6.私的年金制度の問題点

 私的年金制度は、企業年金などや個人年金などを指し、公的年金制度を補完する目的があります。

 前述のような公的年金の額ですと、生活をしていくことはできますが、豊かな老後を送れるかどうかというと不十分ということもあります。

 そのため、企業は従業員の福利厚生の一環として各種の企業年金を設け、公的年金に上乗せする給付を行うこととしています。これが企業年金です。
 これには厚生年金基金、適格退職年金などがあります。

 もちろんこれでもまだ不安な人はさらに個人で生命保険会社等の個人年金に加入できます。

 私的年金制度の考え方は、自分のお金を積み立てて、それが将来大きくなって返ってくるという「積立方式」が基本となります。
 ですから、「世代間扶養」という国民年金や厚生年金の概念とは基本的に異なります

 この理由は、私的年金は任意加入が原則だからです。
 つまり、公的年金ですと強制加入であるため母集団も確定しやすく、死亡率などの統計データの使用により、支出や収入などがそれほど急激に代わることなく算出できますので、ある年とその翌年で保険料などが大きく異なることもなく、5年に一度の「財政再計算」で見直しをすることで収支のバランスをとることができます
 しかし任意加入だといつ誰が制度に加入し、脱退するかが予測が立てられないため、収支のバランスがうまくいかず、積立方式しかないということなのです。

 さて、現在の制度の問題点はやはり企業の「年金債務」と「成熟度」の問題です。

 まず、年金債務ですが、なぜこういった問題が生じるのでしょう。

 これはひとつに、企業会計のやり方の変更が行われるからです。
 これまでは、退職金については、退職時の支払の際に初めてその額を費用として認識するのではなく、将来支払うべき退職金額を認識し、それを毎年費用としてカウントし、その累計額を退職金として退職時に支払うという方法を採ってきました。
 しかし、年金についてはそうではなく、掛金を費用処理するだけで年金の負債が計上されることはありませんでした。
 簡単に言えば、会計上は今払うべき人(退職者)に必要な額だけ支払うという厚生年金などと同じ方式でやっていたのです。

 しかし、今回からは民間の生命保険や退職金と同様に「将来支払う年金のために今どれだけの資産を持っている必要があるか」を負債として保有する必要があるようになりました。
 この場合、将来の年金の支払いとして従業員に約束している額は、ある利率を複利運用して算定されます。この利率を予定利率と言いますが、この予定利率と実際の世の中の運用が上回っていなければ債務となるのです。

 わかりにくいので極めて単純なモデルで例を取ってご説明します。

 予定利率4%として、100円納付したものを翌年104円支払うという年金制度の場合、その年の責任準備金は100円でいいことになります。
 つまり、4%で運用できる、という前提のもと「翌年104円支払うために今は100円だけ持っている必要がある」ということになります。

 しかし、想定と異なり、運用が4%も行かなかった場合はどうなるでしょう。
 100円が102円にしか運用できなかった場合、2円の負債が生じます。
 これが「債務」になるわけです。

 特に、低金利の影響で高利回りの資産運用ができなくなっていますから、高利回りの年金を従業員に約束していた日本の企業は大変苦労しているというわけです。
注)企業年金の債務の考え方はもう少し複雑なのですが、とりあえずのイメージとして。

 これまではそれが表面に出てきませんでしたが、今回の企業会計の改正に伴いそれが表面化するわけです。

 この処理について各企業は大変苦労しています。
 この対策としては、まず現在足りない資産を特損として充当し、または10年以上の長期で償却していきます(機械類の減価償却と同じです)。
 その他は従業員と交渉して年金の額を引き下げるか、確定拠出型年金に移行するなどの対策を講じざるを得ません。
 いずれにせよ労使双方にとって大きな問題です。

 一方「成熟度」の問題は「年金債務」ほど急な問題ではありません。しかしこれは今後の高齢化社会を考えると避けては通れない問題です。

 年金における「成熟度」とは、端的に言うと高額の年金受給者(受給資格者)が今後増えていくことをいいます。
 これがどのような問題を生じるか、というと、払い込まれている現役の保険料が下っていくにも関わらず、支払うべき年金は増大していくと言うことなのです。
 
 一般に積立式の年金は最初は脱退する人(退職する人)はいないわけですからどんどん資産が増えていきます。しかし、ある程度成熟すると退職者も増えてきて今度は支払が多くなります
 このバランスがとれないとどうなるかといいますと、本来資産運用するべき資産が運用できなくなり、その分損が生じることになります。
 簡単にいいますと、今保有している資産から現役の収入と引退者の支払を行った差引額を運用します。これが支払の方が多い場合は資産が目減りすることになりますから、それだけ運用収入も減ることになります。
 そうすると、十分な運用収入が得られず、従業員に約束していた年金を支払うのに大きな支障となる可能性があるのです。

 いまはまだそれほどでもないですが(とはいえ業種によってはこれが原因でやっていけなくなったところもちらほら出始めています)、将来の高齢化社会を考えるとこれは深刻な問題なのです。

 7.確定拠出年金とは?(401kとは?)

 年金制度は大きく分けて二つに別れます。

 確定給付型と確定拠出型です。

 確定給付型年金とは、将来支払われる金額がほぼ確定しているもので、将来設計がしやすく、また仮に運用などで失敗しても国や企業が補填してくれます(とはいえ双方とも、結局は国民やその企業の職員に年金支給額以外の面で跳ね返ってくるのですが・・、いわば連帯責任的制度、とでも言えましょうか)。

 一方確定拠出型年金は、運用についてはすべて自分で責任を負います。ですから、運用が当たれば相当の収入になりますが、失敗すればある程度の額しか入りません。一般には
1.安全に低利で回す(確定給付型より低めでも損はない)
2.そこそこリスクで一定額の収入を目指す(確定給付型並。少しリスク有り)
3.ハイリスク(元本割れもあり)なもので高収入を狙う
 の3つを基本に更にいくつかのタイプを自分なりに組み合わせて行う、ということになります。

 ですから、経済の勉強も少しは必要で、金融に関する知識も必要になります(企業に説明義務がありますが、それを理解する努力が従業員に必要となります)。つまり「よくわからないけどまあいいや」と適当に選んで低収入でも責任は自分、というわけです。

 最近よく新聞に出ている401kというのはこの確定拠出型年金制度を指します。

 これは、米国では、米内国歳入法第401条k項の要件を満たした確定拠出型年金制度が主流だからです。いわば確定拠出型年金制度の代名詞、みたいな感じですね。

 ちなみに企業年金制度の一つである適格退職金年金制度は法人税法第159条に規定する14の適格要因を満たした場合税法上の優遇措置が取られます。イメージとしてはそれと同じです。

 ではこれまでの日本の年金制度は何に当たるのかといいますと、公的年金などは国の法律で額が変わるので広い意味の確定拠出型年金であるという説と、確かに給付額は変わる可能性はあるが選択肢がなく、また基本的にはよほどのことがない限り「引き下げ」の改正はない(そういった改正をする場合は国会や労使間の合意が必要でしょう)なので確定給付であるという説もあります。

 まあ厳密にいうと、個人で運用の裁量と責任を負うことがなかったわけですから、これまで日本では厳密な意味の確定拠出型は存在していなかった、というのが正しいでしょう。
 しかしこれは実体的に分類する意味がない以上、それはどちらでも良いことです。

 今回、平成13年1月からの導入を目指し、日本でも確定拠出型年金法が今国会で審議されています。おそらく可決されるでしょう。

 企業としては、年金債務の問題はありますが、一方で年金の運用の責任を逃れられるので、導入におおむね前向きなはずです。
 ちなみに、なぜ今までそういった議論がむしろ企業の側からでなかったかといいますと、高度経済成長、つまりインフレ経済だった日本では、国債などが高金利で、ほっといても(単に国債などだけ買ってれば)それだけで儲かっていたからです。

 一方で労働組合側としては、面倒ですし、個人の努力(従業員の勉強)が求められますが、従業員の年金が本人の努力で大きくなる可能性もあるわけですから、この年金を従業員がどう判断するか、というのがポイントだと思います。
 また、年金債務について、それこそ「会社が潰れたら全ておしまい」ですから、年金額の削減をはじめとする一定の譲歩が今後予想されます。
 そのとき、自分はそんな勉強できないからそれでも任せるか、自分が勉強して努力して年金を増やすか。これは人それぞれの考え一つだと思います。

 また、公務員などの加入も除外されている点も問題です。

 いずれにせよ、正直言って今回は試験的導入という感じです。

 特に、運用の責任について「善管義務」の考え方(具体的には、むちゃくちゃな運用さえしなければ、運用損が生じても運用会社側に責任はない)がこれまでの日本人の「ミスをしたら運用会社のせい」というのと根本的に異なる点、それも含め従業員教育がうまくいくのか、など問題は山積みだと思います。

←メニューに戻ります?
←外のコンテンツを見ます?