(5)雇用対策4法(平成20年)

1)内定取消しの規制等のための労働契約法の一部を改正する法律(案

(労働契約法の一部改正)
第一条 労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)の一部を次のように改正する。
目次中「第十三条」を「第>十三条の二」に改める。
第二章中第十三条の次に次の一条を加える。
(内定取消し)
第十三条の二 使用者による労働者の就労開始前における労働契約の解除は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 この条文は、まさしく13条の2を追加するためのものです。

 どの条文を引っ張ってきたかといいますと、労働契約法第十六条 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」ですね。

 つまり、解雇と横並びをとったということです。
 この条文では、新卒などの制限がないため、世間一般で言う「内定取り消し対策」にとどまらない・・「内定」の意味をつまり新卒に限らず広くとってますね。
 
 ここでひっかかるのは疑問は「労働者」の定義です。 
 具体的には、第二条で「この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。 」と定義がされており、この定義だと「労働者」は「使用されて」いることが条件になります。
 労働契約は「労働者の就労開始前」とした場合、「使用」になるのかどうか、この法文で正しいのかやや疑問があります。
 この辺は、そういう疑義のせいでカラにならないように明確にした方が無難だと思いますが。

 この条文は公布日にすぐに施行される条文です。

第二条 労働契約法の一部を次のように改正する。
目次中「第十三条の二」を「第十三条の三」に改める。
第二章中第十三条の二を第十三条の三とし、第十三条の次に次の一条を加える。
(採用内定の通知と労働契約との関係)
第十三条の二 使用者が、労働者になろうとする者に対して、就労に先立ち、採用する旨の通知を発したときは、その時において労働契約が成立したものと推定する。

 わかりにくいので整理しますと、こういうことになります。
(採用内定の通知と労働契約との関係)
第十三条の二 使用者が、労働者になろうとする者に対して、就労に先立ち、採用する旨の通知を発したときは、その時において労働契約が成立したものと推定する。
(内定取消し)
第十三条の三 使用者による労働者の就労開始前における労働契約の解除は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 これは「採用する旨の通知」の定義が問題になるでしょうね。特にいわゆる内々定が今まで以上に微妙な言い回しになって10月の内定解禁日までかなり不安定になるように思えます。

 現実的には、経営者側から見ると、本当に逃がしたくない学生を内定し、それ以外はより広く内定を匂わすような発言でごまかしてバッファーとする方向になるのではないかと思います。
 こういうときに困るのは優秀な学生ではなく、まじめで平凡な多くを占める普通の学生であるのではないかと思いますが。

 「契約」など法的な問題と現場の実態が乖離していると思います。
 むしろ重要なのは、こんな法律上の言葉遊びではなく、内定取り消しに当たって迅速に対応できる仲裁委員会のような組織だと思いますが。

第三条 労働契約法の一部を次のように改正する。
第十三条の三中「使用者による労働者の就労開始前における労働契約の解除」を「内定取消し」に改め、同条を同条第二項とし、同条に第一項として次の一項を加える。
使用者は、労働者の就労開始前における労働契約の解除(以下この条において「内定取消し」という。)をする場合があるときは、あらかじめ、当該労働契約の相手方(第三項において「内定者」という。)に対し、内定取消しの事由を書面により明示しなければならない。
第十三条の三に次の一項を加える。
3 内定取消しが行われた場合において、内定者が当該内定取消しの理由について証明書を請求したときは、使用者は、七日以内にこれを交付しなければならない。

 わかりにくいので整理しますと、こういうことになります。
(内定取消し)
第十三条の三 使用者は、労働者の就労開始前における労働契約の解除(以下この条において「内定取消し」という。)をする場合があるときは、あらかじめ、当該労働契約の相手方(第三項において「内定者」という。)に対し、内定取消しの事由を書面により明示しなければならない。
2 内定取り消しは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
3 内定取消しが行われた場合において、内定者が当該内定取消しの理由について証明書を請求したときは、使用者は、七日以内にこれを交付しなければならない


 これ、実効性ないと思いますよ。

 例えば3項で、証明書をもらったとして、じゃあ裁判に訴えますか?ということです。普通は示談で補償金なりをもらって次の就職先を探すのが普通でしょう。

 これは、今でもそうなっているわけで、3項でいう「証明書」が学生の次の職場探しで生かされないと意味がないわけです。
 そもそも一行の「書面」と3項の「証明書」の違いが不明です。やはり詰めが甘いと思います。

 要するに現状追認の法律にすぎず、罰則をはじめとする強制措置がなければ何ら意味がないということです。

 物事は、適当な第三者仲裁機関がない場合、法令などで白黒つければ良くなるというものでもなく、かえって悪くなることもあります。そういう社会の現実、わからないんでしょうかねぇ・・。

附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第二条及び附則第四条の規定は公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から、第三条、次条及び附則第五条の規定は公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
第二条 第三条の規定による改正後の労働契約法(次項において「新法」という。)第十三条の三第一項の規定は、第三条の規定の施行後に締結される労働契約について適用する。
2 新法第十三条の三第三項の規定は、第三条の規定の施行後に行われる内定取消しについて適用する。
(公益通報者保護法の一部改正)
第三条 公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)の一部を次のように改正する。
第六条第二項中「第十六条」を「第十三条の二及び第十六条」に改める。
第四条 公益通報者保護法の一部を次のように改正する。
第六条第二項中「第十三条の二」を「第十三条の三」に改める。
第五条 公益通報者保護法の一部を次のように改正する。
第六条第二項中「第十三条の三」を「第十三条の三第二項」に改める。

 要するに
第一条 公布の日から施行
第二条 3月以内
第三条 1年以内
の施行が規定されています。

 緊急対策とは言えない法律です。


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