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最終日(3月4日・月曜日)

 最終日の朝の最低気温は−13度だった・・・のだが、それを知ったのは「釧路地方ではひさしぶりに−10度を下回り・・・」というテレビからの音声だった。しまった!この旅では“とんでもない極寒を味わう”という経験もしたかったので、ちょっと残念だ。ホテルを出たころは、気温はもう−7度くらいだろうか。身震いするほどではなく、きれいに晴れ渡っているため、これからどんどん気温が上がりそうな雰囲気である。そんな釧路の町に、ホテルで朝食をとらずに出た。急いでいたわけではない。ぜひ食べてみたいものが(朝から)あるのだ。その名も“勝手丼”。

朝の釧路駅。日ざしがけっこう暑かった。

釧路駅前で見たくしろバス。石川啄木塗装です。

 

 駅に程近い「和商市場」に、お目当ての“勝手丼”がある。ただし、そういう料理名として売っているのではない。要するに市場でごはんを買って、その上にあちこちの店で量り売りの魚介類をあれこれ載せてもらう、というスタイルである。朝めしとして食べるのはどうかと自分でも思うが、僕は魚介類は全般に好きなので、気にならない。

 市場の中は、まだ朝の9時前だからか客が少なく、店員の威勢だけがいい。そんなところにフラフラっと入り込んでしまったのだから、僕は早々に店員から目をつけられてしまった。量り売りごはんを買って歩き出した時点で、あちこちの店からお呼びがかかるのだ。そこで僕がご飯の上に載せてもらったのは、ウニいくらたこいかホタテサーモンボタンエビたらこ・・・ベンチに座って一気にかきこんでみたら、一部の魚が凍っていた。

 お土産を発送して和商市場を後にしようとしたとき、大量のツアー客とすれ違った。間一髪、ラッキー。そのまま釧路駅に戻ると、間もなく「SL冬の湿原号」が到着する、とのこと。これまたラッキー。しばらく待合室で時間をつぶす予定だったので絶好のタイミング!急きょ撮影に全力投球することにした。問題はどこで撮るかということだけなのだが、ホームからは撮れない。SLなんていう人気商品に団体客が殺到しているので、順番に大記念撮影大会となってしまっているのだ(記者会見みたい)。老若男女がウジャウジャいる場所での撮影が困難を極めることは、簡単に想像できる。そこで、駅の反対側の駐車場にまわってみた。御名答!SLが発車して、もうもうと煙りを吐くシーンをも撮影できて御満悦である。

釧路駅を発車直後の「SL冬の湿原号」

 


釧路(1104)―厚岸(1150) 3631D 快速ノサップ 釧路→根室
 深川以来の鉄道利用である。向かうは厚岸、今度の狙いは牡蠣だ。実は、僕は牡蠣に目がないのである。北海道で牡蠣の本場といったら厚岸、一度本場で賞味してみたいと思っていた。今日は食ってばっかりの1日、ウヒヒ・・・そんな僕を乗せて、列車は順調にコトコト走る。天気も上々で、厚岸湾もまぶしいほどに輝いている。

 実は、牡蠣を食べるお店まですでに決めているのだ。事前にTsに教えてもらった道の駅コンキリエ(駅歩5分)に勇んで向かうと・・・定休日!道の駅のレストランが月曜定休!!そんな!!!目の前が暗くなる、とはまさにこのこと。案内看板には焼き牡蠣やら生牡蠣やらといろんな文字が踊っているのだが、僕にとっては八つ当たりの対象でしかない。食い物の恨みは恐ろしいのじゃあ!トボトボと駅に戻り、他に選択肢がないので駅前の食堂に入り“焼き牡蠣定食”を食べることにした。実はあまり期待していなかったのだが、厚岸の牡蠣の実力は想像以上!牡蠣がお好きな方には「いいから厚岸行って食ってこい」とアドバイスしたい。ただし、焼き牡蠣はごはんと味噌汁にあわない・・・

コンキリエにて、ガッカリしながら厚岸湖を撮影。
画面中央付近で、牡蠣が養殖されています。

 


厚岸(1318)―釧路(1405) 5632D 厚岸→釧路
 なんやかや言って、実は御満悦で戻りの列車に乗った。列車に乗るまで、これが今回の旅で最後の列車利用だということに気づかなかったほどだ。発車してしばし、ぼーっと雪に覆われた原野を見ていたら、もう旅も終わりなんだな、ということに気づいたのである。そんなことを考えていたちょうどそのときに、列車が妙な速度の落としかたをした。駅はまだだぞ?すると、窓の外に4頭のエゾシカがいた。北海道でエゾシカが出てくるのはそんなに珍しいことではないというが、僕がこの目で野生のエゾシカを見たのは、このときが初めてだったのだ。奇遇にもばったり出会っちゃいましたといった雰囲気だが、まさに偶然である。エゾシカは怪訝そうにこちらを眺めている。こちらは好奇の目であちらを眺める。これで、見たかったモノを全部見たなという気がした(なお、あとは野生の熊を見ることができたら完璧なのだが、そんなキケンな動物観察は願い下げである)。


釧路駅前(1420)―釧路空港(1510) 阿寒バス 空港連絡線
 もうやることがないので空港でのんびりしようと、予定よりもずいぶん早いバスに乗ってしまった。車内はガラガラだったが、なんだか異常に暑い。日ざしがあるので、空調と直射日光の総攻撃だ。ウトウトしているうちに、汗だくになってしまっていたほどである。

 釧路空港は、僕が想像していたよりもずっと大きな空港だった・・・これは比較の問題だと思うが、僕が基準としていたのは羽田や千歳ではなく、女満別空港である。それと同じようなちっぽけな空港だと思っていたのだ。だから、予想よりお土産屋が豊富にあっておもしろい!・・・しつこくくり返すが、“比較の問題”である。

 空港では、展望デッキでのんきに飛行機の写真でも撮ろうと思っていた。ところが、なんと展望デッキが有料である。わずか50円とはいえ、なんでまた料金が必要なのか、理解に苦しむ。でも、不満はあるクセにお金を払ってしまうのが弱いところ。余ったフィルム処理のつもりだったのだが、風があって寒く、シャッターを切るのがキツい。


釧路空港(1715)―旭川空港(1755) HAC6504便 SAAB340B
 実は、今回の旅で“念願の飛行機”である北海道エアシステム利用だ。これが日本国内で初めてのプロペラ機搭乗、しかも定員わずかに36名というカワイイ機材なので、どんなモノなのか経験したかったのである。いそいそと搭乗すると・・・通路の天井が低い。身長175cmの僕はちょっと頭がつかえ気味なので、屈まなければならないのだ。そして、1+2という座席の配列!僕は窓側のみの1列の座席だった。

これが北海道エアシステム(HAC)のSAAB340機。

 

 乗客10名、乗員が機長さん1人に客室乗務員さん1名!乗客乗員総数が自己最低記録をブッチギリで更新する少人数で、HAC機は離陸した。でも、プロペラ機のいいところは速度が遅い(時速350km)のと飛行高度が低い(高度3700m)ので、地上がよく見えるということだ。夕暮れの北海道上空を、のんびりと飛行する。だが、わずかに飛行時間33分。あらら、もう着いちゃったの?


旭川空港
 旭川空港は(釧路空港と同様に)、想像していたよりも大きな空港だった。ビルは新しくできてすぐなのだろう。とてもきれいな上、3階までの吹き抜けスペースが広いので、まったく狭苦しさを感じない。とても明るくて開放的なのが好ましい。そんな空港内は、僕が乗る羽田行きの便が満席だからだろう、若い人を中心にごった返していた。

 レストランはどこも長蛇の列だったのだが、まだお腹に余裕があるので、どんな行列も僕には関係がない。そこで、ベンチが並んだ場所の片隅のスタンドでビールだけ買って、大きな窓から外を眺めることにした。もう日はとっぷりと暮れ、滑走路を照らす水銀灯は、さっきから降っている雪を照らしていた。

 漆黒の夜空を背景にして、水銀灯の光に照らされた雪を見ていたら、突然、泣きそうになった。もちろん、もうすぐ旅も終わりだという残念さがあったことは間違いないのだが、他にも言葉にならない思いが、僕の胸の中を駆け巡っていたである。それが涙腺を刺激したのだ、などと冷静さを装うものの、やはり泣きそうであることは変わらなかった。もう二度と北海道に来ないと宣言したわけではないのに。旅行記を書くのが最後だというつもりで北海道に来ただけのに。

 僕の中で、北海道が終わった。

 

 

 

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