考古学のおやつ

破壊された通史

萬維網考古夜話 第39話 9/Sep/1999

前話冷蔵庫サタデーには,内容と無関係な訳のわからないタイトルにもかかわらず(^^;ゞ,歴代4位の96アクセス(7日間)がありました。また,9月7日の火曜日には,新たなコラムの追加がないにもかかわらず,このコーナー,そして当サイト全体に多数のアクセスをいただきました。これは,以前順調にコラムを更新していたころ,火曜日に新作を発表することが多かったためと思われます(我田引水)。

ここしばらく,このコーナーへのアクセスは減ってたし,暑かったし,忙しかったし,●●●●●しで,少し面倒くさくなっていたのですが,まだ需要があるじゃないかと勝手に解釈しました(^^。

ところが気候が涼しくなってくると,今度は夜すぐに眠くなって,全然準備が進みません。困ったもんだ(^^;。

さて,今回は固有名詞一切なしでお送りします。また,いくつかの事例をわざとごちゃ混ぜにしています。フィクションだと思ってお聞きください。


各地で苦労されている埋蔵文化財担当者の皆さんですが,もう9ヶ月も前になるこのコーナーの第1話で,埋文行政が自治体単位で行なわれたことで,考古学情報が地域ごとに蓄積され,それぞれに地域史の構築が試みられた,ということをお話しました。

これは自治体埋文体制の長所だと思っているのですが,逆に,容易に短所にもなりうる部分です。

ある遺跡の重要性を強調するあまり(←けっこう弁護した表現),時にはトンデモな発表が行なわれたりします。そんなことすると,かえって地域史が破壊されて支離滅裂なものになってしまいますから,上でお話したことの正反対の結果になるわけです。

新聞社にまで「おかしいぞ」って指摘されたりして。

遺跡を残すってのは大変なんですが,結果的に残された遺跡を維持していくのは,これまた大変なのかもしれません。

ある遺跡がなぜ残ったのか。さまざまな場合がありますが,理由の一つに(公言されてないかもしれませんが)「普通の遺跡だから」というのがあります(普通の中のすごい方,ということが多いかな)。でも,保存されるからにはプラスアルファが必要なわけで,それは「今だったら,全体像がわかる状態で保存できる。その方が教育的にも効果的。今を逃したらもう無理。」ということだったりします(ちょっと極論)。これ,見方を換えると,遺跡自体の価値だけじゃなく,保存のチャンスや技術的な問題が絡む,という意味でもあります。

それ自体は責められることじゃないとは思うんですが,問題はここからで,過去に同じくらいの規模の遺跡が数多く破壊の憂き目を見たとか,また,保存にこぎつけた遺跡の陰で,いくつもの遺跡が消えていった(いく)という事実にも目を向けなければいけません(専門家の方々は,耳にタコが足八本かも知れませんが)。ところが,遺跡が残せるとなると,その遺跡を必要以上に特殊なものに思ってしまう,ということもあるわけです。そうすると,その遺跡が通史を破壊してしまうことになりかねません。

●●じゃないと思うんだけど,もうそれで発表しちゃったから,それでいくしかない。

う〜ん。そういうものなのでしょうか。何とかなりそうな気もしますが,職場の雰囲気とか,いろいろ事情もあるのでしょう。

まして,遺跡保存がいつの間にか役所の中の勢力争いだの,個人の出世だのに利用される,……なんてことはないんですね。あ,わかりました。(誰と話してんだ?)

そういえば,以前休日に●●●立博物館を訪れたら,ちょうど学芸員の●●●●●さんが一般のお客さんに展示の説明をしていました。一通り終わったところで質問を受けつけたら,一人のおじいさんが進み出て質問しました。

あんたはさっき,●●は●●●でなくて●●●だとわかったと言っておられたが,それは本当に研究の結果わかったんですか。学者の勢力争いの結果そうなったんじゃないでしょうね。考古学にはそれが多いでしょう。

怖い質問をする人です。話題になった件についてはおじいさんの思い過ごしでしたが,でも,一般論としては決して否定できない気もします。そして,残念ながら,「それ」は過去の話ではないような気もします。まぁ,そういう業界の問題点があるから,このコーナーも40回近く続いているわけですが(^^;ゞ。

ちょっと前までは,上の方の世代の変な対立とか派閥とかは,時間が経って自分たちの時代になれば解消すると思っていましたが,どうもそうではないというか,自分の利益を図るために新たな対立軸を創り出そうとしている人もいるような気もするし(溜息)……え,あ,はい,今度こそ話を変えますから(^^;。

ええっと……(台本をめくって),大幅に話がそれたので,元に戻します。

ここからは自分の話もしましょう。関係者なら何の話かバレバレですが(^^;ゞ

ある遺跡の記者発表のとき,時期を●●時代後期後半として,ご丁寧にも西暦年代までつけて発表しました。その時は,複数の人で出土遺物を見て,「これは●●時代後期後半だ」と同意していたのです。

ところが,報告書の作成時期が近くなって,出土遺物を見直したら,●●時代後期後半の遺物は1点もなかったんです(@@;。●●時代中期末くらいのばっかり。一体どうして見間違ったんだろう。やっばー。

もともとちょっと問題のある内容の記者発表だったから,報告書で修正されるのはいいでしょう。自治体の広報誌に載ったような気もしますが,これも報告書が正式ってことで……。でも,ある人にこの件を話したら,顔色変わっちゃいました。

なに?それ,『●●●●●』に書いたぞ。どうしてくれる。

え〜〜!『●●●●●』に?まずいなぁ。それはまずい。学史を歪めたかもしれません(--;。しかも,他人の業績に泥を塗ることに……。恐る恐る『●●●●●』の該当部分を見ました。
あれ?確かに言及はありますが,年代は書いてないですね。どうやら言及を避けておられたらしいのです。あー,よかった。

この件に関心を持っていた他の人にも,連絡を取ってみました。「あのー,年代が違ってたんですけど……」

あ,そうなの?あれって,●●時代中期末の方が辻褄合うから,よかったね(^^。

実は,以前からこの遺物は●●時代中期末と思いながらも,調査担当者の年代観の手前,あまり言わないようにしていたらしいのです。拍子抜けというか,一安心。

結局,年代が修正されたことで,話が通じると考える人が多かったのです。逆に,それまで言われていた(というより,私が言っていた−新聞にも載った−)年代観の方に内心違和感があったらしいのです。

地域の中で見つかった遺跡は,やはり地域の歴史の中に,通史を展望しつつ位置づけられるべきだし,まともな担当者なら,もともとそういう目で遺跡を見ているはずで,通史の中に生きてこない考古資料は,どうしても懐疑的のようです。そこに一発屋みたいな人が介入すると,一見華やかな話だけどおかげで歴史はぐちゃぐちゃ。気をつけましょうね。


と,結局今回は固有名詞まったくなしでお送りしました。というより実は,調べないと話せない内容が,ついに調査不足で間に合わなかったんですね(^^;ゞ(暴露)。次回は何とかしたいんですけど。


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白井克也 Copyright © SHIRAI Katsuya 1999-2005. All rights reserved.