考古学のおやつ

静止摩擦係数

萬維網考古夜話 第87話 24/Nov/2003

またまた長いこと間があいてしまいました。

どうして間が空くのか,原因はいろいろあるんですが,実は最大の理由は,一度休むと復帰にエネルギーが必要ということです。

当サイトも5年以上続けるうちに,基本的なデータを打ち込むと秀丸エディタのマクロが勝手に整形してくれるというコーナーが多くなって,私の仕事はもとになる情報(新聞記事や展覧会日程)を集める雑用係に転落(ToT)。ふと気づくと,自分でHTMLをガンガン手打ちするのはこのコーナーだけになってしまいました。

それはともかく,秀丸エディタ4.0xは以前にまして機能向上していて,なかなかいいですよ。

逆に言うと,このコーナー,続けないとホントに廃れてしまう危険があるので,何とか1回分くらいは増やしておきましょう。


10月の末ごろ,京都・奈良・滋賀を回ってきましたが,そのときに京都国立博物館の特別展覧会「金色のかざり−金属工芸にみる日本美−」を見てきました。

タイトルどおり工芸品の展覧会ですが,冒頭は考古資料で語り起こされています。章立ては次のとおり。

第1章の冒頭は,なるほどと言うべきか,行者塚古墳(兵庫県加古川市)の帯金具。中国の晋の帯金具との関連が強そうなのですが,日本の出土品とは年代差があって,解釈が難しい遺物です。このあたりの事情は図録の作品解説にかなり詳しく載っています〔p.302〕。

次は新沢千塚126号墳(奈良県橿原市)の方形冠飾と金製指輪。この古墳では,出品作品以外に当コラムでも話題になった熨斗も出土していますし,耳飾やガラス容器も出土しています。


次に鴨稲荷山古墳(滋賀県高島郡高島町)の垂飾付耳飾です。この作品は,中間飾にガラス玉を使っているあたりが特徴的で,図録でも韓国の武寧王陵の耳飾に対比されています。

滋賀県高島郡高島町(鴨稲荷山古墳)は2005年1月1日から高島市

当コラムでも,第72話で韓国の李漢祥氏の論文で同様の見解が示されていることに触れました。鴨稲荷山古墳の耳飾に論点を絞って,改めて李漢祥氏の論点を紹介しましょう。説明の都合上,異例ですがスケッチを使ってご説明しますが,こんな図より本物の方がはるかにすばらしいので,ぜひ会場に足を運びましょう。

この耳飾の主環は中実の金棒である。金糸を利用した連結金具の下端は2個の環のようにつくり,それぞれ金の鎖につながった垂下飾をたらす。中間飾は小環連接半球体2個からなっており,下側の半球体の中には紺色のガラス玉を嵌めこんでいる。その下には2個の心葉形装飾を下げ,垂下飾としている。普通の耳飾はここで終わるのであるが,この耳飾の場合,さらに連結金具の下に金鎖を追加で連結し,端には四翼形装飾を下げている。四翼形装飾の場合,周辺に刻目帯を接合し上下に金粒をつけて装飾している。〔李漢祥2001:70〕

独特の用語なので,なんのことやらという感じですが,まず「主環は中実の金棒」と言うのは,人の耳たぶにつける部分の環(図の一番上)が金の棒を曲げて作っているということです(「中実」は「中空」の対義語)。

金糸を利用した連結金具」と言うのは,図のBでくるくる回っている部品で,ここからほかの部品を貫いてE(下端は2個の環のようにつくり)のところまでつながっています。目に付きにくい部品ですが,耳飾の構造上重要な部品です。今回の展覧会では,このあたりの構造を見て取ることができる(図録のほうがわかりやすいですが)ので,マニアの人は必見です。

ところが,スケッチにもあるように,連結金具の上の端は,現状では主環から外れていて,代わりにAのところに後から補った別の糸で主環と連結金具が繋いであるので,観察されるときはお間違えのないように。

それぞれ金の鎖につながった垂下飾をたらす」はG(鎖)とH(四翼形装飾)ですが,このあたり少し記述が前後しているようですね(^^;。

中間飾は小環連接半球体2個からなっており」と言うのは図のCとDです。「小環連接半球体」と言うのは,金でつくった小さな環(小環)をサッカーボールの多面体デザインのようにお互いに鑞付け(連接)して半球の形にしたもの(半球体)といえばわかりやすいでしょうか。このうち下側のDでは,「紺色のガラス玉を嵌めこんで」います。

その下には2個の心葉形装飾を下げ,垂下飾としている」はFです。

普通の耳飾は」から後は,再びGとHを解説しています。

李漢祥氏は,鴨稲荷山古墳に対する百済耳飾を4例挙げています。武寧王の王妃の耳飾,公州宋山里6号墳の耳飾,梅原考古資料に入っている伝宋山里出土の耳飾,そして陜川玉田M11号墳の耳飾です。

武寧王妃の耳飾は,やたらに派手な作品ですが,細かく見ると,小環連接半球体にガラス玉をはめ込んだ中間飾が,鴨稲荷山古墳に共通しています。また,連結金具が細い金糸で,これを主環に着いた遊環に2回巻き,端を金糸自身にに巻きつけるやり方も同じです。王妃の耳飾は昨年大阪と東京で公開されました。

宋山里6号墳や伝宋山里出土品は,シンプルな耳飾ですが,やはり小環連接球体にガラス玉が入っています。宋山里6号墳では連結金具が金糸です。

陜川玉田M11号墳の耳飾はこれまた複雑ですが,基本的な構造は同じで,ここではガラス玉4個を,それぞれ上下から小環連接半球体が覆っていて,全体を金糸の連結金具が貫いていますが,ガラス玉とガラス玉の間で連結金具の金糸をはみ出させ,そこに心葉形の瓔珞をつけると言う凝ったつくりです。

玉田だけは加耶の領域ですが,玉田古墳群も時期によっていろいろな地域の影響を受けているので,M11号墳の耳飾を百済耳飾とみなしても問題ありません。

さて,対比資料の触れた李漢祥氏は,改めて鴨稲荷山古墳の耳飾が百済耳飾とみなされる根拠を挙げています。

細い金糸を利用して中間飾と垂下飾をぶら下げ,(金糸の上端は)主環に2回巻きつけてさらに横に1回巻いて締めくくっている。このような技法は百済耳飾に一般的に見られるが,新羅や加耶の細鐶耳飾の連結金具とは大きく対照をなすものである。〔李漢祥2001:73〕

新羅の耳飾などでは連結金具は細い短冊形の金板だったりします。

第2は中間飾をなす小環連接半球体とガラス玉の存在である。小環連接半球体は新羅の耳飾と百済の耳飾のいずれにも見られるが,新羅の場合中間飾の一部装飾として使われ,小環連接半球体の下辺に金帯をめぐらして装飾しているのに反し,この耳飾(鴨稲荷山古墳の耳飾)の場合,下辺の帯がない。下辺の帯がない例は武寧王妃の耳飾をはじめとした百済耳飾に多数確認されるものである。特に半球体の中にガラス玉を嵌めるものは百済熊津時期耳飾の重要な特徴であることを想起するなら,鴨稲荷山古墳の耳飾を百済耳飾として捉える必要があろう。〔李漢祥2001:73〕

と,小環連接半球体の作りかたに新羅と違いがあることを指摘しています。

さらに刻目帯が着いた四翼形装飾や心葉形垂下飾の形態は百済武寧王妃の耳飾と酷似している。〔李漢祥2001:73〕

ここでは高霊池山洞45号墳2石槨や本館洞36号墳と対比しています。

こうして類例挙げた李漢祥氏は,年代を検討してかも稲荷山古墳の耳飾を520年代ころに位置づけたのでした〔李漢祥2001:74〕。

さて,寄り道が長くなってしまいましたが,このほかにも,鴨稲荷山古墳では韓国と対比できる大刀馬具が出土していて,しかも須恵器も出土しているので,日本と韓国の並行関係や暦年代を論ずるには欠かせない資料です。

須恵器といえば,まだ陶邑編年以前で古墳の出土土器を編年の基準にしていたころ,鴨稲荷山古墳の須恵器が「水尾式」という基準資料になっていたくらいで,馬具や装身具のみならず須恵器の研究史でも欠かせない古墳ですね。


4番目に登場する作品は西宮山古墳(兵庫県龍野市)の耳飾。こちらは短冊形の連結金具や,小環連接半球体を2つあわせて帯をめぐらした中間飾が使われていて,上の話と比較すれば,新羅の耳飾だと言うことがわかるでしょう。

兵庫県龍野市(西宮山古墳)は2005年10月1日からたつの市

この展覧会は,たった2点の耳飾でもしっかり百済系と新羅系をそろえていたわけですね。

耳飾の後,藤ノ木古墳(奈良県生駒郡斑鳩町),沖ノ島(福岡県宗像郡大島村),宮地嶽古墳(福岡県宗像郡津屋崎町)の,6〜7世紀の馬具を中心とした金工品が展示されていますが,このあたりは同時期の仏教遺品との文様モチーフを比較するために意図的に作品が選ばれているようです。

福岡県宗像郡大島村(沖ノ島)は2005年3月28日から宗像市
福岡県宗像郡津屋崎町(宮地嶽古墳)は2005年1月24日から福津市

このあたりからだんだん私の興味の薄れていくので,後はご自分で観覧していただくと言うことにして(^^;ゞ,ここまでの出品作品には,最近の暦年代とかの問題に絡むものがあって,実物が同時に観察できる得がたい機会といえるでしょう。

ところが図録では,行者塚古墳も新沢千塚126号墳も藤ノ木古墳も,出品作品以外の出土品について言及されているのに,なぜか鴨稲荷山古墳に関しては,大刀や履や馬具や須恵器のことは触れられていません。なぜでしょう?


と,こんなわけなので,秋の展覧会シーズンの締めくくりに京都などはいかがかと,下に展覧会編年表の記事を転載しておきました。

(^o^)/ 金色のかざり−金属工芸にみる日本美−
2003年10月11日(土)〜11月24日(月):京都国立博物館/京都市東山区(26/Jul/2003)

……って,今日までじゃないですか。コラムを載せる暇が見つからないうちに会期もぎりぎりになってしまいました(現在朝7時50分)。火曜日になってから職場でようやくこれをみていると言う人,ごめんなさいm(_ _)m。


今回登場した文献



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