考古学のおやつ

公正なる仲買人−偏在する考古学情報

萬維網考古夜話 第20話 6/Apr/1999

第15話 考古学者,応答せよに続き、「偏在する考古学情報」の2回目です。


世の中には平気でウソをつける人もいます。

「中にはそんな人もいるだろう」と思っていても、会う人ごとに疑ってかかる訳にもいかないので、一応は性善説で対処しなければならないのですが、ウソつく人は「これはウソです」とわかるようには話さないので(当たり前)、思わぬところでひっかかったりします。

この世でウソつきほど、他人からの信頼を勝ち取ることに躍起になっている人々はいないでしょう。私もウソつき並みに努力すれば、もっと人から信頼されるかも……って、何言ってんだかわかりませんが、ウソつきは、一度疑われたらボロボロと仮面が剥がれ落ちてしまいますから、人から信頼されるために、正直者以上の努力をしています。

単なる嘘つきの話なら、ほえづらコラムに新しい話題を追加すればいいだけのことですが、やはり業界の問題として捉えているので、ここでお話しすることにします。

単なるウソよりたちが悪いのは、相手によって言うことが違うとか、情報の蛇口を操作するというヤツです。そして、それによって生じた情報の隙間で利益を得るわけですね。何たって、それぞれに違うことを伝えた相手双方からの信頼を勝ち得たりしますから(虚構性がわかっちゃった側から見ると、「なんであんな人を信じるんだろうねと失笑ものですが」)。

もう一つうまいのが、即座に(その場にいない)他人のせいにすると言う方法です。

こんな話をしてると、「そんな間抜けな方法に騙されてる方も、どうかしてるのさ。」などと嘲笑する声が聞こえてきそうです。では、断言しておきましょう。

そんなあなたも、とんでもないウソつきを信じ込んでいます。

私もそんな人につきあわされて胃を悪くしたりしました。とりあえず、差し障りのなさそうな例(それだけにおとなしい例ですが)だけ挙げておきましょう(他人の体験談を挙げるという手もありますが、自分の見たことをできるだけ挙げるようにしているので)。

L氏 > 白井君、君が掘った比恵遺跡の鋳造鉄斧は、(弥生)中期だったっけ?
白井 > 中期でしたよ。
L氏 > 中期の前半だっけ、後半だっけ。
白井 > 中期後半です。
L氏 > そうか、ありがとう。

あれれ〜。中期後半の根拠とか、中期後半でもいつごろとか、そういうのはいいの?中期後半でも地域間の並行関係は微妙だし……あ、そうだ、だいたい何のためにこんな質問したのかな?なんかの用事?(だいたい、報告書出してんだから見ろよ(--#!)

後から、別の人からの情報で、これは朝霞市博物館の第1回企画展「あさかの弥生文化−鉄斧とその時代−」(1997年10月14日〜11月24日)に関連した何かの準備のためだったようです。それならそうと言ってくれればいいのに。でも言わないのがL氏の流儀。それどころか、私との先ほどの会話の後は、鉄斧はもとより、朝霞の展覧会の話などついに一度も出なかったのでした。

前話 鉄の掟・予告篇でも少し話が出た朝霞市・向山遺跡の鋳造鉄斧は、鉄器文化研究集会以前に、この展覧会で展示されたのですが、この展覧会の情報自体がほとんど入らず、博物館の電話番号を調べて問い合わせたときは、もう展覧会は終わったと知らされ、仕方なく、カタログの残部の有無と入手方法だけを質問したのでしたToT。

しかし、私から聞き出した情報、L氏はどんな風に使ったんでしょう。気になります。検証の方法もないし。

L氏 > 今までの●●●●●の出土例、集めてる?
白井 > いえ、集めてませんけど、だいたい、大した量は出てませんよね。国内ですか?外国のも?◎◎遺跡で出たときの紹介文に集成が載ってませんでした?あ、そうだ、○○○市の紀要に誰か集成してましたよね。
L氏 > あ、ああ、あれね、あれは日本のだから、韓国の方は、最近出てたかな。
白井 > う〜ん。あんまり聞いてないですけど、それ、何に使うんですか?急ぎですか。
L氏 > あ、ちょっとね。大したことじゃないんだけど。
白井 > 1992年の『▲▲▲▲▲▲』▲の□□に載ってるのでほとんど大丈夫だと思いますけど。
L氏 > そう、忙しいのに、悪かったね。

今回は私も少し警戒してることに気づかれましたでしょうか?やっぱり理由は言ってくれないんですねぇ。でも、もうこのパターンには慣れてますから、「ははぁ、多分どこかで●●●●●が出土して、記者発表前にL氏のところに照会があって、それに答えるためのネタ探しだな」とすっかり察しがついてしまいました。そして、しばらくして本当に●●●●●のことが報道されたのです(地方新聞でしたが、私はしっかりチェックしてました(^^))。

そして今回もパターン通り、それ以後は●●●●●を話題にせず、たまたま話題になっても私に集成について聞いたことなど触れませんでした。やっぱり私の憶測通りだったのかな。まぁ、いつものパターンです。

あ、そうそう。ほえづらコラム1998年12月「文を書けない人々」の第1回「口先だけの人」に登場するのもL氏です。時系列ではこの話が最古。ほ〜んと大活躍ですね、ようやるよ(あきれた……)。

その間に少しは考古学の勉強もして欲しいものです。用語とかも正しく使ったらどうでしょう。単に言葉尻にこだわっているのではありません。用語にこめられた学史や、先学の思想・哲学を歪曲する(……と言うより、わかってない)のが許せないのです。

こんなL氏も業界では「まじめ」とか「責任感が強い」とか思われているそうです。その虚像の演出のためのしわ寄せ担当の苦労も知らずに、みんないい気なもんですね。……そうでした。今回はL氏を攻撃している場合ではありません。ウソつきに「ウソつくな」と言っても始まらない(それもまた必要なことですが)。騙されないことの方が、このページの趣旨でなきゃね。

L氏は情報の流れの中に介在して、その流れを操作して情報の隙間を作りだし、そこで利益(抽象的な意味を含む)を生んでいるわけです。そして、騙される側(カモ)にとっては、L氏は貴重な情報を惜しげもなくくれる人のように見えていることでしょう。そして、その信頼が、逆にL氏に新たな情報の隙間を創出させるチャンスを与えているのです。

ここ何年か、L氏に限らず(実は、もっとひどい人がいたのですが、その事例はひどすぎてお話しできません)情報の隙間に暗躍するウソつき連中につきあわされて、情報から切り離される恐ろしさと、一見情報が得られているように見えることの恐ろしさを両方とも味わいました。

そんなわけで、ある人には言えるけどほかの人には言えないような情報は信じる気が起きません。伝聞だけで「ああかもね、こうかもね」と話をできる人はまさにカモ。「▽▽さんが言ったから信じられる」とかもちょっとね。

情報の隙間に暗躍する人は、一見、おもしろくて重要な情報をいっぱいくれるサンタクロースのような人です。しかし、そこにワナがあるのです。靴下つるして寝床でサンタを待っていては、ホント、カモですよ、カモ。

前話でもお話しした鉄器文化研究会の件を始めとして、情報の隙間に苦しんだ経験から、自分で情報を探そうと思ったのが、このサイトの遠い始まりでした。ネット上には、とんでもないデマや危険な情報もありますが、接続してれば誰でも対等なのが魅力です。相手ごとに違うことを言うなんて、まぁ、できなくもないけど、そんなことより、多くの人に一つの言葉を伝えることが簡単にできます(現実社会ではこちらの方が難しいですね)。残念ながら、一対一の会話には利害が忍び込みやすいですしね。

そんなわけで、偏在する考古学情報、その情報の隙間から抜け出すには、笑顔で近づいてくる公正なる仲買人を介した情報ではなく、よりナマに近く、より多くの人に参照されうるような(多数意見という意味ではない)情報に、自ら近づいて行くべきではないか、と思うのです。残念ながら、それが全てではないけれど。

そして、心苦しいことですが、あなたの周囲に公正なる仲買人のような人(つまり、両手をあげて信じちゃうような人)がいたら、まずその人を疑い、ついでに(当然ながら)「考古学のおやつ」も少しだけ疑ってかかりましょう。


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