10.いざ、海外出張!

1.国際会議とは?

 国際会議にはいろいろな種類があります。例えば、サミットやAPECのように多くの国が一堂に会して開く会議や、日米首脳会談のように日本と相手国のみの会議です。
 この場合、多国間会議を「マルチ」といい、二国間会合を「バイ」という言い方をします。業務はもちろん「マルチ」のほうが大変です。

 理由は、「マルチ」の場合は、一つに本会議の前後に多くの国々との間で大臣や局長などの「会談」を入れるケースが多いからです。つまり本会議以外の業務として、その相手国との懸案議題について意見交換などを行うからです。もちろん、わざわざセッティングするわけですから、挨拶程度ですまないのがほとんどです。

 さらに、「マルチ」の場合は合意文書についても合意すべき相手が増えます。サミットでの「シェルパ」(事務方代表者)による事前交渉などは良く知られている例だと思います。

 何よりもマルチの方が最近話題の「ロジ」(ロジスティックス→要は会議のセッティングなどの裏方のお仕事)も面倒ですし、また会議前には日本の他省庁との交渉もあり、その「対処方針」のすり合わせも大変だからです。

 しかし、このような皆さんがご存知の有名な会議以外にも、さまざまな会議が開催されています。担当者レベルやせいぜい1省庁の部長や課長がヘッドとなるレベルのものなどです。場合によっては課長補佐レベルと言うのもあります(専門官会合、実務担当者会議なんていう場合です)。

 このような場合は「バイ」だろうが「マルチ」だろうが「大変さ」はあまり関係ないので区別はしません。というのも、こういうケースは1省庁がほとんど取り仕切るため、国内調整の必要があまりなく、課長や課長補佐レベルならそれほど「ロジ」も大変ではないから(自分でやるから)です。

 というわけで、ここでは大臣などが行くような大きい会議と事務方を中心とした会議の2つに分けまして、基本的には「事務方が行く会議」を中心にお話したいと思います。

2.対処方針

 事務方の国際会議の出席は基本的には課長(または室長)などの管理職か課長補佐で、課長の場合は部下が一人同行するケースが多く、課長補佐は一人で行きます。
 この「お付き」はその案件の担当係長のケースがほとんどで、いわば課長の知恵袋、となります。

 もちろん、課長一人で良いではないか、というご意見ももっともですし、そういう場合も結構ありますが、「お付」がつく場合は、?専門的なため部下がいないとなかなか十分に対応が出来ないケースそして?(旅費に余裕があるときですが)部下に経験を積ませるためのケースです。喩えて言えば、営業の方が部下を一緒に連れていき、勉強させるようなものです。(課長の世話をさせるためなどの無駄遣いは今はないと思います。少なくとも私の経験の範囲内では)

 上記以外の場合ですと課長や課長補佐がほかの会議で出張していて人がいない、などの要因がないとなかなか係長一人で出張する機会はありません。
 まあ、最近は人員削減と業務の多様化により、その業務のラインで係長と管理職しかいないケースもあり、そういう場合は係長の出張、ということになります。

 さて、会議にあたっては、事前にその会議への対応について、省内の了承(クリア)をとります。これは会議の大きさによってまちまちですが、最低課長までは(当然ですが)クリアを取ります。

 この場合は会議の概要と、議題ごとの「対処方針」を上に説明し、了承を得ることになります。

 とはいえ、会議によっては直前まで「議題」しかこない場合もあり、そういう場合は困ったことになります。もちろん、その議題が「report」などであれば対処方針は「適宜対処ありたい。」で問題ないのですが、「discussion」の場合は困ったことになります。
 その場合はぎりぎりまで待つか、「見込み」で大まかな対処方針を作り、後は出張者任せ、になります。
 ですから出張者は当然英語ぺらぺら・・と言いたいのですが、実際には国内の担当者は英語がしゃべれないケースもままあり(恥ずかしながら私もそうです)、そういう場合は同行する上司や外務省の方、又は(出席するなら)大使館の方などに現地で説明してお願い、あるいは原稿の棒読みとなります。
 特に外務省から代表者が出る場合は彼が「head of delegation」ですから、代表して彼らがしゃべるので問題ないのです。

 さて、この「対処方針」ですが、基本的に作られるのは日本政府代表として外務省が介在するときです。外務省と関係のない会議の場合(研究者同士の会議など)は作られません。

 そして、他省庁が絡む場合は、他省庁とのすり合わせも勿論必要ですから、外務省を間にはさんで対処方針の書きぶりをめぐってやりあうこともあります。
 通常は外務省は仲介役なので、仲介お疲れ様、というところですが、他方、それが英文になると今度は英文の言い回しについて外務省が問題にし、揉めるケースもあります。

 とはいえ案件の内容(「ロジ」に対して「サブ」(サブスタンス)といいます)は多くは各省庁任せなわけですから、「外交政策」を外務省が独自に打ち出すのは難しいと思います。

 外務省は「外交の一元化」を常々主張し、外国に対しては自分たちが代表、という自負があるのですが、実際、その問題について十分に理解していただいた上で会議に臨んでいるケースが少ないため、事実上それが出来なくなっています

 ですから、政府としての外交の窓口としての存在意義は十分にあると思いますが、「省庁の中の省庁」てな感じで無理する必要はないのではないか、と思います。実際、案件が多様化したこの時代、「特定地域」の情報のみを勉強している外交官に、個別案件を理解するのは難しいと思います。

 欧州情勢の専門家はいても、例えばITや薬事、農業などの専門家がいない、という現実です。
 海外情勢は外務省にお任せしますが、専門案件はやはり各省庁なのです。肩の力を抜いて、各省庁と協調すれば、日本にとってよりいい外交が出来ると思うのですが・・。

 さて、「対処方針」作成に当たっては、議題が多ければ多いほど膨大な量の英文を読む羽目になり、それをもとに省内(課内)説明をした上で作られるものですから、その海外の文書がぎりぎりで届いたり、他省庁ともめたりすると、その出張者や担当者は大変なこととなります

 資料が来るのが遅いので、来たものの範囲で対処方針をセットし、飛行機の中で英文資料や、関係の国内の資料を読むこともあります。しかも、現地で公電の案を作らないといけないので、ラップトップパソコンを持っていかなければならないこともあります。だから役人は手荷物をキャスターで転がして成田を出るケースが多いんですね。

 一度、スポーツ選手みたいに手荷物がほとんどなく颯爽と海外へ行ってみたいものですが・・。

3.出発までの「ロジ」

 時間的には少し前に戻りますが、最近噂になった「ロジ」のお話です。

 外務省の事件をきっかけに、「ロジ」はロジスティックス=後方支援、とテレビで紹介されていました。

 んー、私のイメージとしては、ちょっと違うかな、と。

 確かに間違いではないのですが、そうではなく、むしろ「雑用係」「ツアコン」「幹事」そんなイメージですとわかりやすいかと思います。

 もちろん、誤解のないようにいますと、「雑用」の手を抜くやつはすなわち気配りの出来ないやつですから、民間でも失格なのは当たり前です
 役所でもこの「ロジ」を軽んじる人は出来の悪い人と思っていいただいて間違いありません。
 どんな立派な会談の中身を合意しても、その場所に大臣が着かなければ何の意味もないわけですから。

 私は一度外務省が作ったサミットの「ロジ表」を見たことがありますが、唖然としました。分刻みなんで、しかも、雨天時も別バージョンがあると言う・・。警備の問題がありますので、そういった「ロジ表」を基本に、情勢に応じ臨機応変に対応するわけです。

 そこが現場のロジ担当の腕の見せ所。渋滞で遅れたら車をどこにつけるか、急な雨のときはどうするか、お客さんが予定より多かったら、といった現場の判断を即座に行い、見た目では何の支障も生じていないかのように見せかける
 これが本来「ロジのプロ」です。

 そのための金の手当も勿論重要なことですが、本来は刻一刻と移ろいゆく情勢に即座に対応する現場指揮官が「ロジのプロ」であり、逮捕者のように金を悪用してプールした上、本当は後方にいるだけの人はロジの神様でも何でもありません。自分の都合のいいところだけ気を使い、私腹を肥やす、そういう人は「茶坊主」と言います。

 話がそれました。

 出張が決まれば、「ロジ」的には航空チケットの手配、(必要なら)ビザの手配、公用旅券の手配、外務省への依頼などを行います。これを出張者(課長の場合は課内の誰か)が手配し、手続き書類を書きます。

 航空チケットは誤解されている方も多いのですが、課長補佐までは「エコノミーパック」です。よく民間の方と話すと「公務員はビジネスを使えていいな」というご指摘を受けますが、そんなことはありません、皆さんと同じ、パックです。

 これは、海外出張旅費が頭打ちなのに対し、会議ばかりが増えていくのも一因です。予算要求はノーマルエコノミーでも、実際は50才の課長補佐でもエコノミーパックです。というのも、例えばAPECで新聞に出るのは本会議ですが、実際にはその下にワーキンググループが10もあり、それぞれ開催している上、場合によってはその下に付随する会議がある場合もあります。
 このあたり、「国際協力」を行えば行うほどさまざまな分野で会議は増えていくのです。

 公務員特有のものといえば、「外務省への依頼」でしょう。

 これは、外務省経由の会議がほとんどであることもあり、外務省に「便宜供与」をお願いすることをいいます。便宜供与とは、行き先の国の大使館(領事館)に会議の関係のロジのお願いをすることです。
 これはたいていは代表団の宿舎の留保(宿舎留保)、空港送迎(議場間送迎)、外交ルートを通じた会談のセットなどです。

 宿舎留保は、要はホテルの予約」です。なぜこのようなことを外務省の外交ルートでお願いするのかと言いますと、会議の前後には当然打ち合わせを行います。
 また、「公電」(会議の内容などを記した公式な電報)の原案は実は出張者が書いて、それを大使館の方が手直しして会議の内容「公式の電報」という形で外務省本省に打つわけです。この場合、出張者がばらばらに宿を取っていると連絡すら取れなくなります

 こういった点から、出張者を一つのホテルにまとめて置くわけです。

 ですから、出張の代表者(ヘッド)に応じ、それ相応の値段である場合もあり、偉い方との一緒の出張では、課長クラスならともかく、係長クラスの場合は赤字を自腹・・の場合もあったりします。
 宿舎留保は係長が一人で行くというケースを除き、課長補佐以上ならやってもらえます。係長の単独出張の場合はもちろんとってもらえないので、旅行会社などにお願いします。

 ちなみに、大使館を通じて押さえる場合は、お得意さん割引(大使館レート)があって、宿泊費も安くなりますので、場合によっては得するケースもあります(たぶん)。とはいえ、よほどのゼニゲバでない限り、そんなこと考えませんが。

 ところで、外務省の機密費から、損をした外務省職員への補填が出ていたと言うことが明るみになったことに対し、新聞で財務省の方が、「大きな会議は忙しい上、金銭的負担(上で言いました赤字のことです)を強いて本当に申し訳なく思っていたのに、外務省でそういうからくりがあったとは」と怒ってましたが、同感です。ましてや「他省庁もやっていること」と平気で言うのには全く憤りしか感じません。
 課長などがポケットマネーで「補填」で飯をおごったりしている現実を知っているのでしょうか。

 空港送迎は文字通り、空港とホテル、あるいは議場とホテルの間を大使館車(荷物があるのでバンが多いです)で送ってくれる、というものです。
 これは原則課長以上と決まっています。

 私の経験ですと、空港送迎に大使館の人が来て下さる場合、車内でスケジュールに関するブリーフィング、関連情報の提供などが行われています。

 もちろん、皆さんの会社でもあるとおり、遠来の方はお迎えする、というのもあるのではないか、と思います。特に、大使館の担当が同じ役所の人間(出向者)ならなおさらでしょう。このあたりは「日本的」なのものだと思います。これは民間でも同様ですから、金額という面ではガソリン代くらいで目くじらを立てるほどではないのではないか、と思います。

 むしろ問題なのはそれにより大使館員の時間がとられるという点です。なぜなら宿舎留保はそれこそ電話で済みますが、空港送迎にはその時間を大使館員が丸々拘束されるケースが多いわけだからです。

 通常大使館員はいくつもの担当に別れていますが、会議が重なる場合(外国はバカンスがあるので・・)は、ロジに忙殺されてしまいます。ましてや夏休みやゴールデンウィークを利用する視察などで国会議員が来た場合はむちゃくちゃ大変だと思います。

 この点、何とかできないか、と私も思います。

 ですから、会議の多い地域では、課長補佐くらいではまず大使館員は来ません。運転手だけ派遣して、彼に必要資料(日本からの公電など)を手渡すケースも多いようです。
ですからメリハリはつけていただいていると思っています→われわれもお偉いさんと一緒にいても息が詰まるだけですから。

 なにより、「行革」「行革」と公務員を攻撃する国会議員が、裏ではこのような「反行革」をしゃあしゃあとやっているのには驚くばかりです
 国内でも「視察」をやって、実際はバスに乗って視察地に行く途中、「アイスクリームが食べたい」といってアイスクリーム屋さんを捜させるわけですから。子供以下ですね。

 国会議員ほど口とやっていることが違う人は少ないのではないか、と思います。もちろん全員ではない・・と思いたいのですが。

 しかし、危険地帯の空港送迎はランクに関わらずやむを得ないと思います。個人旅行者と違い、誘拐の可能性もありますので(そういえば、うにゃんが南アフリカに出張したとき、「昼間でも一人では絶対ホテルから出ないで下さい」といわれたという・・)。
 
 いずれにせよ、外務省のお願いが終わればあとは出発を待つだけです。でもたいていは資料が足りない・・という感じなんですよね・・。
 

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