7)予算を軽く見ないで欲しい

<民主党案>
5)財務省中心の予算編成も官邸主導に改め、民間人をトップにした首相直属の「行
 政評価会議」を設置。各省庁の無駄な事業などを徹底的に見直し、新設する「内閣
 財政局」で、縦割りを排除した予算編成をすることも提案している。
 「霞ヶ関に閉じこもる官僚が机上の空論で予算を編成するのではなく、常に国民と
 接する政治家が予算を編成する」

 まず、最初の方ですが、これについては屋上屋を重ねるだけではないかと懸念します。

 現行、予算制度は各省庁ごとに財務省主計局の主計官(課長クラス)、主査、係長等に対する説明を軸に、彼らが要求について財務省内で説明・議論した上で、査定がなされます。

 おおむね、
・各省庁のヒアリングが9月、
・財務省内の会議及び査定が10?11月
・内示が12月上旬
というスケジュールとなります。

 ですから、各省庁としては、9月はヒアリングに対する説明に資料作成やヒアリング時の質問に対する回答などで割とあわただしい毎日を送るわけです。

 ここに民主党提案の「行政評価委員会」や「内閣財政局」のヒアリングが加わったら?単純に考えて予算関係のヒアリング業務は3倍なわけです。まさしく屋上屋です(屋上屋上屋?)

 財務省主計局を廃止するか、主計局をそのまま内閣財政局へ移すという案でも、その場合、「内閣財政局」のメンバーが財務省出身者なら結局同じことで、移すだけ無駄だといえます。
 ましてや、全くの素人を「内閣財政局」に配属させるというのなら、彼らには悲惨な業務量が待っているように思えます(真面目に仕事をすれば過労死か自殺者が出ることは想像に難くありません)。

 これは机上の空論と言わざるを得ません。

 また、「縦割りを排除した予算編成」と言えば聞こえが良いです。

 しかし、いわゆる「予算参考書」をこの考え方を立案した民主党の方はきちんと見たことがあるのでしょうか

 莫大な量です。

 普通の人の場合、どの予算がどのように重複するか探すのも大変だと思います。
 財務省主計局の担当ですら各省庁ごとにいくつかの「○係」に別れて分担してヒアリングした上で把握しているわけですから。

 それを踏まえた上で考えて見ますと「縦割りを排除した予算編成」というのは言い換えれば「全省庁の重複を確認した上で、査定する」ということであり、非常に大変なことです。
 正直、本気でやるなら重複を調べる担当だけで、一日中予算参考書とにらめっこして分析し、また詳細確認のため各省庁からヒアリングするという任務に専従する人が何人か必要に思えます。

 ですから「新しい予算編成」も、机上の空論で終わる可能性が極めて高いわけです。もちろんぶち上げた手前、いくつかの目玉は形式的にやらざるを得ないかもしれませんが、それは結局無駄な仕事を増やすばかりで従来通りのやり方でも十分できる可能性が高いと言えます。

 いずれにせよ、実態を知らずに「軽く言わないでほしい」という感じです。
 

 次の、「霞ヶ関に閉じこもる官僚が机上の空論で予算を編成するのではなく、常に国民と接する政治家が予算を編成する」について、書かせていただきます。

 これは全くのパフォーマンスで、役人を不当におとしめていると言えます。

 役人は、現場の声を主にヒアリングにより聴取します。

 もちろん、それに先立ち可能であれば出張なども行い、生の声を聞こうと努力しています。また、苦情やパブリックコメント、そして自分が国民として、納税者として困ることなどももちろん加味します。逆に時間がない場合などは種々の関係資料のみで考えて作る場合もあります。

 いずれにせよ、(当たり前ですが)生の声を聞くのには限界があり、ヒアリングや資料に頼るのは、霞ヶ関の役人の数や予算が限られているため仕方がないことです。
 ヒアリングや資料とプライベートで一国民としてで見聞きしたことに頼るのは、例えば民間企業でアンケートはがきと現場の感触を加味して製品の扱いを考えるのと同様の事です。

 これを「霞ヶ関に閉じこもる」「机上の空論」というなら、では政治家はどのように国民の声を聞いているのでしょう。

 多くの労働者は毎日会社で、休日は家庭でゆっくりするか家族サービスというのが実態です。主婦も家事や育児に忙しい毎日でしょう。政治家の講演など行く暇がない方がほとんどではないでしょうか。
 
 多くの国民に対しては、時折(選挙前は特に)一方的に「選挙区」において駅前主張を繰り返しているだけではないでしょうか。

 上の論理でいうと、サイレントマジョリティーの意見は直接聞けてないのですから、「支持者と自分に好意的な学者・評論家の中に閉じこもっている」のが政治家でとなってしまうのではないでしょうか。

 いずれにせよ、どこかのタブロイド紙が「決まり文句」で書くような中傷に値するようなことを、政権をとろうとする党が文字にして掲載するのはやめていただきたいものです。
 「閉じこもっている」などと役人の仕事ぶりを見たことがない人に一方的に決めつけられても、「(批判でなく)悪口を言っているよ」ということで百害あって一利なしです。
 

8)終わりに

 改革を「電光石火」で行うためには、そのための下調べと準備が必要だと思います。
 準備不足で急な改革は、その改革が大きいものであればあるほど無理にやった場合、一時的に喝采は得られてもその期間は短く、非難ごうごうとなり、結局すぐ元に戻ります。

 例えば、江戸時代の天保の改革です。

「すさまじき浜松風の吹きやめば天下太平国家安楽」(水野忠邦は浜松城主)

と当時の落首にもあります。

 本当に変える気であればこのような「すさまじき風」だけでは意味がない上、国を混乱に陥れるだけです。
 「すさまじきマニフェスト風吹きやめば天下太平国家安楽」となってしまうのは困るわけです(天保の改革は「4年」で挫折)。

 ですから、あえてここで「詰め甘」な部分を指摘して、下調べと準備をきちんとした上でシステムとしてうまくいくように再考してもらいたいわけです。

 政治主導でこれまでのやり方を変えようと本気で考えているならば、批判する支持者や評論家、そしてマスコミの言い分を聞いた伝聞だけでなく、現場を見ていただいて現状をきちんと把握していただいた上で、実態も踏まえて改革していただきたいと思います。

 さらにいえば、役人の世界も、最近の動きに合わせて大きく変わっています。おそらく、「昔の感覚」では理解できないと思います。
 昭和の時代の「儀式」(例えば予算の復活折衝の数)を極力減らし、無駄な仕事も減らし、業務も速やかに。キャリアといえども仕事よりプライベート優先へ。

 そういった現場の動きに政治家はついていっていないのではないか(知らないのではないか)と思います。

 これは、例えば、キャリアOBがテレビで「役所は・・」などと自分がいたときのことをベースに語っているのを聞くと分かります。
 「古いよ、あなたのセンスは。そのセンスなら在職中は周辺に相当迷惑かけていたのでは?」と突っ込みたくなる発言も結構あるものなのです。

 その他でも、国会対応や質問主意書のむちゃくちゃな要求(長妻昭君のような莫大な調べもの)をみても、国会議員は現場の実務についてよく知らないと考えられます。

 先の臨時国会でもそうだったのですが、経費節減や無駄な業務をなくすというなら、国会質問に対する質問内容の通告を前日19:00以降とか、それを全省庁対象にするのはやめてほしいものです。自動的に全省庁の全国会担当者及び総括ラインが残業確定になってしまいます。例えば残業代でいえば、経費節減は政治家が批判する霞ヶ関の役人の多大なサービス残業によって成り立っているのを理解しているのでしょうか。
 

 「事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起こってるんだ」は政治家にも言えることだと思います。

 そして、「現場を見る」というのはテレビカメラやカメラの前で現場を見て、カメラを意識してサラリーマンにすぎない現場の職員を罵倒する事ではないと思います。
 

                                                                                                                                        

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