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第6日目(3月1日・月曜日)

 今日最初の目玉は、3日目に果たせなかったヒマラヤ遊覧飛行からスタート。7:00にホテルを出たが、すでに遠くにヒマラヤが見えている。すばらしい天気だ。ラビンさんも今日は大丈夫と太鼓判を押してくれた。こんなにいい天気は、なかなかないらしい。今回の遊覧飛行は「みんなに窓際の席に座れる」ブッダ・エアー(BA)の便である。ブッダ・エアー・・・まさか涅槃まで連れてってくれはしないだろうか・・・

 僕達が乗るBA110便は、確かに全員が窓際の席だった。なんてったって20人乗りのもちろんプロペラ機、座席は通路を挟んで1列づつしかない。窓際しか席がないのだ。それはさておき、山が良く見える!視界がとてもよく、西はマナスル(8163m)から東はカンチェンジュンガ(8586m・世界第3位)までバッチリだ。このマウンテン・フライトではサービスで順番にコック・ピットに入らせてもらえるのだが、僕が入った時には、目の前にちょうどチョモランマ(8868m・言わずと知れた最高峰)がそびえ立っていた。飛行機の高度よりも山の方が高いのだから、ものすごい。あんなところにつっこんだら捜索も大変だ・・・なんて考えていたら、あっさりと僕の番は終わってしまった。

 こういう楽しい経験は、あっという間に終わってしまうものだ。飛行機はもう引き返しはじめた。下には氷河が見える。そんなにどんどん流れるものではないが、こんなものが形成されることは、まさにものすごい。帰りは下ばかり見ていたら、いつの間にか山から離れてきた。下も緑の山と、棚田が目立ちはじめている。それでも、この下の標高は3000mはあるのではないか?そんなところで生活を営んでいる人がいることを思うと、人間もすごい。そんなことを考えていたら、お土産用遊覧ヴィデオとチョモランマがプリントされたTシャツの販売が始まった。BAの商魂もすごい。ついTシャツを買ってしまったが、さすがに観光用価格で500RS(1000円)。冷静に考えるともったいない。まあ、いい記念だ。

 ところが、このフライトの機長もだいぶ乱暴だった。窓のすぐ下には、山の尾根があったりする。もうちょっと進入角度を考えろよ!飛行機はグイグイと高度を下げ、昨日の3Z機と同じようにどすんと着陸した。

 大地というのはいい。こんなにも安定しているんだから・・・なんてばかなことを考えながら空港を後にする。ラビンさんは「良く見えた?」とニコニコ顔だ。僕達が乗ったいつものバンは、まずパシュパティナートへ。ここはネパール最大のヒンドゥー寺院で、火葬場がある。ちょうど火葬をしているところだったが、その下の川は乾期だからか、水は少ないし、何よりも汚い。こんなところに流されなくてはならない死者は、かわいそうだ。寺院の中にはヒンドゥー教徒以外は入れないから、川の対岸から眺める。そこには男根を祀ったモノ(崇拝の対象)が並んでいて、なんかすごい。その周りにはニセ修行者(僕が近付くと、写真を撮れと言わんばかりにヨガを始めた。ヨガができるのなら、ちゃんと修行しろよ!)が数人いる。観光客も多いので、おもちゃみたいなサーランギを売る人も多い。Dさんが250Rsでサーランギを買ったが、これは楽器としての性能には欠ける。なんせ弦が針金だし、チューニングだってできない。

 さて、僕は友人の「アンモナイトを買ってこい」というリクエストに答えるべく、露店に立ち寄った。大昔は海底だったネパールでは、アンモナイトなんていくらでもとれるそうだ。偽物を作るよりも、本物を探した方が早いという。ラビンさんに「50Rsが相場」と教えてもらっていたので、ふっかけたってだまされないぞ。さあ、いくらだ?
「600Rs」
何?600!?ざーけんな。外国人観光客だと思ってナメてるな。はったりをかまそう(以下、本当は片言英語のやり取りです)。

「昨日ポカラで、45Rsで見たよ」(実は、アンモナイト売りさえ見ていない)
「そんなことはない。これはすばらしい商品だから、600Rsだ」
「これと同じのを45Rsで見たんだよ。600Rsなんて持ってない。いらないや」
「ちょっと待て。400Rsにしよう。これでどうだ?」
「高いってば」
「いったいいくらならいいんだ?」
「60Rs」
「帰れ!」
こうして、交渉はけんか別れに終わった。でも、実は120円と800円の対決だった。

 次に向かったのは、カトマンドゥの隣に位置する古都・パタン。と言っても、空港からホテルに向かう時に右折する信号を直進すればもうパタン市内なのだから、カトマンドゥから出た気がしない。で、ここで見学したのは“ネパールの金閣寺”ことゴールデン・テンプル(キンキラキンだ)、マハボーダ寺院(床に腹ばいにまでなる究極の倒地礼!)、マチェンドラナートなど。観光的な記述は『地球の歩き方』にまかせ、ここではお祭りのことを書かねばなるまい。

 この日は、『ホーリー』という年に1度の“色”のお祭りの日だった。この日は、「水をかけられるかもしれないから、濡れてもいい格好で」というラビンさんの言葉に従い、僕は上半身が黒いTシャツ、下半身はそろそろ取り替えたいジーンズをはいていた。特に、外国人観光客なんかは狙われるらしい。何が狙われるのかよく分からないが、とりあえず濡れてもいい=汚れてもいいと考え、それなりの格好を考えた。また、普段は適当に車をとめて、少し歩いてから観光スポットに入るのだが、今日は観光スポットギリギリまで車で入るという警戒ぶりである。???どんな祭りなんだろう???

 マハボーダ寺院を出て車に戻ろうとすると、顔中に真っ赤な絵の具(に見えた)を塗りたくった少年達が、ニコニコしながらこちらに近付いてきた。建物の上からは、たま〜に水が降ってくる。どーなるんだ?と思っていたら、大学院生のみなさんはよろこんで顔に色を塗ってもらっている。うへー、たまんないな。そこはうまく逃げてしまった。

 マチェンドラナート前で車を降りると、こちらはさらに不穏(?)な空気が流れている。Dさんが道ばたの商店で、顔に塗られた色の元(真っ赤な色の粉。ヒンドゥー教徒がおでこにくっつける顔料。15Rs)を買い、戦闘体制を整えた。やる気だこの人・・・ここでも僕は及び腰だった。

 マチェンドラナートの中は、広場(けっこう広い)のようになっていた。子供達がいっぱいいる。ここで、ネパール人の子供が待ち構えていた。いつの間にか、Kさん、Hさん、Dさんは走り出していた。カメラやヴィデオを持った他の面々は、隅っこに固まっている。僕はとりあえず隅っこにいたが、いきなり背中に水の玉(水風船を投げあう)をぶつけられた。これで、僕の中の何かが弾けてしまった。あとはあまり覚えていない。とにかく走り回り、こちらもDさんの買った色粉で武装し、子供達と投げあいだ。すると高校生くらいの少年達もいつの間にか参加し(彼等は顔中銀色だ)、僕の顔も一部銀色になった。Tシャツなんかは、黒を着た意味がないくらい赤い。そんなこんなで戦いが終わり、みんな集めて記念撮影。真っ赤な顔をして(もちろん酔っぱらっているわけではない)バンに戻ると、運転手も笑っていた。ネパール人なら、みんなこの祭りを知っているのだ。

 昼食は自由にという予定だったが、夕食の中華を自由に変更して昼食にまわし、しかも中華を変更して「もう1度ネパール料理を食べに行こう」ということになった。ラビンさんが会社と掛け合い、渋っていた会社のスタッフにOKを出させた。敏腕ガイドのラビンさん、この人に頼むと、ほとんどがOKになるから頼もしい。

 こうして昨日のネパール料理店「バンチャ・ガール」へ向かう。車で走っていると、すぐ脇を銀色少年を満載したトラックが追い越していった。向こうもこちらに気付いたらしい。お互いに超ハイテンションで叫ぶ(イェ〜イ!)と、それで通じたような気がした。ついでに、T字路で信号待ちしていたら、こちらが停まっている方に、信号に従って象(木を積んでいる)が右折してきた。象!?ラビンさんは驚かないが、まさか首都の道路を象・・・こうして、あちこちで戦乱の爪痕(笑)の残る市内を走り、「バンチャ・ガール」についた。僕達一行はみなとんでもない格好をしているのに、店のスタッフは笑顔で迎えてくれる。店員も少年時代を思い出したのかな?メニューはカレー、かなり辛い!でも胃の調子はそんなに悪くなかったので、食べ過ぎない程度にお腹いっぱい食べた。

 こうしてホテルに戻り、自由行動となったのである。もちろん、ホテルでもポーター達に大ウケだ。事情を知らない外国人は、笑うか呆れてるかのどちらかだった。でも、こちらは今にも思い出し笑いをしそうである。こんな経験、滅多にできないぜ!

 部屋に戻ってから改めて鏡を見ると、ものすごい色になっていた。とりあえず顔だけは洗った(2回洗ったら落ちた)が、再び出かける気は満々、どうせ汚れるだろうから、着替えるのは無駄だ。Dさん、Kさんとともに街に出ることにした。3人とも「(できれば)何か買い物がしたいな」と考えがまとまり、昨日行ったダルバール広場に向かうことにした。1時間も歩けば着くはずだ。でも、着かなかった。

 外に出たとたん、僕達はお祭りモードに再突入してしまった。5分も歩かないうちに商店で色粉・水風船(20Rs)・水鉄砲(ピストン式・125Rs)を買って、道路の向いにいる子供達との戦いだ。水はというと、その店の親父がバケツに水を汲んで持ってきてくれた。電柱の陰に隠れながら水風船を作り、色粉を濡らして塗り付けられるようにし、そして投げた。お祭りだからか交通量は極めて少なく、思いっきり道路を駆けまわれる(たまに車が通るが、子供が平気で飛び出すので危なっかしい)。でもここは標高1300mのカトマンドゥだ。すぐに息切れしてしまう。そんなことをやっていると、敵は意外なところから僕達に水をかけた。なんと、背後の建物の屋上である。うへぇ〜・・・

 遊び疲れたので、初期の目的通りにダルバール広場を目指す。ただし、歩いていても突然水をかけられたりするから、気は抜けない。かけられた水が臭かった時は、泣きそうになる。なんの水だよ!臭いぞ!しかも頭からかぶったぞ!

 どんどん歩いたが、ダルバール広場がどこにあるか分からない。もう30分以上も歩き続けて、さすがに疲れた。テンプー(原チャに後部座席と幌をくっつけた、安価なタクシー)に乗ってみようということになったが、前はしょちゅう声をかけてきたテンプーが、お祭りだからかまるで走っていない。やっと走ってきたテンプーの運転手は、案の定ふっかけてきた。『地球の歩き方』によれば初乗りは3Rs(加算制)とあるが、オヤジは50Rsと言う。さすがにネパール物価に慣れた僕達は、高いと言って歩き出した。するとオヤジは50mほど追いかけてきて、30Rsでどうだと言う。20Rsだろ!とか言いたいところだったが、今日はお祭り。町中お祭り物価になってしまっているのかも知れない。さらにオヤジは「30Rsだと1人10Rsづつだ」と分かりやすい勧誘をしてきた。いいかげん足もだるいので30Rsで交渉決定、乗り込むと床が抜けかけていた。

 時間にすると乗っていたのは10分もかからなかっただろうが、テンプーは上り坂を喘ぎながら昇り、やっとこさダルバール広場に着いた。昨日より人出はずっと少ない。さっそくアンモナイト売りを見つけたが、600Rsと言われてあっさり交渉断念。結局1枚250RsというTシャツを2枚430Rs(交渉したら即OKだった。もう少し安くできたはずだ)で買い、コーラを飲み(15Rs)、おみやげにとたばこ(けっこう気に入っているスルヤ・45Rs)を買い、今度はメータータクシーでホテルに戻った。そのタクシーは初代ブルーバード、なぜかメーターを使ってなくて価格交渉となったが、100Rsと言うのを80Rsで乗った。メーターが動いていれば、この3分の1のはずだが・・・

 部屋に戻り、まず風呂で洗いまくった。そして夕食は別館のレストランでカレー。本当に鶏がうまい。カレー自体もうまい。ナンが巨大なので驚いたが、ともかく帰国したらしばらくカレーは食べられないだろう。夜はお決まりのカジノで、500Rsを速攻でスッてしまった。手持ちのお金は残り200Rsもない。まあ、もう使うことはないだろうし、余らせても仕方ないし・・・


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