(5)雇用対策4法(平成20年) 3)雇用保険法の一部を改正する法律(案) これは難しい。見ただけでわかる人はおそらくいないでしょう。 ので、まずは参議院のHPから、「概要」を引用します。 (以下引用) 一 住宅からの退去を余儀なくされる派遣労働者等に対する援助等 二 失業等給付の拡充等 1 適用対象者の拡大 2 基本手当の受給資格要件の改正 3 基本手当の日額の引上げ 4 特定受給資格者に係る所定給付日数の引上げ等 5 特定受給資格者の範囲の拡大 6 短期雇用特例被保険者の範囲の拡大 7 特例一時金の額の引上げ 8 国庫負担に関する暫定措置の廃止 それでは、第1条です。
要するにこうなります。二の二と二の三が追加された部分です。
最初の問題が、この条文・・というか、この章の「雇用安定事業」の主旨を十分に理解していないという点です。 例えば上の最初の赤字部分にこの条文の主旨が書かれているのですが、失業の予防、雇用状態の是正、雇用の拡大、雇用の安定といったものは事業者の努力によるもので、この章は、それに対する支援を行うためのものだということです。 失業者への支援は第3章「失業等の給付」のどこかに入れるべきであり、この新設された二の二は、法律の構成を全然理解していないということがわかります。 場所なんてどうでもいいというご意見もあるでしょうが、しかし、せめて、給付対象などで分類しないと、「わかりにくい法律で国民を騙そうとしている」とご批判を頂くことになるわけで。(苦笑) 更に二の二は中身としても大きな問題があります。 一番問題なのは、一般に、「失業等給付を受給することができず生活に困窮している失業者等」は多分雇用保険の対象外と考えられます(雇用保険料を払っていない)。 そういう方を、なぜ雇用保険で支援するのか。 誰でも雇用保険で支援するなら保険制度の意味がありません。 保険とは、保険料を払った人が、将来の危機の際に支払いなど支援を受けられるものであって、保険加入者以外は関係ありません。 真面目に雇用保険払っているの方のお金を関係ない人のために支払うのはおかしい。 これは保険制度そのものの理解がなっていない根本的な愚劣な内容です。 支援は雇用保険法以外で行うべきです。 次に、なぜ住宅への支援が「派遣労働者」と「生活困窮失業者」だけなのかという点。 例えば正社員でも、寮に入っている人間が解雇されたら当然家を失います。 派遣労働者だけなぜ優遇するのか。 誤解されているのが、派遣労働者といっても、しっかりサラリーもらっている人も沢山います。例えばある凶悪事件で裁判が始まった元派遣社員の被告など月50万もらってタクシー通勤という信じがたい行動で浪費する人間もいるわけです。 支援対象の検討が甘すぎます。 更に問題は、「解雇等」の「等」の定義がない点です。 率直に言えば、「等」は何でも読めるがために「等」の内容は法律段階である程度びしっと決める必要があります。 事態に応じて柔軟に対応するのなら、省令に落とし、省令の中身の主旨を法律段階で説明するというのが役人のやり方です。つまり、「こういう方を対象とします。具体的な法文の書き方は後できちんと詰めます」というやりかたです。 ですからここは 「解雇その他厚生労働省令で定める事由(以下「解雇等」という。)」 としなくてはなりません。 どうしても法律で書きたいのなら、「等」の中身を列挙しないといけません。 同じように「失業者等」というのも意味が分かりません。失業者なら素直にいきますが、失業していない人も含むわけですか・・・。 ※「失業等給付を受給することができず生活に困窮している失業者等」ではなく、「失業等給付を受給することができない等生活に困窮している失業者」ならわかります。 いずれにしてもこれは法文を詰めていないのがはっきりわかります。 いくらなんでも雑すぎます。 次が第2条です。これも訳わからないですね。やはり、改正対象条文一つづつに新旧対照表を作成してみました。 新旧対照表は法令作成時は「参考資料」なのですが、役人の必需品です。政治家はなくてもわかるのでしょうか?
雇用保険の被保険者に派遣労働者と短時間労働者を含むことを明記した条文です。 既に派遣社員やパート・アルバイトも一定時間働けば雇用保険に入れますから、いわゆる日雇い派遣などを対象とすると考えられます。 しかし、そういう方は雇用保険を一定期間どうやって払うのか、疑問です。
労働時間が短い場合は雇用保険に加入できない、という要件を削除した条文です。 しかし、パートタイマーにしても週20時間。つまり週休2日でも4時間勤務すれば加入できるし、週3日7時間勤務していれば加入できますから、そうでない人は時給1500円でも週3万円以下しか稼げないわけで、その中から雇用保険料を支出させて加入させる意味があるのかと思います。 そういう人はどのくらいいるのでしょうか?
保険の適用のための加入期間を短くしたものです。 一見良さそうですが、要するに保険でお金を支払う機会が増えるということは、財政的には悪化します。 その赤字は、安定して保険料を払っている正社員と、皆様の税金で補うわけで、その辺の説明をきちっとしないといけないと思います。
これは基本手当の引き上げのためですね。 これも、安定して保険料を払っている正社員と、皆様の税金で補う事になります。
45歳以上の方がリストラされると再起が厳しいので1年以上、という給付要件があるのは良いことだと思います。 では35歳以上の方はどうなのか。 34歳までに雇用保険を5年以上納めるよう、派遣ではなく契約社員や正社員への努力を促す方が先決だと思いますが。 当座の金を給付するという失業対策でやるのではなく、別の方法でやるべきだと思います。
これも日雇い派遣対応でしょうが、日雇い派遣自体、考え方がちょっと甘いと正直思います。 そういう方の住居ばどこでしょうか? 日雇い派遣には携帯電話が必要だし、電車代も必要です。 そういう風に考えると、支援策は日雇い派遣からの脱出への支援を行うべきであり、失業対策で対応すべきではないと思います。 一時的に給付されても結局使うだけで政策効果がないからです。
これも今まで書いてきたことと同じです。
この法律の第1条で改正(追加)された条文をこの第2条で改めて改正に行っているので複雑に見えますが、実際は単純な語句の整理です。
この条文も単なる条ずれ等の修正です。
これは、「暫定措置」をこの法律で更に手厚くしたので、それ以下の優遇のための暫定措置は必要ないため削除しただけです。 さて、ここまで読んでみると、この法律もいい加減なところが散見される上に、最大の問題は「派遣労働者や生活に困窮した方への支援のため、保険料や税金の負担が上昇する見込みです」ときちんと伝えていないという点です。 「必要な経費は平年度約三千百億円」とあります。つまり「国庫から毎年3100億円の負担増」であり、雇用保険は国庫全額負担ではないですから、その分加入者の負担額も増になります。 これは、一時的な景気対策とは全然違います。 このこと、マスコミは報道したでしょうか。毎年3000億以上必要な景気対策。 景気対策はあくまでも暫定的なものであり、そうでないと単なる負担増です。 民主党は本気でこれをやる気だったのか、正直疑います。 なお、以下附則を。 施行期日を見ておわかりのとおり、第1条が公布の日から1月以内、それ以外の規定は4月1日からとなっており、民主党の言う「年を越せない労働者」には何ら意味のない法案(つまり間に合わない)わけです。 それでも、「年越しのため・・」と平然と言う民主党の政治家は正直、法律読んでないバカ政治家だと思います。 その他の附則条文は今回の整理で改正が必要になった他法令などです。省略します。 附 則 (施行期日) 第一条 この法律は、平成二十一年四月一日から施行する。ただし、第一条の規定は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 (基本手当の受給資格に関する経過措置) 第二条 受給資格に係る離職の日がこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)前である基本手当の受給資格については、なお従前の例による。 (基本手当の日額等に関する経過措置) 第三条 第二条の規定による改正後の雇用保険法(次項において「新法」という。)第十六条第一項の規定は、この法律の施行の際現に失業等給付を受けることができる者についての施行日以後に係る基本手当の日額についても適用する。 2 新法第二十三条第一項第二号及び第三号並びに第四十条第一項の規定は、この法律の施行の際現に失業等給付を受けることができる者についても適用する。 (雇用保険の国庫負担に関する経過措置) 第四条 平成二十年度以前の年度に係る雇用保険の国庫の負担額については、なお従前の例による。 (国家公務員退職手当法の一部改正) 第五条 国家公務員退職手当法(昭和二十八年法律第百八十二号)の一部を次のように改正する。 第十条第一項中「十二月以上(特定退職者(雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第二十三条第二項に規定する特定受給資格者に相当するものとして総務省令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)にあつては、六月以上)」を「六月以上」に、「職員を同法」を「職員を雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)」に、「特定退職者を同法第二十三条第二項」を「同法第二十三条第二項に規定する特定受給資格者に相当するものとして総務省令で定める者を同項」に改め、同条第二項中「十二月以上(特定退職者にあつては、六月以上)」を「六月以上」に改める。 一応新旧対照表作ります。
(国家公務員退職手当法の一部改正に伴う経過措置) 第六条 前条の規定による改正後の国家公務員退職手当法第十条第一項及び第二項の規定は、施行日以後の退職に係る退職手当について適用し、施行日前の退職に係る退職手当については、なお従前の例による。 (激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律の一部改正) 第七条 激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和三十七年法律第百五十号)の一部を次のように改正する。 第二十五条第三項中「、同法第十三条第二項中「該当する者(」とあるのは「該当する者又は激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第二十五条第三項の規定により離職したものとみなされた者(いずれも」と」を削り、「受給資格者(」を「次の各号」に、「「受給資格者又は」を「、「次の各号又は」に改め、「で第十三条第一項(同条第二項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定により基本手当の支給を受けることができる資格を有するもの(いずれも」を削る。 これも一応新旧対照表です。
(激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律の一部改正に伴う経過措置) 第八条 施行日前に前条の規定による改正前の激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第 二十五条第三項の規定により離職したものとみなされた者に係る基本手当の受給資格については、なお従前の例による。 (労働保険の保険料の徴収等に関する法律の一部改正) 第九条 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の一部を次のように改正する。 附則第十条を削る。 (特別会計に関する法律の一部改正) 第十条 特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)の一部を次のように改正する。 附則第二十条の二を削る。 (特別会計に関する法律の一部改正に伴う経過措置) 第十一条 平成二十年度以前の会計年度に係る労働保険特別会計雇用勘定における国庫負担金の過不足の調整については、なお従前の例による。 (雇用保険法等の一部を改正する法律の一部改正) 第十二条 雇用保険法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第三十号)の一部を次のように改正する。 附則第三十五条の前の見出しを削り、同条に見出しとして「(雇用保険の被保険者資格の取得に関する経過措置)」を付する。 附則第三十六条を次のように改める。 第三十六条 削除 附則第三十七条中「前二条」を「附則第三十五条」に改める。 (政令への委任) 第十三条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関して必要な経過措置は、政令で定める。 理 由 現下の厳しい雇用情勢にかんがみ、あまねく労働者の生活及び雇用の安定を図るため、住宅からの退去を余儀なくされる派遣労働者等に対する援助等を行うとともに、雇用保険の適用対象者の拡大、基本手当の受給資格要件の改正、基本手当の日額の引上げ、特定受給資格者に係る所定給付日数の引上げ、国庫負担に関する暫定措置の廃止等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。 |
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