考古学のおやつ

ごみ箱の名前

萬維網考古夜話 第52話 18/Jan/2000

「予告したタイトルと違うぞ」と気づく人はあまりいないと思いますが,今日(1月17日)の夜9時になって,今回の資料を手許に持っていないことに気づいてしまい,いきなりパニックになってしまいました。

う〜ん,何のために7世紀の話を3回も引っ張って時間を稼いだんだか……とつい準備不足の楽屋がばれてしまいます。

そんなわけで,前回同様,資料なしでできる話に限らせていただきます。また陶質土器ネタになってしまいましたが,悪しからずご了承くださいm(_ _)m。


最近は飽きてきてやらなくなりましたが,Windows のデスクトップに転がっているアイコンを適当な画像と名前に入れ替えて,自分用の訳のわからない世界を作ってしまうという遊びがあります。

某アプリケーションのショートカットに,「ファイルの共有」の時に使う手の形のアイコンを割り当てて,「おて」と言う名前をつけてたりしました。

壁紙なんかと一緒にまとめて Web からダウンロードできるのもあるそうですね。Macintosh だったら,こういう遊びはさらにやりやすいのではないかと勝手に想像してます。あの,フロッピーディスクのアイコンをごみ箱に捨てる現実のフロッピーがパソコンから飛び出すってのが,何とも奇怪で,限りなく繰り返してたのを思い出しますねぇ……って,いきなり話がそれてしまいました(^^;ゞ。

パソコンの画面だったら,あの無粋なごみ箱も違った顔と名前にして楽しむこともできますが,さすがに現実のごみ箱に名前をつけて,「ナントカちゃん,紙屑を捨てるからね(^^。」などと呼びかける人はめったにいないでしょう。私もさすがにそこまではやりません。

それはそうと,何の因果か(実際,理由は自分にもわからない)陶質土器なんかを勉強してしまった私は,ときどき第16話みたいに,「これ,何?」と聞かれることがあります。第16話のエピソードは,周りがよくわかっている人ばかりだったので,よかったのですが,ときどき困惑させられることがあります。

と,ここまでの困惑はいつものことで,別に問題じゃないんです。陶質土器って,そうそう良好な出土状況じゃありませんから。問題はこの先です。

あ〜ぁ,やってしまいました。これ,何度目ですかねぇ。答え方が悪かったのかも知れませんが(私のことだからねぇ),でも,どうしてそんなに陶質土器にしたがるんでしょうか。

切れない程度に不愉快になってる状態の人(これもかなり危険)に事情を聞いてみると,どうもその根拠は「須恵器では見たことないから陶質土器だ」ってことだそうです。
なにそれ。なのに私が「陶質土器では見たことがない(し,日本で出てるんだ)から須恵器だ」と考えるのはいけないんですか?どうすりゃいいの(--?

そりゃねぇ,「あれも陶質土器だ,これも渡来人だ」って言ってりゃいいんなら楽ですが(別に特定の人を指しているわけではない),そういうわけにもいきません。

思うに,「須恵器じゃないなら陶質土器だ」って発想の,この場合の「陶質土器」は,例の,「分類のごみ箱」ってヤツですよね。

そう考えると,古墳時代あたりの研究というのは,ごみ箱の受入先をあちこちとめぐってきた研究史という気がします。その昔(あまり遠い昔ではない),新羅焼なんて言葉が生きてた時分は,この言葉は今で言う陶質土器全般を指してました。その後,朝鮮半島で発掘調査や研究が進んでいくと,「変なもの」(と古墳時代の研究者が感じたもの)の押しつけ先がだんだん変わってきて,やれ加耶だ,やれ百済だ,やっぱり加耶の西部だ,いや全羅南道だと忙しいのなんの……。色紙にマジックで名前を書いてごみ箱に貼って遊んでるみたいに見えるのは錯覚でしょうか。

「いや,それは言い過ぎだ。」と言う声はあるでしょう。確かに言い過ぎ。これまでの過程で明らかになったことは多いし,問題意識の高い人もいました。

その中でも特にすごいと思うのは,大阪を中心とした自治体の人たちの研究で,いわゆる韓式系土器の故地の識別(私には到底できない(^^;)を成し遂げ ,それらの器種が土師器の中に取り込まれていく過程を解明し,しかも地域の開発史の中に位置づけたのは特筆すべきです。

そんな業績があることも知りつつ,なお今回みたいな話をしてしまうのは,具体的な目前の遺物の分析はいい感じになってきたとはいえ,古墳時代研究全般,とくにより政治史的な部分は,まだまだごみ箱探しをしているように思えてならないからです。

古墳時代研究者が高句麗と広開土王の影響を評価する度合いは,加耶や新羅の研究者のそれに勝ります。高句麗の南征は,加耶や新羅以上に日本の古墳文化により巨大なインパクトを与えたんですか?広開土王がUFOに載って日本に攻めてきたという説でも飛び出しそうな勢いです:-P。

これを言っちゃいかん,と思いながらも言ってしまいますが,古墳文化の都合で「半島情勢」を創作してるんじゃないか,それを「朝鮮半島の考古学的成果にも関心がある」と表現しているだけではないのか,と勘ぐってしまいそうですね。

足もとの遺物研究とは別に,古墳研究の屋台骨は,どこかにごみ箱をあてがうことで成り立っているような気がしてなりません。いったい次のごみ箱の名前は何になるんでしょう。


さて,先ほどの「須恵器でなければ陶質土器」さん(仮名)は,私の答えではどうしても満足できないようです。今度は韓国の考古学者に,直接聞きに行きました。でも,その人の答えも私の答えとあまり変わりません。どうするのかな?

な〜んか,態度が違いすぎない?


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白井克也 Copyright © SHIRAI Katsuya 2000. All rights reserved.