考古学のおやつ

月を見たことありますか?

萬維網考古夜話 第22話 20/Apr/1999

試しにアクセスランキングを作ってみました。前話が最高記録を塗り替えたんですけど、先週は全体のアクセス数自体が300以上あったので、比率で言えば、2位、3位に入った「偏在する考古学情報」のシリーズ(第15話第20話)のアクセス数が、やっぱりすごいですね。みなさん、共感しておられるということでしょうか。

(30/Dec/2002補足)アクセスランキングは46話までで更新が止まっていたので,2002年12月30日に廃止しました。

なお、今回は考古学の話がほとんど出てきません。あしからずm(_ _)m。


最近も、月がどうやってできたのか、新しい研究が発表されているようです。きまぐれNEWSLINKでも、そこまでフォローしとけばよかったですね。考古学とは直接関係ないですけど。

月のでき方は関係ないにしても、月の存在そのものは、人間の生活に重要な意味を持ってますね。

月は衛星としては大きい方(だからその「出生の秘密」が科学者の興味をそそる)なので、非常に大きな潮汐力があり、生業にも関わってきます。

1年を当たり前のように12ヶ月に区切るのも、月のおかげですよね。太陽暦になっても、やっぱり12ヶ月です。月を基準にした太陰暦があったおかげで、世界の異なる土地の文明も1年を12ヶ月で区切ることができたわけです。12進法に特別な意味を与えるのも、同様ですよね。もし、月がなくて、12という数字に与えられた意味がもっと軽かったら、時間の単位とかも国ごとにバラバラになって、世界のよその土地の現地時間と日本時間との換算が七面倒くさくなっていたかも知れません。当然スピードとかエネルギーの単位も混乱してたでしょうね。

人類は、地球を共有する以前に太陽と月を共有していたのです。

NATOとユーゴスラビアの戦争を見ていると、まだ地球を共有できてない気がしますね。

ケプラーが火星の衛星が2個だと予想できたのも、月があったおかげです。彼は、地球には衛星が1個(月)、木星には衛星が4個(当時知られていた、いわゆるガリレオ衛星)だから、間にある火星の衛星が2個なら、1,2,4で等比級数になると考えたのです。え?そんなの偶然で、全然科学的でないって?偶然かどうか、科学的かどうかの問題じゃないですよ。ケプラーは宇宙が数学的に整った秩序で構成されていると考えて、仮説を立て、その仮説の検証のために観測や研究を行った訳です。今にして思えば、まったく非科学的な考えだったけれども、現在得られた正しい結論も、その非科学的な仮説のもとに科学者が努力した結果ではないですか。もし、ケプラーのような明確なモデルなしに、何の仮説も展望もなく観測や研究をしても、目前の事実を見逃して時を過ごすだけだと思うんですけど。考古学だって、そうでしょう(程度問題でしょうけど)。

宇宙開発も、目前に月という手頃な目標がなかったら、もっと違う道筋を辿ったことでしょう。

これがさらに文学だとかの分野になると、月がなかったら大変なんでしょうが、私は(文学部卒なのに)文学とか苦手なので、一切省略に従います(^^;ゞ。

そういえば、柳田理科雄さんが、月がなくなった場合の問題を挙げておられましたね。

月がなくなると、日食が起こらなくなって天文観測に支障をきたすとか、旧暦が使えなくなって大安も仏滅もなくなるとか、狼男が変身できなくなるとか、セーラームーンのお仕置きが受けられなくなるとか、影響は計り知れない。
(柳田理科雄,1998,『空想非科学大全』,メディアワークス,94ページ)

だそうです。

どうでもいいんですけど、この本の参考文献を改めて見たら、「ぎゅわんぶらあ自己中心派」が挙がってました。どこかで参考にしてたっけ?

私も学生時代は家庭教師という悪徳商法をやってました。何が悪徳商法ったって、どう考えても時給が高いんですもの。昨年度私がやった大学の非常勤講師の方が安かったかも知れないんです。授業しながら、「この学生たちのバイト料の方が高いのか……」と思うと……て話は今日の主題じゃありません。

私が最後に行った家庭教師先では、そこの小学生の子供の、中学受験のための有名進学塾に入るための塾を受験するための勉強を見てやることになりました。これ、意味わかります?私にはいまだに納得いかないんですけど、生まれたときからずっと東京にいる人は、これで当たり前なんでしょうか。はっきり言ってムダなんだと思うんですけど。

でも、そこは悪徳商法ですから、「バカみたいですね」なんて言わず、この仕事を引き受けたわけです。

とはいえ、この子は勉強ができるんですね。国語も算数もよくできるんです。今さら一体何を教えればいいんでしょう(^^;ゞ。私の方が教えてもらおうかな?それでも時々不思議なことがあって、この子は平面図形の問題はめっぽう強いのに、立体の問題になると全然ダメなんですね。なんでこんなに極端に違うかなー。

「なんか、いい子だけど、変な子だなー」と思ったある日。その日は月の満ち欠けの話でした。いつもはどんな問題でもすぐできてしまうのに、今日は全然ダメです。どうしたんだろう??まさか……。

どうしても疑惑がはらえなくて、その子に聞いてみました。

白井 > 月って、見たことある?
子供 > ない……。

え〜?ホントにそうなの?そんなのはテレビの中だけの絵空事だと思ってたのに。実際に月を見たことない子なんているのか。実際に月を見上げた体験がないから、月の満ち欠けなんて、想像もつかなかったんですね。

そうすると、その子の極端な得意・不得意の格差もわかってきました。紙の上だけでカタがつく分野はお得意なのですが、実体験を要するものや3次元のものはからっきしダメなのです。……一番当たって欲しくない推測が当たってしまいました。

もし、その日が雨の日でなかったら、窓を開けて月を見せてあげることもできたのですが、運が悪い日はあるものです。

そこで、私は地球儀とボールを借りて、勉強部屋中を駆け回って、月がなぜ欠けて見えるか(……と言っても、その子は欠けた月を見たことはなかったのですが)を説明したのでした。こんなことしても実体験にかなうはずもなく心中「こんなの、ムダだよなぁ」と思いつつ、でも、この際それしか思いつかないじゃないですか。

決められた時間が過ぎた後、私は「言っちゃいけない」と思いながらも、でも、やっぱり言ってしまいました。

「お子さんは月を見たことがないんですか?」

教育ママ(死語(^^;ゞ……であって欲しい)の手先になって、おとなしくしてた方が、法外なバイト料も入ってくるし、私にとってもよかったのでしょうが、以前から「この子は無理やり勉強させられてかわいそう」と思ってたので、つい言ってしまったんですね。お母さんもいきなり妙なこと言われて困ってましたけど。

「もうちょっと、遊ばせてあげることも必要ではないかと思いますが。」

その家の人が、私の言葉をどう受け取ったのか、定かではありませんが、その翌週、私は家庭教師をクビになりました。一応聞かされた理由は、

「最近、うちの子は疲れてるみたいなので。」

と言うことでした。何言ってんでしょう。私が初めて会った日から、あの子は勉強させられるのがいやで、疲れ切った顔してたのに。理由はほかのところにあるのでしょう。もし、私の言うことももっともだと思ってくれたゆえの結論なら、それもまたいいのですが、そうじゃないかも。

やっぱり紙の上だけじゃダメですよね。少なくとも、考古学には向かないなー(その子は考古学者なんか目指してませんでしたけど)。

もうすぐこどもの日ですね。私もだんだんと、親たちの方に歳が近くなって来ましたが、お子さまをお持ちのみなさん、お子さんは月を見たことありますか。


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