3.霞ヶ関を目指す方へ

(1)霞ヶ関の新人はこんなもん
1)新人研修

 霞ヶ関の国家公務員の場合、新人研修(初任者研修)はャリアとノンキャリアで明確に分けられます

 キャリア組は代々木にて、内閣総理大臣の訓示をはじめとして、全省庁が一堂に会して研修を行うのに対し、ノンキャリア組は各省庁の考え方により、各省庁専用の研修所に集められ、短期間(1週間程度)の研修を受けます。

 この時点ですでにキャリアとノンキャリアは大きな考え方の違い(区別)があるわけです。

 民間企業では一般職/総合職関係なく最初くらいは社長の前で入社式なのでしょうが、国家公務員の世界ではノンキャリアの入社式には社長(大臣)はおろか、副大臣や政務官すら顔を出さないというわけです(今は少しはましになったかも)。

 個人的には、最初は地方局の新人も研修で東京に集まるわけですから、せめてその時くらい大臣か副大臣は顔を出すべきだと思いますが。

 ちなみに、毎年春に人事院主催の「国家公務員」合同初任者研修など派手に写真が出たりしますが、あれはキャリア向け代々木の研修なのですね。
 その他人事院留学や幹部研修、再任用制度、女性幹部登用など、現状ではまずキャリアしか該当しない多くの施策を見ても、人事院が「国家公務員」に対する人事政策を十分にやっているとは思えません。

 超過勤務縮減キャンペーンとか人事行政は総務省がやってますしね。
 今のままなら独立行政法人国家公務員試験機構で十分だと思います。

 それはさておき、私はノンキャリアなので、私の省のノンキャリアの新人研修について少し実態をお話ししたいと思います。
 多くの場合、研修内容もさることながら同期の懇親を深めるというのが重要なポイントです。実際、夜は飲み会が多いのではないでしょうか。
 新人同士積極的に参加し、懇親を深められるべきだと思います。それによって生まれる同期のネットワークは非常に重要です。大学時代などのつながりではなく、役所に入って最初に自分で作った「人脈」というわけです。

 また、省庁によっては各地方局からの人も集まるので、ささやかながら人事交流のチャンスではあります。数年後、もしかしたらそれが生きるかもしれません。

 さて、研修内容はたいていは、自分の省のミッションや予算制度などの大きな話と礼儀作法の練習などでしょう。
 確かに、「駒扱い」と矛盾した内容の講義や、夏の面接の時にパンフレット読んである程度分かっている省庁のミッションなどは退屈でしょう。

 しかし、このうち、「礼儀作法」は是非寝ないでください(笑)。まあ体に覚えさせる面が多いのですが、全く知らないとそうでないのは別ですから。
 着任してから、いい年してファーストフードでバイトをしている高校生より言葉遣いや礼儀がなっていないというのは情けないものです。

 ちなみに、研修所でルールを「大きく」破ったり、実地研修で非常識な行動をとったいりすることは絶対にやめて下さい。
 翌年の新人が被害を被るとともに、特に実地研修の場合、先方にご迷惑をおかけするのは社会人として失格であり、省全体の恥となります。

 その他では、本省においてパソコン研修などもあると思います。
 私の頃は「ソフトは自分で勉強するもの」という考え方だったので、研修をやってもらえるというのは非常に手厚くなったと思います。しかし、ご承知のようにワープロソフトや表計算は習ったからといって身に付くものではないので、そこまで手厚くする必要があるのかなと思います。
 実際、新人はもうネット世代ですからねぇ・・。釈迦に説法のような気も。

2)4月

 当初は、前任者から引継を受け、上司からもある程度業務内容の説明があるでしょう(多忙な部署だと「習うより慣れろ」と称して、それがない(できない)場合もあります)。

 おおむね、着任初日は挨拶回りと引継資料を読んでいるうちに、歓迎会でしょう(省庁によってはその日に研修所へ向かわされるところもありますが)。
 その後については、4月中は研修に行ったり、上司の指示に従って作業をしたり、資料を読んだりしていたら終わってしまうでしょう。

 この段階では、戦力どころか経験者のバイトさんよりレベルが低いというのが現実なので、(残しても意味がないので)勤務時間的にも7〜8時くらいに帰れる課もあるでしょう。 しかし多忙な課だと資料のコピーや作成の手伝い、届け物などで猫の手も借りたいほどなので、そういうところだとそんな扱いでも毎日タクシーということも・・・。

 いずれにせよ、この段階で求められることはとにかく「早く環境に慣れる」ということです。

 具体的には、

・社会人の常識を体に覚えさせること(ビジネスマナー:応対の仕方、電話での言い回しなど)
・課内の業務はどのような業務があるか、そしてその分担(担当者)を把握すること
・他の課室と自分の課との関係を把握すること(担当者との顔つなぎを含む)
・事務機器の使用方法を把握すること(コピーやパソコンソフトなど)
・課や省の基本的な用語やルール(起案とは?決済とは?など)を覚えること

・・などを「徐々に」身につけることでしょう。

 当たり前ですが、雑用は基本的に新人の仕事です。課室来訪者への応対、室内環境整備(※)などさまざまな雑用も余裕がある限り率先して行いましょう。アルバイトさんが休みの場合はその仕事を代わって行うのも当然です。

※コピー回りやプリンターなど散らかった紙の整理、不要ポスターの整理等の室内環境整備、コピー用紙やトナーの交換、補充、メンテナンス業者への連絡など・・。

 ちなみに、これをすべてアルバイトさんに任せておくと、残業時のいざというときにやり方が分からない、助けてくれるアルバイトさんはいない・・という事態に陥ります。

 ちなみに「各府省の若手職員等に対するヒアリング」(内閣官房行政改革推進事務局/公務員制度等改革推進室)が行ったアンケートで「キャリアにコピー取り等の雑用をやらせるな」という元若手キャリアの意見がありますが、こういう発想の若手キャリアはどんどん辞職していただいて欲しいと思います。

 重要な仕事であればあるほど修羅場となる可能性は高く仕事を選んでいる(自分の仕事しかしない)ような人は使い物にならないからです。

 コピー取りについては後述しますが、本当に単なるコピー取りをやらされているとしたら、そのキャリアの評価自体が(その時点では)低いと言うことです。
 いずれにせよ雑用を嫌がる奴に優秀な奴はいない、それは官民共通です。

 さて、忙しい部署になればなるほど、上司は部下を懇切丁寧に面倒を見る暇はありません。
 「引き継いでいるでしょ?」(主旨:前任に確認しろ)「それは確認して」(主旨:そんなことくらい自分で調べろ)など自助努力が期待されます。

 いずれにせよ、身につける事項は多岐に渡りますし、業務によっても異なります。また、現実的には多くはOn The Job Trainingによらざるを得ないでしょう。

 そのうち最優先で身につけるよう心がけることを2つだけ書きます。

 一つは社会人の常識を民間並みで身につけるよう意識することです。

 これはまずは自分で「社会人マナー」に関する市販の本を読み、それを身につけようという意欲と努力によって、そしてそれでも失敗したり周りの注意によって身に付いていくものだと思います。

 私の経験でも、色々勉強したつもりが、民間からの出向の方からの指摘で赤恥をかく危機を何度も脱したり、最初は恥に気付かず、あとになって後悔したりしたものです。

 ただ、こういう努力をしているかしていないかは歴然と分かりますミスと、明らかな非常識は全く異なるからです。
 そして新人の際の恥はまだ大目に見てくれますし、指摘してくれる人もいるでしょうが、年を取るに従ってまず指摘してくれなくなりますから、この時期は重要だと思います。

 二つ目は「常にメモをとる習慣を付ける」こと。言い換えれば「回りから呼ばれたときは必ずメモとペンを持っていく」です。

 これは、自信満々の人にありがちなのですが、「記憶力を過信し、あとになってみて言われたことの半分も理解できておらず、「何聞いてたんだ(怒)」という事態に陥ること」を避けるためです。

 「物事を正確に伝える」というのが仕事では非常に大切です。そして、新人は聞くものの多くが専門用語や初めて聞く単語だったりするわけです。

 そんなとき、メモを取らないと、つい分からない単語を考えてしまい思考がストップし、それ以降の上司の言っていることが上の空になるケースがよくあるわけです。
 しかし、メモをとっていれば、分からない単語をひらがなでとりあえず書いて、最後にその単語について上司に質問したり、あるいは後で調べることもできるわけです。

 これは仕事のやり方を教えてもらうときも同じです。「さっき言っただろ、何でメモしなかったんだ」と怒られるのはばかばかしいことですし、何より上司が同じことを何回も教えてくれるか分かりません。

 ですから新人はまずはノートとメモ用紙を準備の上、言われたことはすべてメモるくらいの感じでやると良いのではないかと思います。

3)ゴールデンウィーク

 やがてゴールデンウィークがやってきます。

 GWについては、休みを取るようお達しが来たり、あたふたしているうちに気が付いたら連休になっており、とまどう人もいるかもしれません。

 実際の業務という観点ではこれは両極端で、例えば国際関係の課の場合は最悪徹夜や休日出勤もありうるでしょう(海外はGWはないですし、また政治家などの「外遊」真っ盛りだからです)。しかし国内専門の課の中には余裕で休める課もあると思います。

 個人的には、休めるときは休むというのが基本だと思います。タクシー帰りが多かった多忙な課であれば、課の業務に差し支えのない範囲内で上司の許可をとって休み、特に「精神的な見えない疲れ」を取るべきだと思います。

 疲れをとるのは非常に重要なことだと思います。

 一方、例えばこれまで終電帰りがまずなく、体調的にも精神的にも問題を感じていなければ、GWはなるべくカレンダー通り出勤も良いと思います。

 GWの余裕のある時期であれば課の雑務のサポートやその暇な時を利用して業務上の書類整理をしたり、これまで上司から言われてメモしたことのまとめ・整理など、やることは十分あると思います。

 上司から言われたメモが書きっぱなしであれば、これからも色々教わることは多いわけで、余裕のある時を利用して整理すると、後々の理解度や成長度が大きく異なると思います。

 スポーツではオフの過ごし方で大きく差が出ると言いますが、役所でも余裕のあるときの過ごし方で大きく差が出ると思います。

4)暑い時期になって・・

 このころになると、雑件など一部の仕事については、ある程度任されるようになっているでしょう。また上司の指示により他の課に発注しているかもしれません。

 もちろん「任される」は、好き勝手やって良いという意味ではなく、上司の指示の前に新人が自分で考えて発注をやってみて、それを上司に確認を求め、上司はケアレスミス以外はOKを出すというイメージです。
(当たり前ですが勝手にやることではありません→勝手にやる権限もないです)

 そうすると、「この案件はどこまで上げれば(了解を得れば)いいのだろう」という問題に直面します。係長止まりか、課長補佐までか、総括補佐までか、課長までか。
 最初は直属上司(多分係長か先輩の係員)に確認しながらやるわけですが、いずれそれも自分で考えることになります。仕事の中身が分かってくれば、仕事の重要度の判断もつくようになるわけです。
 そのあたりもこの時期勉強することだと思います。

 そしてこの時期のポイントの一つは「関心を持つこと」です。言い換えれば「視野を広げる」ということです(いきなり広げると注意力散漫になるので、あくまでもすこしずつ、心がけるということです)。

 少なくとも業務に関係することについては「関心」を持ち、分からない単語を「そのまま固有名詞にしておく」のではなく調べてみてください。広辞苑は結構使いますよ。

 事務の手続きも、マニュアル通りやるのではなく、なぜこういう手順なんだろうと考えたり、上司に上げるときや雑談の時に聞くなどしてみて下さい。

 また新聞なども目を通し、業務関連の一般情報を得ることも大切でしょう。最近はインターネットの発展で、情報が収集しやすいわけですから。
 分からないことを放置しておくのと、きちんと調べてメモしておくのでは、数ヶ月後大きな差が出ます。

 このような「視野を少しずつ広げる」ということがこの時期の成長に非常に重要だと思います。車の運転で言えば、前のめりでハンドルを握っていた時期は終わり、回りを見る時期に来ているということです。良い意味で少しずつ仕事に余裕を持ち始める時期というわけです。

 さて、もう一つは「盗む」ということです。

 前に書きましたように、そろそろまわりを見る余裕が出てくるでしょう。そうした場合、周りの人がどのように仕事をこなしているのか、例えば電話の応対やお客様の応対、仕事のやり方などを見ながら、「良い」と思ったことはまねをしてしまいましょう。

 例えば、最初は歓送迎会の紙や発注など「やっといて」と言われても、どのような言葉を書いて発注したらいいのか分からない人が多いのではないかと思います。

 そこで参考にするのが「前例」です。

 歓送迎会なら前任が作ったものやあなた自身の歓迎会の時の案内紙があるはずです。それらをいくつか並べてみて、良さそうに思ったフレーズや言い回しを盗んでしまうわけです。
 発注なら他の課や上司が依頼したときの発注依頼紙やメールなど既にいくつか手元にあるはずです。それらを見比べて盗んでしまうわけです。

 スポーツの世界では当たり前ですが、何でも教えてもらえるわけはないのです。

 それと、この時期はある程度慣れてきて、慣れからくる油断が生じる頃です。私もこの時期に自らのミスからよく雷を落とされました。
 それは、慣れてきてだんだん省略してしまうのは良いのですが、本来肝心なことまで省略してしまうのです。「省略」ではなく「手を抜く」になってしまったのですね。
 仕事を省略するのは良いが、丁寧に、かつ、確認は(自分なりに)きちっと、というわけですね。

 例えば、発注内容を十分に理解しないで発注すること。慣れるとできるんですね。
 一番多かったパターンが、「前回と同じ」ということで、なぜ前回そのように出したかを全く調べずにやることでした。やはり「前例」には理由があるわけで、それを理解した上で「前例通り」としないといけないわけです。

 あるいは他の課からの発注をそのまま担当へ流してしまうパターンです。発注をよく読まず、内容も十分理解せずに「担当者なら知ってるだろう」という安易なやりかたです。

 こういったミスを避けるためのポイントは「上司であろうと先輩であろうと「何も知らない人」に説明するつもりで話を上げる」ということです。

 そうすると、結局自分が理解しないと説明できないからです。
 そのために多少時間がかかっても、訓練であることはある程度周りは理解してますので、暖かく見てくれるでしょう(もちろんTPOがあります。例えば、急ぎの発注を止めていたら当然怒られます)。

 命じられた仕事をやる立場から少しずつ脱皮していく、そして慣れからくる手抜きをなくし、視野を広げることによるステップアップをするのがこの時期でしょうか。
 

5)その後

 やがては、上司の指示を待つのではなく、内容を理解し、能動的に上司に上げて他課に発注をする日も来ると思います。

 その時自然と業務が行えるかどうかは課内の仕事をきちんと丁寧にやっていたか、だと思います。個人的には今振り返ると「課内での仕事はすべて将来に向けた練習」であったなぁ、と思います。

 例えば、課内レベルの発注では、課内の人はある程度こちらは新人であり、あまりよく知らないということを、厳しい人でもなんだかんだ言っても考慮してくれてます。

 厳しい人でも上司の係長に言うなどして、新人本人が上司以外から厳しく言われることはあまりありません。

 しかし、他の課を相手にした場合はそうはいきません。
 発注内容がいい加減であれば、その内容について厳しく詰められたり、にやりと笑われて突き返されるなどもあります。

 もし、それまで、発注についていろいろと考えて内容を理解した上で適切に発注していれば、他課へ発注したときもおそらくきちんと説明できるはずですから、そういうことはかなりの率で避けられるでしょう。

 逆に、課の人に知らず知らずのうちに甘えてしまった場合−例えば「課内の人はみんな自分(新人)より知っているはずだから」という考えであまり深く考えずに上司に上げてしまうのを繰り返していたなどの場合−は、大変です。

 また、上司の仕事を言われるままやっていた場合も「世間の厳しさ」(笑)を知ることになるでしょう。

 いずれにしてもここまでくると、あとは実践です。

 交渉(ネゴシエート)のやり方も含め、これまで学んだことや見てきたこと(盗んできたこと)、身につけてきたことを活かしつつ自分のスタイルで仕事を進めていくことになるでしょう。

 なお、さんざん偉そうなことを書いてきましたが、私が2年たって異動するとき言われたセリフは「本当にどうなるかと思ったけど、何とか(その課を)卒業できたねぇ」でした(笑。

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