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第3日目(8月24日・木曜日)

 7:30のモーニング・コールで目が覚めた。それまでぐっすり眠れたのだから、悪くない。蚊に刺されたところが痒かったが、それもいつしか忘れてしまったほどだ。朝食もビュッフェ・スタイルだがメニューはシンプル、ソーセージにスクランブルエッグにお粥にジュースにコーヒーといったところだ。お粥は病院用語で言うところの“全粥くだき”。どーしてここまで砕くのかと思うが、梅干しとよくあうから不思議だ(ちなみに、添乗員さんはじめ一行のいろいろな人が、いろいろな調味料を持ってきていた。事前の“食事は単調”という注意が徹底している。そんな僕も梅干しのみ持参)。お粥は食べてもすぐにお腹が空いてしまうので、ちょっと多めに食べる。

 9時にティンプーを出発して、向かうはプナカ。道中、いくつかの場所に立ち寄ることになっている。最初に向かうのはシムトカという街にあるシムトカ・ゾン、要塞でありお寺であるという、政治と宗教が融合した場所だ。現在は要塞として使われてはいないが、山肌にそびえるゾンは、要塞だった時代の影が見える。そんな場所に入るには、カメラ・帽子・傘禁止。ガイドのゲンボさんも“カムニ”というマフラーみたいなのを肩から腰にまわして懸けた。そうすることで正装になるのだそうな。

シムトカ・ゾンの外観(注・天気がよかった翌日に撮影した写真です)。

 

 中はチベット仏教の魅力が溢れていた。釘を使わない建築、壁に描かれた極彩色の仏画、本堂に入ればバターで作ったランプがあり、独特の九鈷もある。せっかくだからと般若心経をみんなでお唱えしたら、そこそこ偉そうな坊さんが経文を彫ってある版木を買わないか、ともちかけてきた。なんでそんなものを売ろうとするのか謎だが、貴重なものであるには違いない。先生が700Nu(1750円)で購入した。

ゾンの内部に描かれていた壁画(写真撮影可能箇所)。

 

 外に出ると、雨が降っている。雨季だから当然だろうが、これでは景色が良く分からない。まあ、これから3000m超のドチュ峠を越えるのだ、それまでに天候は変わるだろうと(妙な)楽観をし、バスに揺られる。途中、昨日のチュゾンのようにチェック・ポイントがあった。ドライバーのチミ氏がチェックを受けている間に、検問所の隣の露天を冷やかすが、買いたいと思うようなものはなに一つ売っていない。

 そこから走ること15分、11:05にドチュ峠のてっぺんに着いた。天気はあいかわらずイマイチで、雨が降っていないのが幸い、といった程度である。峠の茶屋があり、そこでお茶休憩というのでバスの外に出ると、息苦しくはないがさすがに寒い。気温は15度以下だろう。早くあったかいお茶が飲みたい。そう言えば、去年行ったネパールでは紅茶がおいしかった。ブータンでも期待を・・・そんな思いとは裏腹に、茶屋の人はポットの中にティーバッグを入れてじゃぶじゃぶやっている。

 いろんなお土産物(でも高い)を売っている茶屋を出て、ちょっとだけ歩いてみる。峠の頂上は悪魔が集まりやすいそうで、無数のダルシンがそこらじゅうに立てられている。遠くから見ると洗濯物のようにも見えるが、敬虔かつまじめな国だということが、改めて感じられる。

ドチュ峠のてっぺんにて。

 

 ドチュ峠を出ると、バスは一気に下ってゆく。しばらく行って、写真撮影休憩があった。僕たちのいる山から向かいの山、はては向こうの山まで棚田が広がっている。平地の少ない場所に生きる人間の逞しさを感じずにはいられない。

 山を下るにつれて、天候が回復してきた。カンカン照りになったところで、今日の宿となるドラゴンズネストリゾート・ゲストハウスに、13時半に到着。バスを出ると、ムワっと暑さが襲ってくる。天候が回復したためか、かなり暑い。30度は優に超えているはずだ。

 ここでまずは昼食である。メニューはいつもと一緒で、特に目新しいものはない。ただし、フルーツの大皿にきゅうりが載っている(きゅうりはフルーツか?)。また、僕たちが陣取った席の近くにヒルがいる。さらに、ミネラルウォーターのキャップが色落ちし、僕の手が真っ青になる。ついでに、ここで飲んだ“レッドパンダ・ビール”がまずい。だし汁の香りがするし、なんかビンの中に沈殿物が・・・

 波乱万丈の食事を終え、午後最初の目的地は古都プナカにあるプナカ・ゾン。プナカは温暖なため、50年ほど前までは“冬の首都”であり、現在でも冬には宗教界のトップ・大僧正猊下(輪廻転生なさる)がお住まいになられるという。例によってカメラは禁止というのでチミ氏に預け、中に入る。普通、ゾンは山肌にあるのだが、ここは例外で川の合流地点の平地にある。そのせいか、数年前に水害で大きなダメージを受け、一部修復中とのこと。外装はすでにできあがり、内装がもうちょっと、といったところか。超巨大な釈尊像の前で、またしても般若心経をお唱えするという。僕は導師をお勤めし、感激。

プナカ・ゾンを遠望。左がモ(母)川、右がポ(父)川。

左側から見ると、こういった感じ。(写真提供・H先生)

 

 汗をかきかき参拝を終え、次にめざすはウォンディ・フォダンのゾン。もと来た道を戻り、ホテルの前を通り過ぎてから行くのだそうな。走ること40分ほどで、ゾンを遠望できるポイントにきた。ゾンは川の反対側という位置で、お約束の写真撮影休憩である。プナカ・ゾンと違い、こちらは小高い山(丘かな?)の尾根の先っぽにあるので、見上げる格好で写真を撮る。撮り終え、ふとそのへんの茂みを見ると、ウチワサボテンが生えている。熱帯のような気候だからか、ティンプーでは見られないような植物が多く茂っている(僕に植物の知識がないのが残念!)のである。ウチワサボテンを切っているブータン人がいて、聞くとブタのエサにするそうな。

ウチワサボテンはこういったもの(プナカ・ゾン付近で撮影)。

山だか丘だか微妙な高さにあるウォンディ・フォダンのゾン。

 

 対岸のゾンに向かって橋を渡る直前にチェック・ポイントがあり、またしてもしばし待たされる。その間、チェック・ポイントの横を流れる川(プナカ・ゾンのところで合流した川である。名称失念)を眺める。だいぶ水かさが増していて、雨季の魅力爆発だ。川にかかる橋の橋脚に水位が書かれているが、字が小さくて見えない。ゲンボさんがアッサリと読んでくれたが、僕にはまるで見えない。こっちはメガネをかけ、しかもカメラを105mmに望遠して見ているのに・・・ちなみに、肝心の水位は“見る”ことに専念し過ぎて失念。

 ちょっと日が暮れてきた17時半にウォンディ・フォダンのゾンに到着。尾根の先っぽにあるから眺めはいいし、風も心地よい。ただし、ここのゾンは拝観禁止なので、警備兵がいるところから中を覗かせてもらうだけである。中庭には1本の菩提樹があり、その葉を皆さんはほしがった。近くにいた少年僧に頼んで葉っぱをとってもらうが、さすがに少年、背が低い。そこで、少年僧は棒で葉をたた落としはじめた。こりゃあ先輩僧に叱られるんじゃないかなあ。

ゾンの駐車場から見た、対岸の棚田。

 

 ゾンからほど近いウォンディ・フォダンの街で、ミニ自由行動となった。街の中心(と勝手に仮定)の広場をぐるっと店が取り囲んでいるが、それで街全部のような気がする。とりあえず、喉が乾いたのでテキトーな店に飛び込み、ペプシを買おうとする。ところが、店にいた面長スキンヘッドのおじいさんは英語ができない。「ペプシプリーズ」が通じないのである。おじいさんは別の客を捕まえて通訳に仕立て上げた。なんとか通じたようで、おじいさんは店の冷蔵庫から牛肉の固まりをどっこいしょと取り出し、その奥からよく冷えたペプシを出してくれた。300ml入りのビンで12Nu(30円)。おじさんにありがとう(「カディン・チェ・ラ!」)と言って店を後にし、別の店へ。そこではブータン唯一の新聞『クェンセル』(毎週土曜日発売)のゾンカ語版を20Nu(50円)で購入した。行きのドゥック機内で手に入れた英語版とつけあわせると、写真や割り付けはまったく同じで、言語が違うだけのようである。

ペプシに舌鼓を打ちつつ、店のおじさん&愛犬と国際交流を深める筆者。
(写真提供・Zuiさん)


これが新聞『クェンセル』のゾンカ語版。記事の内容は・・・不明。

 

 ホテルに戻ったのは19時だった。ところが・・・電気がつかない。僕たちの棟と隣の棟のみ電気がつかない。夕食後までに直る(ホントか?)というので、まずは食事へ。相変わらずのメニューだが、なぜか飽きない。問題はビールで、今回はアルコール度8.75%の「スーパーストロングビール」を飲むが、ハッキリ言ってまずい。ああ、ブラック・ラベル!

 食事が終わっても案の定電気はつかず、電気がつく別の部屋に変えてもらう。この日の宿泊客は僕たち一行だけなので、なんとでもなったのが幸いだ。その後、川を臨むホテルの中庭の芝生で、車座になって酒を飲んだ。風が気持ちよく、たかだか屋外で酒を飲んでいるだけなのに、なんだかとんでもない贅沢をしている気がした。

 

第4日目につづく

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