考古学のおやつ

あこがれの松菊里・前篇

萬維網考古夜話 第53話 29/Feb/2000

当サイト冬眠中の2月11日・12日,高知に埋蔵文化財研究集会を聴きに行きました。まず,内容は次の通りです(発表順)。

(^o^)/ 第47回埋蔵文化財研究集会 弥生文化の成立−各地域における弥生文化成立期の具体像−
2000年2月11日(金)〜12日(土):高知県教育会館高知城ホール/高知県高知市(23/Aug/19990,18/Dec/1999)

初日の午前中は聴けなかったのですが,どうやら北部九州の板付I式概念を疑う趣旨の挑発的な発表があって,盛りあがったようです(予想されたことではありますが)。

私は初日午後の,中四国の地域発表から聴いたのですが,聴いて驚きました。各地の古い遠賀川式土器が登場する時期に,松菊里型土器が存在するというのです。中には,「これが松菊里型土器(--;?」と首をひねるような土器や,実際に伴う在地土器が不明確なものもあるようです。

これらの見解をすべて取り入れるならば,いろんな時期いろんな場所に,さまざまな形態松菊里型土器が存在することになってしまいます。挑発的な表現はなかったものの,板付I式概念以前にまず,松菊里型土器の概念が破壊されてしまいそうな勢いです。これは一大事(--;。

しかし,それぞれに松菊里型土器の存在を強調しておられる中四国の人たちに,その概念を破壊する意図はないはずです。なぜこんなことになってしまったのでしょう。

ひょっとして,朝鮮無文土器文化の研究成果について充分に把握しておられないのでは……。懇親会とその2次会の席で取材してみると,案の定です。そこで,今回・次回松菊里をめぐるお話です。なお,話が煩雑なので文字を色分けしたら,よけい煩雑な感じになってしまいました(^^;ゞ。悪しからずm(_ _)m。

また,板付I式をめぐる話の顛末や,今回の研究集会の本質的な部分は,別にふさわしいサイトもあることですし,ここでは触れません。これまた悪しからずm(_ _)m。


研究集会2日目の討論の際,朝鮮半島の集落について見解を求められた武末純一さん(福岡大学)が,無文土器の大まかな編年を

「孔列文土器,先松菊里型土器松菊里型土器,粘土帯土器」

と表現されたので,これを拝借して,松菊里型土器登場までの部分を少し解説すると,こんな感じでしょうか。

実際はもっと細かく編年されていますので,興味がおありの方は家根祥多さん(立命館大学)の編年を読んでみてください。

無文土器編年と北部九州の土器編年との並行関係を考えますと,孔列文土器は縄文晩期に,先松菊里型土器は夜臼式単純期に,松菊里型土器は板付II式以降に,それぞれみられます。

ここで重要なのは,朝鮮半島では,松菊里型土器の時期にのみ松菊里型住居が存在する(存続期間はあまり長くない)という事実です。

松菊里型住居の方の日本での登場時期は,朝鮮半島での限られた存続期間の間に収まるはずですが,この点でも先ほど考えた土器の並行関係とやはり矛盾ありません。

板付I式に伴う無文土器はよく知りませんが,前後の関係から言って,多分松菊里型土器でしょう。

研究集会の初日午後,濱田さんのご報告の中で,松菊里型土器と濱田さんが考える土器(理由は不明)を提示されて,

該期(引用者注:突帯文〜弥生前期を指すらしい)松菊里型住居は未確認である。しかし,前期2〜3式土器(引用者注:この地域最古の遠賀川式土器ではない)に伴う松菊里型土器が認められることから(第18図2),今後,検出される可能性もあろう。」(引用は資料集pp.58-59)

という意味の発言をされました。松菊里型住居松菊里型土器を関連あるものと考えておられるようですが,しかし,朝鮮半島では同じ名前の松菊里型土器松菊里型住居は同時には存在しないのです。たとえ同じ遺跡に両者が存在しても,松菊里型住居から松菊里型土器が出土することはありません。

この事実は後藤直さん(東京大学)が1992年に発表され,同年冬発行の『交流会報』に採録されました(発表のテープ起こしを担当したのは私でした)が,どうやらあまり知られていなかったようです。発行部数が限られているので致し方ないのかもしれません。しかし,北部九州の研究者は経験的に,松菊里型住居よりも遅れて松菊里型土器が北部九州に登場することを知っています(この辺に,地域ごとの認識のずれがある)。

日本では,松菊里型住居が遅い時期まで残りますが,それが後から入ってきた松菊里型土器(あ〜,ややこしい)と何らかの関係を有していたという証拠はあるのでしょうか。日本でしか同時並存しない以上,その関係は(もしあれば)日本のどこかで新たに取り結ばれたことになりますね。

そんなわけで,関係を論証しないままでの「松菊里型土器があるから松菊里型住居もあるだろう」という論理は成り立ちません。


頭が混乱しそうな話になってしまいましたが,そもそも,なぜ時期の違う住居土器に同じ松菊里の名が付いてしまったのでしょうか。それは後篇にて。


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白井克也 Copyright © SHIRAI Katsuya 2000-2014. All rights reserved.