(4)農業者戸別所得補償法案−これは対案と呼べない。 最近民主党が政権交代可能な野党として、政府を批判し、「対案」を出しています。 マスコミは全く批判なしに、それを「政権交代可能」であるかのごとく参議院通過を「画期的なこと」としています。 しかし、重要なのは内容であって、数で優っている参議院を通過するのは当たり前のこと。 これが本当に「対案」になりうるのか。これについて書いているマスコミは皆無です。 新聞ではまともにそういった部分の検討がなされていないため、今回、民主党のマニフェストにも記載されているある意味「目玉」の法案について、法令立案経験者の立場から法案の具体的な条文について逐条で分析をしたいと思います。 今回取り上げたのは、マニフェストの「目玉」の一つであり、先の臨時国会で既に参議院で可決され、今通常国会で継続審議とされている「農業者戸別所得補償法案」(以下「補償法」と略)です(直嶋正行政策調査会長、福山哲郎政調会長代理、平野達男、高橋千秋、舟山康江各参議院議員が提出)。 この法案は、今後の農政のあり方について、政府の「農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律」(以下「担い手法」と略)に対抗して対案と出されたものです。 そして、両法案を比較してみると面白いことがわかりますので、併せて取り上げてみました。 なお、法案内容の是非を問うと、論点がずれると思いますので、あくまでも法案として適切かという観点、つまり法案として、対案としての書きぶりの検討にとどめたいと思います。 つまり、民主党の「政策立案能力」ではなく、「立法能力」についての検討というふうにご理解いただければ、と思います。 |
補償法 | 担い手法 |
(目的) 第一条 この法律は、将来において世界的に食料の供給が不足 する事態が予想され、また、食料の安全性に対する国民の関 心が高まる中で、食料の相当部分を輸入に依存する我が国に おいては、食料の安定的な供給及び安全性の確保の観点から 食料の国内生産の確保が緊要な課題であることにかんがみ、 農業者戸別所得補償金(第四条第一項の交付金及び第八条 の交付金をいう。)を交付することにより、食料の国内生産の確 保及び農業者の経営の安定を図り、もって食料自給率の向上 並びに地域社会の維持及び活性化その他の農業の有する多 面的機能の確保に資することを目的とする。 |
(目的) 第一条 この法律は、米穀、麦その他の重要な農産物に係る農 業の担い手に対し、我が国における生産条件と外国における生 産条件の格差から生ずる不利を補正するための交付金及び農 業収入の減少がその農業経営に及ぼす影響を緩和するための 交付金を交付する措置を講ずることにより、その農業経営の安 定を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資する ことを目的とする。 |
補償法 |
担い手法 |
(定義) 第二条 この法律において「主要農産物」とは、米、麦、大豆その 他前条の目的の達成に資するものとして政令で定める農産物 をいう。 |
(定義) 第二条 この法律において「対象農産物」とは、米穀、麦、大豆、 てん菜、でん粉の製造の用に供するばれいしょその他の農産 物であって、次の各号のいずれにも該当するものとして政令で 定めるものをいう。 一 国民に対する熱量の供給を図る上で特に重要なもの 二 前号に該当する他の農産物と組み合わせた生産が広く行 われているもの 2 (後述) |
補償法 |
担い手法 |
(生産数量の目標) 第三条 国、都道府県及び市町村は、政令で定めるところにより、 毎年、農業者の意向を踏まえ、相互に連携して、それぞれ、 主要農産物の 種類ごとに生産数量の目標を設定するものとす る。 2 国、都道府県及び市町村は、前項の生産数量の目標(以下 「生産数量の目標」という。)を設定したときは、遅滞なく、これを 公表しなければ ならない。 3 国、都道府県及び市町村は、生産数量の目標を設定したとき は、その達成に努めなければならない。 |
補償法 |
担い手法 |
(販売農業者の所得を補償するための交付金の交付) 第四条 国は、毎年度、予算の範囲内において、生産数量の目標 に従って主要農産物を生産する販売農業者(販売に供する目的 で農産物を生産する農業者として政令で定めるもの並びに農 業生産活動を共同して行う農業者の組織及び委託を受けて農作 業を行う組織のうち政令で定めるものをいう。以下同じ。)に対 し、その所得を補償するための交付金を交付するものとする。 2 前項の交付金の額は、主要農産物の種類別の面積単価(農 林水産大臣が主要農産物の種類別の標準的な販売価格と標 準的な生産費との差額を基本としてその需要及び供給の動向 を考慮して定める面積当たりの単価をいう。以下同じ。)に販売 農業者のその年度における当該主要農産物の生産面積(生産 数量の目標に従って定められた生産量のうち販売に供されるも のとして農林水産省令で定めるところにより算定した部分を農 林水産省令で定めるところにより面積に換算したものをい う。)を乗じて得た金額とする。この場合において、交付金の額の 算定については、政令で定めるところにより、当該主要農産物 の品質、その生産に係る経営規模の拡大及び環境の保全に資 する度合並びに米に代わる農産物の生産の要素を加味するも のとする。 3 農林水産大臣は、面積単価を定めたときは、遅滞なく、これを 告示しなければならない。 |
第二条 (前述) 2 この法律において「対象農業者」とは、次に掲げる要件に該当 する者をいう。 一 次のいずれかに該当するものであること。 イ 農業経営基盤強化促進法 (昭和五十五年法律第六十五 号)第十二条の二第一項 に規定する認定農業者であって、 その耕作の業務の規模が対象農産物の効率的な生産を図 る上で適切なものとして農林水産省令で定める基準に適合す るもの ロ 農業経営基盤強化促進法第二十三条第四項 に規定する 特定農業団体その他の委託を受けて農作業を行う組織(地 域における農地の利用の集積を確実に行うと見込まれるこ と、農地法 (昭和二十七年法律第二百二十九号)第二条第 七項 に規定する農業生産法人となることが確実であると見 込まれることその他の農林水産省令で定める要件を満たす ものに限り、法人を除く。)であって、その耕作の業務の規模 が対象農産物の効率的な生産を図る上で適切なものとして 農林水産省令で 定める基準に適合するもの 二 環境と調和のとれた農業生産に関して農林水産省令で定 める基準を遵守していること。 三 その耕作の業務の対象となる農地のうちに、現に耕作の目 的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されない と見込まれる 農地として農林水産省令で定めるものがないこ と。 (収入の減少が農業経営に及ぼす影響を緩和するための交付金の交付) 第四条 政府は、毎年度、予算の範囲内において、当該年度の 前年度における対象農産物に係る収入の額として農林水産省 令で定めるところにより対象農業者ごとに算出した額(以下「前 年度収入額」という。)が、対象農産物に係る標準的な収入の額 として農林水産省令で定めるところにより対象農業者ごとに算出 した額(以下「標準的収入額」という。)を下回った場合には、これ による対象農業者の農業経営に及ぼす影響を緩和するため、 対象農業者(収入の減少がその経営に及ぼす影響を緩和する ための積立金であってその額その他の事項が農林水産省令で 定める基準に適合するものを積み立てているものに限る。)に対 し、交付金を交付するものとする。 2 前項の交付金の金額は、対象農業者ごとに、標準的収入額と 前年度収入額との差額、当該差額の発生がその農業経営に及 ぼす影響及び収入の減少に備えて行われる取組の状況を考慮 して農林水産省令で定めるところにより算定した金額とする。 3 農林水産大臣は、前項の農林水産省令を制定し、又は改正し ようとするときは、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴かな ければならな い。 |
補償法 |
担い手法 |
(交付金の交付の申請等) 第五条 前条第一項の交付金の交付を受けようとする者は、農林 水産省令で定めるところにより、農林水産大臣に交付の申請を しなければならない。 2 前項に定めるもののほか、前条第一項の交付金の交付に関し 必要な事項は、農林水産省令で定める。 (交付金の返還) 第六条 偽りその他不正の手段により第四条第一項の交付金の 交付を受けた者があるときは、農林水産大臣は、その者に対し てその交付を受けた交付金の全部又は一部の返還を命ずるこ とができる。 2 前項の規定により返還を命ぜられた金額を納付しない者があ るときは、農林水産大臣は、期限を指定してこれを督促しなけれ ばならない。 3 前項の規定による督促を受けた者がその指定期限までに第一 項の規定により返還を命ぜられた金額を納付しないときは、農 林水産大臣は、国税滞納処分の例によりこれを処分することが できる。 4 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地 方税に次ぐものとする。 (報告及び検査) 第七条 農林水産大臣は、この法律の施行に必要な限度におい て、第四条第一項の交付金の交付を受け、若しくは受けようとす る者若しくはこれらの者からその生産した農産物の加工若しくは 販売の委託を受け若しくは当該農産物の売渡しを受けた者に対 し、必要な事項の報告を求め、又はその職員に、これらの者の 事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿その他の物件を検査さ せることができる。 2 前項の規定により職員が立入検査をする場合には、その身分 を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。 3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために 認められたものと解してはならない。 |
(交付金の交付の申請等) 第五条 第三条第一項各号又は前条第一項の交付金の交付を 受けようとする者は、農林水産省令で定めるところにより、農林 水産大臣に交付の申請をしなければならない。 2 前項に定めるもののほか、第三条第一項各号又は前条第一 項の交付金の交付に関し必要な事項は、農林水産省令で定め る。 (交付金の返還) 第六条 偽りその他不正の手段により第三条第一項各号又は第 四条第一項の交付金の交付を受けた者があるときは、農林水 産大臣は、その者に対してその交付を受けた交付金の全部又 は一部の返還を命ずることができる。 2 前項の規定により返還を命ぜられた金額を納付しない者があ るときは、農林水産大臣は、期限を指定してこれを督促しなけれ ばならない。 3 前項の規定による督促を受けた者がその指定期限までに第 一項の規定により返還を命ぜられた金額を納付しないときは、 農林水産大臣は、国税滞納処分の例によりこれを処分すること ができる。 4 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地 方税に次ぐものとする。 (報告及び検査) 第七条 農林水産大臣は、この法律の施行に必要な限度におい て、第三条第一項各号若しくは第四条第一項の交付金の交付を 受け、若しくは受けようとする者若しくはこれらの者からその生産 した農産物の加工若しくは販売の委託を受け若しくは当該農産 物の売渡しを受けた者に対し、必要な事項の報告を求め、又は その職員に、これらの者の事務所その他の事業場に立ち入り、 帳簿その他の物件を検査させることが できる。 2 前項の規定により職員が立入検査をする場合には、その身分 を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。 3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために 認められたものと解してはならない。 |
補償法 |
担い手法 |
(農業の生産条件の格差を是正するための交付金の交付) 第八条 国は、毎年度、予算の範囲内において、政令で定めると ころにより、山間地及びその周辺の地域その他の地勢等の地 理的条件が悪く、農業の生産条件の不利な地域における生産条 件とそれ以外の地域における生産条件の格差を是正するため の交付金の財源に充てるため、地方公共団体に対し、交付金 を交付するものとする。 |
補償法 |
担い手法 |
(罰則) 第九条 偽りその他不正の手段により第四条第一項の交付金の 交付を受けた者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に 処する。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条があ るときは、刑法による。 第十条 第七条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の 報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌 避した者は、三十万円以下の罰金に処する。 第十一条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めの あるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人 若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は 人の業務に関して、前二条の違反行為をしたときは、行為者を 罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科 する。 2 法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、 その代表者又は管理人が、その訴訟行為につき法人でない団 体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事 訴訟に関する法律の規定を準用する。 附 則 (施行期日) 第一条 この法律は、平成二十一年四月一日から施行する。ただ し、附則第三条及び第四条の規定は、公布の日から施行する。 (農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の廃止) 第二条 農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付 に関する法律(平成十八年法律第八十八号)は、廃止する。 (生産数量の目標に関する経過措置) 第三条 国、都道府県及び市町村は、この法律の施行前において も、第三条第一項及び第二項の規定の例により、生産数量の目 標を設定し、これを公表することができる。 2 前項の規定により設定された生産数量の目標は、この法律の 施行の日において第三条第一項の規定により設定されたものと みなす。 (面積単価に関する経過措置) 第四条 農林水産大臣は、この法律の施行前においても、第四条 第二項及び第三項の規定の例により、面積単価を定め、これを 告示することができる。 2 前項の規定により定められた面積単価は、この法律の施行の 日において第四条第二項の規定により定められたものとみな す。 (関係法律の整備等) 第五条 前三条に規定するもののほか、この法律の施行に伴い 必要な関係法律の整備その他必要な事項については、別に法 律で定める。 |
(罰則) 第八条 偽りその他不正の手段により第三条第一項各号又は第 四条第一項の交付金の交付を受けた者は、三年以下の懲役又 は百万円以下の罰金に処する。ただし、刑法 (明治四十年法律 第四十五号)に正条があるときは、刑法 による。 第九条 第七条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽 の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは 忌避した者は、三十万円以下の罰金に処する。 第十条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあ るものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若 しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人 の業務に関して、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰 するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科す る。 2 法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、 その代表者又は管理人が、その訴訟行為につき法人でない団 体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事 訴訟に関する法律の規定を準用する。 附 則 抄 (施行期日) 第一条 この法律は、平成十九年四月一日から施行する。ただ し、次条並びに附則第三条及び第七条の規定は、公布の日から 施行し、第四条第一項の規定は、平成十九年度以後の対象農 産物に係る収入について適用する。 (面積単価等に関する経過措置) 第二条 農林水産大臣は、この法律の施行前においても、第三 条第三項及び第五項から第八項までの規定の例により、面積単 価等を定め、これを告示することができる。 2 前項の規定により定められた面積単価等は、この法律の施行 の日において第三条第三項又は第五項の規定により定められ たものとみなす。 (施行のために必要な準備) 第三条 農林水産大臣は、第四条第二項の農林水産省令を制 定しようとするときは、この法律の施行前においても、食料・農 業・農村政策審議会の意見を聴くことができる。 (政令への委任) 第七条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関 して必要な経過措置は、政令で定める。 |
いかがだったでしょうか? ポイントとしては。 ・本来民主党のスタンスが表明されてしかるべき部分が軒並み政令、省令その他で決めることになっており、民主党の言う「官僚丸投げ」批判と全く矛盾する。 ・法的瑕疵と思われる部分が存在する。 という2点だけでも、参議院で可決された理由が理解できないのですが、賛成された方は法文読んでいるのでしょうか、と聞きたいです。 正直、立法府の人間がここまで法律というものを軽視することに腹が立っています。 役人は、それこそ体を壊すまでタクシー帰りや徹夜を繰り返して、「国会提出」という限られた時間の中で法案を詰めるわけです。また、内閣法制局がそこまで詰めるのも、法律というものをそれほど重大なものと考えているのです。 それでもご批判を頂く。 しかし、こんな法律を可決され、「詳細は政府に丸投げ」でうまく制度ができるわけがありません。 それで、「政府はいい加減」と新たな政府攻撃の材料にする気なのでしょうか。 市民の権利義務関係や税金の使い道に関わる法律。「官僚は権限を手放さない」「税金の無駄遣い」というのなら、より詳細に民主党が決めるべきではないですか。 テレビなどでは「政府はいい加減すぎる。我が党ならきちんとやれる」と豪語し、理想論だけ語り、裏では「実際の立案は政府しっかりやれ」って、訳わからないです。 法律を軽視する政党に政権は絶対に取らせるべきではない。そう思います。 |