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第8日目(8月29日・火曜日)

 さすがに日が変わるまで歌ってたせいか、午前5時起床はキツい。まあ、飛行機に乗るまでのガマンだ。朝食は、ほとんど毎食出るポテトのクリーム煮がうまいが、とうがらしの辛さもちょっと懐かしい気がした。そのせいか、辛くないと「サビぬき」のような気がする(我ながらワガママな意見である)。

 荷造りは前夜のうちにやっておいたので気楽。さらに、“国際線のチェック・インは出発2時間前”という常識もブータンにはない。だって、飛行機は1機だけだもの・・・90分前くらいに(なんとなく)空港に着けばいいということで、ゆったり行動する。問題は、ちょっと霧が濃いことか?飛行機は飛ぶのかが少し心配。と、このように書くと、落ち着いた1日のスタートのようだが、そんなことはない。添乗員さんの部屋の鍵が壊れて荷物が出せなかったり、成田で買ったブランデーのビンを落っことして割ってしまったり・・・なかなか“フツーの1日”はやってこない。

 空港に着いたのは、出発の70分前。もちろんなんの問題もなくチェック・インできたが、なぜか手荷物を3回もX線にかけさせられた。X線のモニタを見つめる人の中に、明らかに“そのへんの子供”がいる。やっぱブータン、のんきな国だと思う反面、おおらかさに感心せずにはいられない。そして、ゲンボさん・チミ氏と握手して別れる。そのとき、ゲンボさんに「今度は彼女をエスコートして、また来てくださいね」と言われた。彼女?まさか、僕の隣に立っているZuiのことを指しているのでは・・・Zuiもそれに気づき、2人同時に「No〜〜〜!」と叫ぶ。感傷もへったくれもない出国だ。

にぎわいを見せる(?)パロ空港出国ロビー

いまさらですが、左がゲンボさん(撮影は第3日目。写真提供・鈴ぽちぇさん)。
肩にかけてまわしているのが正装のしるしでもあるカムニというもの。
右がチミ氏(撮影は第5日目。写真提供・鈴ぽちぇさん)。


僕のパスポートに押されたブータンの印。四角いのがビザ、左の丸が入国印、右の丸が出国印。

 

 天気は相変わらず悪い。雨は降っていないし、飛行機も準備万端で駐機しているのだが、なんせ有視界飛行限定のパロ空港は、霧にめっぽう弱いのだ。なんせ、滑走路の向こうのちょっと山の上にあるドゥック・ホテル(宿泊したホテルね)が見えないのだ。また、滑走路の向こうにある山の稜線も見えない。こりゃー遅延は決定的だ。まあ、しばらく待てば晴れてくるんじゃないのかなあ?出国審査の先のこぎれいな待合室で、とりあえず待つ。

 8時を過ぎ、遅延時間が40分になろうとするころにお茶のサーヴィスがあった。遅延してゴメンなさい、といったところか。お茶にビスケット程度だったが、売店もないところでひたすら待っているのだから、うれしい限りだ。問題は、“いつ飛ぶのか”といった類いの案内がまるでないこと・・・

ドゥック航空のパウチャー(この日は画像が少ないので、ちょっとムリしてます)。

 

 8:50(80分遅延)、だいぶ空が明るくなってきた。まだ霧が山にかかっているが、だいぶ薄くなってきたとも言える。そんな状態で搭乗が始まった。まず、建物からぶらぶらと100m歩き、駐機している飛行機のところへ。そこで、その辺に並んでいるスーツケースから自分のを探し、職員にチェックしてもらう。それが格納庫に積まれたことを見送って、本人が機内に入るのだ。のんきな国なのに、妙なところが厳重である。厳重さと関係があるのか定かではないが、僕たちが席に着いたころに高僧が(ファーストクラスに)乗ってきた。偉そうな兵士が見送りの敬礼を(1人で)しているのだから、きっとVIPなんだろう。そんな多様な人々を乗せたKB122便が離陸したのは、9:08のことだった。相変わらず軽やかな飛行機だが、滑走路上を走る距離がちょっと長いような気がした。ちょっとでも長くブータンの地に足をつけていたいでしょ?というサーヴィスのように思えた。

 飛び立ってしまえば、あとは真っ白な雲の中である。待つほどなく機内食が配られたので、ここではベジタブル料理にしてみた。パンケーキはうまいのだが、ナンはギトギト、しかもポテトは激辛!でも、とうがらしと比べれば大したことはない。なんやかやで、おいしくいただいた。

 ちょうど1時間でインドのカルカッタに到着、行きのバングラディッシュと同じように、ここでも給油である。またしてもタラップから半身を乗り出したら・・・暑い!ハンパじゃなく暑い。さすがにインド、もうブータンからは遠いのだ。そう言えば、着陸直前に見えた風景はブータンではなかった。多くの人と車が行き交うインドなのだ。

 降りた人がいるので、せっかくだから後ろの方の窓際の席に移ってみた。客室乗務員も文句を言わないからいいんだろう。すると、カルカッタからバンコクまで乗る人がやってきた。自由席みたいなものだから、空いている席に次々と座る。ここで乗ってきた人々は、みんな「インドを1ヶ月放浪しました」みたいな人ばかりで、僕の隣の席にはテルアビブ出身のイスラエル人が座った。挨拶がない。

 けっこう長く給油し、インディアン・エアラインズの飛行機に追いかけられながら滑走路へ。滑走路手前でずいぶん止まってから飛び立った。待つほどなく、食前酒が出てきた。ブータン時間で11:45、さっき食事をしてから2時間しか経っていない。あんまりお腹は空いていないが、とりあえずベジタブルを選択すると、2種類のカレーが出てきた。片方には豆腐のようなものが入っているが・・・?また、見るからに辛そうな赤い物体が、ミニ・カップに入っている。これはとうがらしだろうと予想して手をつけず、生野菜へ。おっ、インゲンがのっているぞ。一口でパクっと・・・とうがらしだ!まさか飛行機の中でとうがらしとは!!水をもらわなかったので、食卓に水分がない(ビールはすでに飲み終えていた)。辛さに耐える僕と、隣でおいしそうに赤い物体を食べるイスラエル人。くやしいので、一昨日に僕をとうがらしの世界に招待してくださった方に、そのインゲン食べてくださいよ、と勧めた。逆襲大成功!

 食後のコーヒーを飲んでいるころから、急に揺れが激しくなった。外は雲だらけで真っ白、モンスーンの影響だろう。たまにポコっと機体が落ちる感じがする。コーヒーが飲みづらい状況だ。ホントは少し寝るつもりだったが、揺れが気持ち悪いので眠れない。飛行機はけっこう揺れ続けた。

 結局、定刻よりも2時間15分遅れ、やっとのことでタイ時間15:00(ブータン時間14:00)にバンコク・ドンムアン空港に到着した。小さい飛行機だから、気流の悪いところを避けたのだろう。まあ、無事に着いたからよかったよかった。うだるような暑さの中でバスに乗ってターミナルに向かうと、クーラーが気持ちいい。そこで添乗員さんが「1週間ぶりのクーラーでーす」。そうだ、そんな文明の利器なんてブータンになかったんだ。

 入国審査を済ませて荷物を受け取り空港の建物の外に出ると・・・スコールだった。着陸したときは薄日も差していたような気がするが、とにかくみごとなくらいの土砂降り。スーツケースをバスのトランクにしまうだけで濡れそうな勢いだ。しばし雨が弱まるのを待つが、20分待ってもラチがあかないので、ホテルに出発することにした。

 ホテルは、初日に泊まったラマ・ガーデン・ホテル。ごく当然の時間のチェック・インなので、ウェルカム・ドリンクだって出てくる(甘ったる!)。ジュースを飲んで部屋へ。すると、なんと部屋のドアに禁煙マークがくっついている。なんと禁煙フロア!しかし、禁煙部屋を好んで頼んだわけではない。そのうちボーイが灰皿を持ってきてくれた。

 部屋に落ち着く間もなく、まだ雨が降っている市内にバスで向かう。日航組は今夜の便で帰国してしまうため、全員揃ってする最後の食事だ。タイの宮廷料理が出るそうだが、レストランまでちょっと距離があるらしい。バスは順調に走る。ところが、途中信号でハマったところで、信号が変わらなくなった。十字路の右折待ちにひっかかっただけで、なんと14分の停車!そりゃー渋滞するよな。

 レストランでは、きれいな民族衣装を着た女性が出迎えてくれた(エアコンが効いているので寒そうである)。肝心の料理だが、宮廷料理と言っても初めて食べる料理だから、ありがたいという気はしない。まずは世界三大スープの一つであるトム・ヤム・クン。辛いのかと思っていたら、最初は酸っぱい。喉越しがグっと辛いのだが、後味は辛さがスっと引き、香草の香りが鼻から抜けてゆく。ただし、確かにおいしいけれど味噌汁のように毎日毎食でも食べたくなるかと言えば、やっぱり日本人の僕としてはダメだ。こういうのは、たまにだからいい。

 他にもいろいろな料理を食べたが、印象に残るほどおいしかったのはレッドカレー。一口目は甘く、後味が少しだけ辛い。味わうと奥行きがあって、香辛料の匂いで辟易することもない。カレーの中に入っているとり肉は柔らかく、噛めばほっくりと身が割れる。レッドカレーだけで、ご飯3杯はカタいところだ。

 食事が終わってしまうと、いよいよ別れである。日航で一足早く帰る人たちと一緒にドン・ムアン空港へ。道は大渋滞、飛行機のチェック・インに間に合うか心配したほどだったが、いつしか道は空いた。日航組と手を振って別れてふとバスの中を見回すと、人数が半分になってしまったせいか、とても寂しく思えた。

 しかし、こんな感傷的なことばで1日は終わらないのである。今朝は早かったし、明日も早いのだが、夜はこの日も大いに盛り上がった。残ったことで、少数精鋭となってしまったのだ・・・

 

第9日目につづく

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