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第3日目(2月26日・金曜日)

 今日は朝から目玉となる観光だ。ヒマラヤ遊覧飛行である。時間にして1時間程度のフライトらしいが、山はたっぷり見えるだろう。心配なのはやや曇りぎみの天気だが、良くなることを期待しよう。飛行機の出発は8:00とのことだが、全員が窓際を取れるよう、朝食をとって6:45に出発した。

 今日は国内線のターミナルから搭乗である。といっても、建物は貧弱(屋根は高いけど平屋・2階が展望台的屋上)だ。まず目につくのは、チェック・イン・カウンターに置いてある大きな秤だ。これで量られるのだろうか?でも、手続きを終えたラビンさんは秤を乗り越え、ボディ・チェックの前まで一気に通過した。ラビンさんは諸注意として「放送はほとんどないから、注意して。あと、ライターは持ち込み禁止(!)だから、靴下とかに隠して下さい」と言った。気になったので聞いてみると、ライターは不可なのに、マッチはOKだという不思議。なお、外国人でもこれは適用される(どっちにしろ、国内線も機内は禁煙)。

 遊覧飛行はガイドしないで待ってると言うラビンさんを残し、まずはボディ・チェック。ライターは靴下の中に隠したけど・・・何もなくあっさりOK。チケットにスタンプを押しただけだ。その先にある出発ロビーは、20m四方くらいの薄暗い部屋で、売店が1軒、トイレが1つ、ベンチがいっぱい。ゲートは3つあるけれど、単に滑走路に面したドアが3つあって、そこに1〜3のゲート番号がついているだけである。しかも、使用されているのはゲート(ドア)2だけだ。その向こうには、飛行機まで連れてってくれるバスが数台停まっている。航空会社ごとにバスを用意しているのだ。僕達が搭乗するのはネコン・エアー(3Z)のマウンテン・フライト便だが、まるで案内がない。ポカラ行きや他の国内便は飛んでいるのに、こちらは8時を過ぎても案内されない。

 やっと案内されたのは8時半過ぎだった。おんぼろのバスで200mくらい走ると、なんとプロペラ機だ。しかもわずか44人乗り。セスナで行くのかと思ってたからそれよりは大きいのだが、これが僕の人生で初のプロペラ機かと思うと、かなり恐い。タラップを登り、着席すると飴が配られた。素早いサービスには感心。他のお客さんは西洋人が多いようだ。そんな機内だったが、このフライトはたったの15分で終わってしまった。天候が悪く、山が見えないから引き返す、とのことだった。仕方ないけど、残念。でも大丈夫、後日の日程に余裕があるし、1回キャンセルしたって料金は払い戻してくれる。

「次はブッダ・エアー(BA)でアタックしましょう。ブッダ・エアーの方が飛行機が新しいから高くまで飛べるし、全員窓際の席もらえますね」はラビンさんの言葉。でも、このマウンテン・フライトを現地で申し込むと99米ドルなのに、僕達は旅行会社を通じて申し込んだから、160米ドルも払っている。なんかこんなにハネられているのかと思うと、なんとも嫌な気分だ。

 さあ、今度はポカラへ向かう国内線だ。ラビンさんはみんなに山が見えるようにと、進行方向右側の席をとってくれた。搭乗するのは3Zの129便。「ほんとは10:30発の飛行機だったんだけど、10:10発の便が9人しかいないって言うから、そっちにしました。時間は30分で着きます。機内食も出ます」とラビンさんが言う。30分のフライトで機内食・・・ともかく、長々と待った出発ロビー(って言うより、待合室だな)で、再び待つ。時間が遅くなってきたせいか、人も出てきた。インド人の新婚旅行客が目立つ(花嫁は入れ墨=1週間で消える=をするので、見れば分かる)。僕はトイレに行った。個室に行くと、ちょうど出てきたインド人とすれ違う。ナイス・タイミング!でもトイレの床は水浸しで、しかもインド人は流していかなかった。ひょっとして、このトイレは水洗なのに流れないのではないか?済ませてからレバーをグリグリいじると、水は豪快に流れた。

 待ち時間に、ラビンさんが持っていたネパールの新聞で、ネパール語(デーヴァナーガリー文字)の読解練習。1年間勉強したけれど、半分読めるか読めないか、といったところだ。Kさんはサンスクリット語を大分勉強されているので、ほとんど読める。さすがだ。Dさんは売店でコーラを買ってきた。70Rs(140円)もするのだから、安くはない。しかし、コーラの味なんて世界共通のようで、なんか違う。甘ったるいぞ。

 10:10になった。そろそろ案内されてもいいが、まったくそういった気配がない。10:30になってもだ。ネパールの飛行機は遅延や欠航が多いと聞いていたが、今日は実感しっぱなしだ。どうも、10;10のフライトは客が少ないので、欠航になったのではないだろうか。実際に案内されたのは11:00過ぎだった。乗ったのは遊覧飛行と同じ、44人乗りのプロペラ機である。カトマンドゥ―ポカラ便といえば、日本でいうなら羽田―大阪(または福岡、もしくは札幌)のような、空の幹線である。それがプロペラ機なのだから、ひょっとしてネパールの国内便にジェット機は飛んでいないのだろうか?ともかく、3Z129便はほぼ満席だった。僕達以外は新婚インド人だらけだ。例によって飴がお盆に載せられて回ってきた。日本人は1個しか取らないが、インド人はわしづかみに取る。

 遠くに、ヒマラヤが見える。でも雲が多く、雪をいただいた山なのか、雲なのか、判断がしづらい。よかったことは、プロペラ機だから高度と速度が大したことなく、地上が良く見えたことだろうか。乾期だから赤茶けたところが目立つが、ハゲ山ではない。棚田である。棚田が、そこらへんにあるのだ。基本的にこの地域には広い平地がないから、農業は棚田に頼るしかない。それが眼下に広がっているのである。その中に貧弱な道がひかれ、民家が4〜5軒づつ点在している。こういった民家では、水をどうやって確保しているのだろう?他にも、生活必需品は?こういった民家にも行ってみたいが、このツアーにそういった予定はない。

 日本人が「山」といったらまず富士山を想像するように、ネパール人が「山」といったらマチャプチャレ(魚の尾の意。6993m)であるらしい。ネパール人が好きな山が、ポカラ近郊にある。噂の「機内食」(サンドイッチ2個とジュース)を食べながら外を見ていると、雲がかかって全貌は分からないが、その周辺のアンナプルナ山系とともに、そんな山が近付いてきた。ラビンさんがあの山が・・・と教えてくれる。飛行機の高度も下がってきている。まもなくポカラだ。カトマンドゥよりも民家がまばらで、もちろん高層ビルなんてモノはない。高度はぐんぐん下がっている。

 カトマンドゥからポカラまではわずかに200km。新幹線があったら1時間という距離だが、本当に30分で着いてしまうというのがものすごい。バスでは8時間もかかるらしいが、ともかく飛行機はあっさりと着陸した。小さなプロペラ機だから、ターミナルに向かうのもすばやい。着陸・減速・Uターンをいっぺんにやったみたいだ。滑走路の隣の広場みたいなところに、飛行機は無造作に停まった。タラップを降りてビックリ!ターミナルなんてモノはなく、建物はわずかに2階建て、広めの民家みたいだ。そのわずか50m手前に停まったのである。もちろん建物までは徒歩である。

 ホテルの車で、まずホテルに荷物を置きに移動。道ばたでは牛が昼寝している。「野良牛ね」とラビンさんは言うが、ヒンドゥー教の神様は、かわいそうな扱われ方だ。10分ほどで、今日・明日泊まるシャングリラ・ヴィレッジという、これまた高級ホテルに着いた。ロビーでちょっと休むと、さっそく食事に出発。目指すはフィッシュ・テイル・ロッジという別のホテルだ。バンに揺られて10分、ペワ湖(ネパールで2番目か3番目の大きさ)の湖岸に着いた。車を降り、ここからいかだで対岸に渡る。ハッキリ言って手漕ぎボートの方が速いが、観光客向けなのだろう。対岸に着くと、もうそこがフィッシュ・テイル・ロッジである。ここは小渕首相(当時はなんかの大臣。その時に小渕氏をガイドしたのがラビンさんだったそうだ)も泊まったことがあるホテルだそうだが、僕達は食事だけだ。出てきたのはスパイシーなチキン料理。やたらとうまく感じた。ブロイラーでないからだろうか?レストランの外には赤いシャクナゲが咲いている。シャクナゲはネパールの国花だと、ラビンさんが教えてくれた。

 食後にひと休みしてから、市内観光だ。旅行会社のバンで効率良く回る。国王の別荘の脇を通り抜け(明日から王様が来るらしく、ものものしい)、まずはヒンドゥー教のビンドゥバシニ寺院へ。ヒンドゥー教の寺院だから、生け贄を捧げる場所があって、あたりは血だらけだ。でも、午後に生け贄を捧げることはあまりないらしい。寺院内は閑散としている(ただし、広くはない)し、よく見れば血もすっかり乾いてしまっている。で、そのへんにある石造りの仏像に妙に色がついている。ヒンドゥー教徒がおでこにくっつける色の粉をくっつけてあるそうな。ラビンさんが、僕達のおでこに赤い色粉をくっつけてくれた。にせヒンドゥー教徒の集団に早変わりである。敷地内の僧堂には小さな坊さん(10歳前後ではないか?)がいて、お布施(金額任意・相場はない)をするとおでこに改めて色粉をつけてくれて、短いお経をあげてくれる。純真な目をした坊さんだ。かわいいねと言いながら僧堂を出て、靴を履きながらふと振り返ると、その坊さんは僕達がお布施したお金を数えていた。

 そこからバンが待っているところに戻ろうとすると、露店商が何人かいる。「ミルダケ、ミルダケ」と言って勧誘してくるが、もちろん買わない。バンが動き出してからラビンさんが相場を教えてくれたが、安っぽい飾り物に10倍をふっかけていたことが判明。

 次はオールド・バザール。商業の中心はすでにニュー・バザールに移ってしまっているから、活気はない。ひっそりと落ち着いた街だ。道の両側にはネパールの伝統的3階建ての家が並んでいる。静かすぎるので、空家になってるのだろうと思って中に入ろうとしたら、3階からおじさんが顔をだした。あらら、人が住んでるのか。

 他にもニュー・バザール(すごい活気!)、マヘンドラ橋下の峡谷(すっげー高!)、チベット村(買わないってば)、デビッド・フォール(デビッドさんかわいそう)も見たが、全部『地球の歩き方』に載っていることに(たった今)気がついた。観光的な説明は省略したい。ラビンさんのガイドはそれよりも詳しかったが、もちろん覚えていない。『地球の歩き方』に載ってなかったのはガート(火葬場)だが、観光地ではないし、誰かを火葬しているわけではなかったから、特に記すことはない。ただ、幅広い峡谷を上から見下ろすかたちになるので、見晴しはよかった。

 こうしてホテルに戻ったが、まだ日は高い。しばし自由行動にして、明日行く予定だった民族舞踊を今夜見に行きます、とラビンさんが言った。ホテルを出るのは17:30というから、まだ2時間もある。ひと休みと言うみなさんを残し、荷物を部屋に置いて身軽にし、僕とDさんは自転車を借りて出かけてみよう、とさっそく出発した。

 自転車はホテルのフロントで借りられる。僕が英語で自転車を借りたいんだけどと言うと、あっさり通じた(うれしい)。1時間で50Rsという。サドルが安定しないマウンテン・バイクで走り出すと、わずか100mでチェンパした。直そうとすると、近くにいた兄ちゃん達がわらわらと集まってきて、直してくれた。金取られるかな?と思いながら直してもらうと、金はいいから店を見ていけ、という。後でまた来るからとその場を離れたが、Dさんの「あとでジュースでも買ってあげなよ」との言葉に納得した。どうせ1時間後には戻ってくるのだから。

 とりあえず、適当に走る。空港の滑走路と平行に走るメイン・ストリート(と勝手に仮定)を、空港から離れる方に走ってみる。やや下り坂だから、帰りは大変だ。とくに店を冷やかすでもなく、走る。道路脇には野良牛・野良豚・野良ヤギ・野良北京ダック・・・買い物でもしてみようと、市内観光で行ったニュー・バザールをめざすが、地図を部屋に置いてきてしまったので、どこだかわからない。結局適当な店でスルヤという高級たばこ(50Rs・100円)を買い、ホテルに戻る。ホテル直前、チェンパを直してくれた店でコーラを飲んだ。ビンコーラで、よく冷えている。ビンは返すかと聞かれたので返すと言ったら、料金は20Rs(40円)だった。他にも首飾り(とてもネックレスとは言えない)や絵画、着色した葉脈標本なんかも売っていた(無理矢理見させられた)が、買わない。Dさんは首飾りを買ったが、部屋に戻ってからまじまじと見つつ「東京でこれを見たら、なんでこんなの買っちゃったんだろうと思うんだろうなあ・・・」とポツリ。

 バンで10分、空港の向いのホテルで、民族舞踊を見る。敷地内に別の建物があって、先客は子供ばかり4人だった。演奏者が5人くらい(よく交代する)、民俗舞踊はけっこうハードな踊りだ。小さな女の子(小学生くらい)がかわいい。先客の子供たち(幼稚園くらい)はステージなんて関係なく大騒ぎだ。 ネパールの地ブランデー(まずくない)を飲みながら、ステージを見る。それにしても、先客のこどもたちはうるさい。保護者はどこだ!と思ったら、後でラビンさんが「楽団員の子供」と教えてくれた。楽団員も昼間はこのホテルのボーイだそうな。最後にみんなで踊って、大満足。

 夕食はシャングリラ・ヴィレッジに戻ってヴァイキング。唐辛子の煮込みがあって、恐ろしく辛い。ラビンさんは辛いのが好きとのことで、平気な顔をして食べているが、僕達は汗をかきまくりだ。そんな辛いものをたっぷり食べた。食後はホテルの中庭でボーイが3人、民俗楽器(サーランギ=弦楽器・横笛=名称聞いてない・太鼓=名称忘れた)を演奏していた。1時間以上聞いていただろうか、最後まで残った大阪から来たお姉さんと僕は、サーランギの弾き方を教えてもらった。ヴァイオリンと原理は同じだが、簡単にはいくわけがない。で、そのサーランギを売ってくれると言うのだが、2300Rs(4600円)も僕は持っていない。注意一秒、怪我一生。ここは民俗音楽カセットテープで我慢しよう。こちらは250RS(500円)、帰り際に3人にチップを渡し、いい気分で部屋に戻った。

 部屋はけっこう広いが、なんとダブルベッド。初めてだ。よく見るとシングルベッドを2つくっつけてあるだけで、カバーだけが2つをいっぺんに覆っているだけで、ルームメイトのDさんと温もりを共有することはない。でも、Dさんは僕のベッドに速攻でやってきた。お約束を先にやられて、ちょっとくやしい。


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