所掌争い」といわれます。これ自体が業務を増やすだけであり職員の負担が増大します。しかし、本命はそれについてくる予算です。
 この予算を狙って、各省庁は新しい分野については、なるべく自省庁の権益を増大すべく所掌争いをはじめるのです。

 この利権争いは手を変え品を変え行われます。で結局それぞれを切って、○○は○省、××は×庁、△△は△省とそれぞれ割り振るのです。

 そしてこの「割り振り」にはどのような問題点があるか。それは各省庁で「似たような予算」を要求することになることです。そして、その新分野が政府として目玉であればあるほどそのような予算がついてしまいます

 ここで大蔵省がきちっと査定しろ、という意見もありますが、大蔵省の主計局の人数が絶対的に足りないので、事実上は困難でしょう
 結果、無駄な重複予算となります。更にこの無駄な重複予算は実施先を2つに分けることにもなります。同じ政府の機関で似たようなことをやることになるのです。人的資源という観点からも、もったいないことです。

 では、省庁再編などで役所が一つになればそういうことはなくなるか、といえばそうでもありません。「局あって省なし」と言われる省庁があるように、同じ省内で違うことを対外的に行っている場合があるのです。例えば某省では、本来は司令塔であるはずの大臣官房が他省庁と合意したことでも、ある局の反対でひっくり返る場合があるのです。これでは同じ省庁というのは名ばかりで、実際は他省庁であるも同然です。

 この背景には、「予算を取ってくること」が有能の証と評価された悪しき慣例があります。これが無くならない限り、いつまで経っても変わらないでしょう。各省のキャリアの人事評価担当者、つまり官房長、秘書課長などの考え方が変わらない限りどうしようもありません。

 近年はそういう傾向が薄れてきた省庁もありますが、伝統的省庁であればあるほどそういったことに熱心です。

3.押しつけ合い
 しかし、このような権限争いのためだけで争うわけではありません。特に最近は定員減が顕著であるため、やりたくないことはやらない、という傾向があります。
 権限争いの反対で、権限がない政策で複数の省庁にまたがると思われるものは押しつけ合うです。
 最近ではある仕事でいくつかの省庁がやりたがらなかった結果幹事である外務省がなんの権限もないのにやらされている、という例がありました。

 役所(行政)でやりたくないなら本来は内閣が決めるべきなのです。でも政治家は「票」になら無いことに関心がありませんからマイナーなことは「たなざらし」になってしまうのです。
 ではどうなるのか、というとその仕事が進まないと「困る」省庁が所掌にかかわらず引き受けてしまうことになるのです。
 
 ただこの点は民間企業でもあることですから、あながち霞ヶ関特有のものではありませんね。

4.敵に塩を送る例
 しかし、逆に実質的に自分たちが仕事をやって、対外的な功績は他省庁に譲るという例もあります。
 特に現場レベルでは、はっきり言って権限争いでごちゃごちゃするより、今他省庁とやっている仕事がうまくいけばいい、というのがありますから、権限争いなんかどうでも良いよね、という感じです。これは出向者や(出世する気のない)ノンキャリアが担当するとなおさらです。
 でもこれもパートナー同士がそういう意識を持ってこそなんです。
 こっちがそんな気でも向こうが権限意識を持っていると、「それはうちの仕事」「任せて貰いたい」→「じゃあ勝手にどうぞ(でも問題点は指摘させてもらいますよごねる)」と言うことになってうまくいかないこともあります。

 一方でこういう例もあります。同じ仕事で予算などで優位に立っている省庁がそうではない省庁に「お任せする」場合です。
 これは、ようするに予算は既得権益として持っているのですが、その省庁側にやる気がない、または人員配置の関係で実力に劣る人を配置せざるを得なかったという場合です。 この場合、「頼りない」方は幹部はともかく実務的にはわかっているので、結構「お任せする」のです。つまり予算は譲らないけど実質面は相手に任せる・・一番楽な方法ですね。
 しかしながら、国家公務員としては、その事業をより良くするのが目的なわけですから、「お任せされた方」は裏方に徹して手柄は相手省庁に、と言うことになります。

 もちろん相手省庁もそれはわかってますから、よほどの馬鹿でもない限り、「うちがこんなにやった」などと言うことなく、それとなく感謝の意を伝え、円滑に業務が進む、と言うことになります。
 まあ、これを自主的にやるかどうかは色々ありますが結果的にこういう形になった例をいくつも聞いています。

 このように、権益争いと言っても色々あり、また現場レベルではよく言われている「なわばり争い」ばかりではないと言うことです。

 ここまでは比較的穏健な「権限争い」をお話ししてきました。次では最悪のケースと具体的な仕事のやり方についてお話ししたいと思います。

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