6.霞ヶ関での日常3

3.権限争議(各省編)

 さて、次は省庁間の対決です。
 この場合、もっとも多いのが法律と思われるので、法律、それも主戦場である各省協議について、お話しします。

 各省協議は、法律(政令)作成省庁以外の省庁に「法律(政令)の内容はこれで良いですか?」という協議のことをいいます。もちろん政府として意見を統一しなければならないからです。
 これは通常1週間で決着を付けるものとされて、各省協議後、1、2週間で閣議までのスケジュールを組まれています。
 ですから各省協議で揉めると閣議に間に合わなくなるので、何としても乗り切らなければなりません。その引くに引けない状況を利用して究極の権限争議が生じるのです。

 しかし、常識的には揉める法律というのは分かっていますから、事前協議を行います。ここで言う「各省協議で揉める法律」は政治家に至急作れと言われたか、事前協議で不調だったので強行突破を図った法律、ということになります。

 具体的にはいわゆる「紙爆弾」が有名です。通産/郵政の情報戦争と際本格化したと言われていますが、どなたか本当のところをご存じでしょうか?具体的には通産省/郵政省の「通信/情報爆弾」警察庁の「風俗爆弾」農水省の「林野爆弾」、などなど色々伝説があります(これは伝聞なのであまり各省はないので、話半分で。)

 この「紙爆弾」とは自分の省庁に有利な権限争いの線引きなどを引き出すため、各省協議元の省庁に何百問という質問を投げかけることを言います。

 これを食らった官庁の担当者はそれこそ徹夜で回答します。必死の思いで回答案を作成し、官房(民間で言うところの総務です)のOKをもらって回答します・・しかしその回答を受けて第二次質問が来るのです。以降質問のネタが尽きるまで質問をしまくるのです。
 一応、最初の質問に関係のない質問はできないというルールがあるので、質問の数は減っていきますが、最初に200問、再質問で100問、再々質問で50問とかあった日には・・。
 これを無駄と言わず何というのでしょう。実際には担当者の精神または体力消耗させる意味しかないのです。
 もちろん中には有意義なものもありますが・・。

 普通の法律では約30省庁のうち0〜5問程度の質問と10問程度の質問が半々であるのに対し、このような場合は主戦場となる省庁以外でも20問程度来ますので、いやーという感じです。
 国民の生活等より、権益関係がほとんどなもので、無駄と言わざるを得ないでしょう・・。もちろんその省庁がきちんとその業務ができれば権限争議もやむを得ないのでその点は誤解しないで下さい。

 この「質問」が終わっても次に「意見」があります。
 法案に対する「質問」とは別に、各省庁には「これはこうすべきだ」という意見を言う権利があるのです。
 これも第一次意見とそれに対する回答、さらにそれに対する第二次意見・・と続いていきます・・。
 そして最終的には、「○○についてはA省が、××についてはB省が決定するものとし、改正等の場合には充分な時間の余裕をもって事前に協議するものとする」「従来の所掌を変更するものではない」などの覚え書きでけりがつきます。

 これも案件の重要性に応じ、レベルをどんどん上げていきます。

 ただ、これは文書番号はありますが、多くは課長の私印でけりが付くため、公文書でなく、「紳士協定」になります(公文書とは、角印があるものを言います)。
 もちろん紳士協定と言っても対外的に、というだけであり、霞ヶ関では「条約」のようなものです。ですから遵守せざるを得ません。これを廃止するには相手の省庁に行って交渉し、合意するしかないのです(最近は時代も大きく変わっているので、「この覚え書きはもう廃止しましょう」というのもありますよ、念のため。私自身、某省との昭和40年代の覚え書きを平成になってようやく無効にしたこともありますし。この点、若手と年配の方でかなり意識に差があるように感じます)。

 話は戻りますが、覚え書きが結べれば各省協議は終わったも同然です。

 しかし、揉めた場合はまさに死屍累々という感じで、これをやった人の多くは体をこわしてしまうケースもあるので、ホント、勘弁して貰いたいです。
 相手省庁の担当者が普通の人で「この件は我々でやっても無駄なので上に上げましょう」と言ってくれればいいのですが、石頭が相手だと、もう・・・。

 それ以外ですと「対抗法案」というのがあります。これは、権限争いする相手に「うちも法律を出す」と言って何もしないことです。
 たいていそういう場合族議員に駆け込んでいるので、根回し先で「○○省も法律を出すと言っているが、調整はついているのか。その内容を見るべきではないか」などと言われ、調整せざるを得なくなります。
 が、向こうは何も作ってないわけですから相手にしていると時間がどんどん過ぎる、というわけです。
 この場合ある程度で見切りをつけ(並行して法制局審査を行い)、対抗法案なるものが出てこないまま政治家への説明も行った上で各省協議に行きます
 もちろんこういう場合は前述の紙爆弾です。

 ま、揉める法律はやるもんじゃないですね。
 

4.通常の仕事の仕方

 さて、ここまでは極端なケースでしたが、通常の仕事について、複数の省庁がかかわる場合は実際はどうなるのかをご紹介します。

 これはおおむね次のような手順を踏みます。

・政策の中心となる省庁が事務レベル(課長補佐以下)で関係省庁の意見聴取
・中心となる省庁で原案作成(省内関係課と調整)
・関係省庁に原案を配布し、修文を求めます(これを「合議」といいます−辞書読みの「ご うぎ」でなく役所用語は「あいぎ」と読みます。不思議ですね)。
・各省庁は原案に対する意見を提出します。この場合、たいていは原案を「見え消し」(訂 正のように修文前と修文後で変化が分かるようにすること)で 修正し、修文理由を付け ます。
・中心官庁はそれらを受けて再度議論し、受けられるべきところは受け入れ、そうでない ときは修正できない理由を告げ再度議論します。
・あとはこの繰り返し
 です。

 補佐同士で決着付けなければ課長同士で、それでもダメなら 部長同士、などレベルを上げて落としどころを探ります。

 このやり方を見ればわかると思いますが、省庁が多ければ多いほど調整が困難になってきます。同じ箇所に正反対の修文意見が出てきたり・・。同様に省内で関係課が多ければ多いほど、修文に応じられる余地も減ってくる(「この部分は絶対降りるな」などの突き上げを食らう)ので、調整が更に難しくなります。
 これによる人的パワーや時間の無駄はそれはもう大変なものです。大臣がア○だと、せっかく苦労して調整したのに「俺は気にくわん」(たいてい支持者の陳情など政治的意味がある)という一声で苦労が水の泡となって一からやり直し、と言うことにもなります。
 さらに省外からの政治の声なんかも政策の公平性を歪めますね。

 こうしてみると、やはり、なるべく複数の省庁が絡むような仕事は作るべきではないということなのです。(少なくとも同じ省庁なら、「大臣」や幹部などの「仲裁役」がいますから)
 仕事は一つの省庁でなく、なるべく複数の省庁にやらせた方が癒着などが無くなり、チェック機能もできるととうとうとテレビで述べておられる方もいましたが、それはこうした実態を何も知らない方なのでしょう。社会が複雑になり、多くの省庁が絡めば絡むほど話が動かなくなるのです。

 この場合の反論としては、チェック機能が働かないではないか、となりますが、1省庁が受け持って仮に問題を起こすような案件は他省庁が絡むと逆に責任の押しつけ合いとなります。また、天下りも「○○省ポスト」ができて複数になるだけです。

 更に、似たような予算も出てきて、結局税金の無駄遣いにもなります。
  
 このように複数の省庁がまたがると色々ややこしいことになります。ですから、できれば政策は一つの省庁が専管でやる方が効率的なのです。

 もちろん、癒着などの問題点は厳しい監視が必要ですが・・。
 

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