5.今回の年金改革の概要
 
 今回の年金改正では、いくつか大きなポイントがあるのですが、一部の新聞などでも指摘されているとおり、どっちつかずの様子見という印象で、正直「改革」というほどのものではないのではないかと思います。むしろ次回(5年後)の財政再計算の際が勝負のように思えます。
 それから、間違った報道で最たるものなのですが、これは国民年金、厚生年金においては5年に1度義務づけられている「財政再計算」によるものです。ですから、何かがあって(例えば年金制度が本当に危なくなって)あわてて改正した、というものではないわけです。

 さて、改正内容をお話しする前に、国民年金と厚生年金の現状について少しお話します。

(1)国民年金の給付と厚生年金の給付について(現状)
 前にお話ししましたように、自営業者の方は国民年金のみサラリーマンの方は国民年金+厚生年金となっています。
 ですから、サラリーマンを例にとりますと、具体的にはこういう支払われ方をします。

 年金額=老齢基礎年金(国民年金)+老齢厚生年金(厚生年金報酬比例部分と同じ。)

※この計算においては双方とも、消費者物価変動に応じて年一回変更される「物価スラ  イド率」を乗じます。つまり、毎年の物価の変動を考慮しないと、適切な年金額が算出できないからです。
 また、5年に1度の財政再計算の際、厚生年金の方は、現役世代の賃金を考慮して5年前と比較して現状と合うように(基本的には)上乗せします。これを「賃金スライド」といい、下の「平均標準報酬月額」に加味されています。

 そして、厚生年金報酬比例部分(老齢厚生年金)の算定式を以下に記します。

報酬比例部分=平均標準報酬月額×給付乗率×加入月数×物価スライド率
                                     (10/1000〜7.5/1000)
※この式はもう一度下で出てきます。

<支払うものといつから支払われるか>
○男:昭和16年4月1日以前、女:昭和21年4月1日以前生まれの人
 60歳以上65歳未満 厚生年金報酬比例部分に一定額を加算在職中は減              額
 65歳以上      老齢基礎年金+老齢厚生年金

○男:昭和16年4月2日〜昭和24年4月1日生まれ
 女:昭和21年4月2日〜昭和29年4月1日生まれ
 60歳以上65歳未満 年齢によって厚生年金報酬比例部分に一定額を加算              されない場合がある在職中は減額)。
 65歳以上      老齢基礎年金+老齢厚生年金

○男:昭和24年4月2日以降、女:昭和29年4月2日以降生まれの人
 60歳以上65歳未満 厚生年金報酬比例部分のみ(在職中は減額)
 65歳以上      老齢基礎年金+老齢厚生年金

 つまり、現時点では大多数の人が関係する現在51歳以下のサラリーマン人は、60歳から厚生年金部分のみ年金をもらえるわけです(労働で一定の収入を得ている場合は減額)。

(2)給付がどのように変わるか?
 それでは上の状況から給付がどのように変わるか順を追ってお話しします。
1)年金額の変更
 今回は「賃金スライド」は行わない。

2)厚生年金報酬比例部分の給付乗率を引き下げる

(改めて厚生年金報酬比例部分の計算の仕方)
報酬比例部分=平均標準報酬月額×給付乗率×加入月数×物価スライド率
                                          (10/1000〜7.5/1000

 この7.5/1000を7.125/1000に引き下げます。乗率が下がるわけですから当然全体の額も引き下がります。
 よく新聞で「給付5%減」というのがこの部分です。
 
 しかし、「平均標準報酬月額」及び「給付乗率」を前回(平成6年)のまま据え置いて計算額と比較して改正後の方が低い場合は、以前のままの計算方法を採ります。つまりどちらか高い方を採用するので、給付が「下がる」ことはありません。
 ですから、給付5%減はセンセーショナルな「煽り」であって、正確には、「本来上がるべき5%分が上がりにくくなる(またはあがらない)」です。
 
 この点は、5年に1度財政再計算がありますから、これでずっと行くわけでないことを考慮すると、騒ぎすぎといえましょう。
 むしろ現役世代からみると、賃金が全然上がらない状況下で、年金が上がっていくというのはおかしい話です。

3)在職中の年金(平成14年4月から)
 これまでは65歳以上は年金を全額支給していたが、これを70歳からとする。
 65歳から70歳までの間は、基礎年金(国民年金)は支給し、厚生年金部分は減額する。

4)支払開始期間と支払を受けられるもの
 それではそれぞれについて見てみましょう。
○男:昭和16年4月1日以前、女:昭和21年4月1日以前生まれの人
 60歳以上65歳未満 厚生年金報酬比例部分に一定額を加算(在職中は減              額)   
 65歳以上       老齢基礎年金+老齢厚生年金

 →在職中在職中は70歳まで減額を除き変化ありません。

○男:昭和16年4月2日〜昭和24年4月1日生まれ
 女:昭和21年4月2日〜昭和29年4月1日生まれ
 60歳以上65歳未満 年齢によって報酬比例部分しか支払われない場合が               ある(在職中は減額)。
 65歳以上      老齢基礎年金+老齢厚生年金

 →在職中在職中は70歳まで減額を除き変化ありません。

○男:昭和24年4月2日以降、女:昭和29年4月2日以降生まれの人
 60歳以上65歳未満 厚生年金報酬比例部分のみ(在職中は減額)
 65歳以上       老齢基礎年金+老齢厚生年金
 

○男:昭和24年4月2日〜昭和28年4月1日生まれ
 女:昭和29年4月2日〜昭和33年4月1日生まれ

 →在職中在職中は70歳まで減額を除き変化ありません。

<大きく変化します>
○男:昭和28年4月2日〜昭和36年4月1日生まれ
 女:昭和33年4月2日〜昭和41年4月1日生まれ

 →60歳以上65歳未満 年齢によって報酬比例部分も支払われない場合が                 ある。
   65歳以上        老齢基礎年金+老齢厚生年金(在職中は70歳まで                減額

○男:昭和36年4月2日生まれ以降の人
 女:昭和41年4月2日生まれ以降の人

 →60歳以上65歳未満 何も支払われません
   65歳以上      老齢基礎年金+老齢厚生年金(在職中は70歳まで減               額

 以上の3)、4)がよく「1000万円減額(負担増)」と言われている部分です。しかしよく見て下さい。支給年齢引き上げも「在職中」のことで、彼らは在職中ですから一定の収入があります。そして年金支給年齢引き上げは実は今39歳以下が対象なのです。

 しかも、今もうすぐ年金受給を受ける人たちは、受給年齢もこれまでと変わらないわけですから、この影響を受けるのは今40歳以下の人ばかりなのです。

(3)保険料はどのように変わるか
○サラリーマンの方
  月給×8.675%ボーナス×0.5%ボーナスは給付に反映されず
                                    ↓
  (平成15年4月から)
  月給×6.79%ボーナス×6.79%ボーナスも給付に反映

 また、在職中はこれまでは64歳まで保険料納付義務があったものを、平成14年4月から69歳に引き上げました。
 
 これは単純に考えると上がっています。しかし月給という観点では下がっていますので、ボーナスが少ない人たちには逆に引き下げのケースもあるでしょう。
 はっきり言って上げるのか下げるのかよく分からない姿勢であるといえましょう。
 とはいえ保険料納付年齢を上げましたので、働いているうちは保険料を払え、ということを徹底化したということでしょう(もちろんその分戻ってきます)。

○自営業者
 住民税非課税者などは申請により保険料全額免除だったのですが、平成14年4月からは、住民税非課税者は保険料を全額免除。ただし老齢基礎年金を1/3で計算
 一定の所得以下の人は保険料を半額免除。ただし老齢基礎年金を2/3で計算

○20歳以上の学生
 親元の所得などにより保険料全額免除。老齢基礎年金は免除期間は1/3で計算していたものを、本人所得が一定額以下の場合は申請により保険料免除。この期間は老齢基礎年金は0で計算。ただし、10年間はその期間分の後払いができる。

 これらは「払わない者はそれ相応のものしかもらえない」という原則を徹底したと言えましょう。まじめに働いている人にとっては良いことです。この場合障害などの理由で働けない人はどうするのだ、というのもあると思いますが、それは社会保障の問題ではありますが、老齢「年金」の問題ではありません。

(4)まとめ
 以上、まとめてみてわかりますが、「年金改革」という割りには腰砕けの内容になっていると思います。
 そしてこれは一層後世に負担を回したという印象が否めません。

 一方特に雑誌などの論調としては雇用問題と絡め、「今の」雇用問題と「将来の」雇用問題を混同しているもの、リストラや高齢者雇用の問題(「65歳定年で70歳まで年金がもらえないならその間どうするんだ」)などと絡めるものがあります。しかし、その問題は5年から10年以上後です。
 またこの問題は、その本質である「高賃金で高齢者を雇わなければならない」ということをやめればある程度は解決できるのです。

 ですから40歳以下の人たちは「今」の案について「改悪だ、給付引き下げ反対」というのではなく将来の高齢者雇用問題の真剣な検討と、高所得層の保険料引き上げ又は給付水準の横這いを求め、場合によっては課税による高年齢層の負担をもっと求めないといけないのです。

 この点、年輩の方には非常に心苦しいところですが、今の少子化時代、それでは回らないわけですから、やむをえません。孫に回すお金をご自身のためにお使い下さい、と言うことでしょうか。

 その一方で子供を多く産む家庭には減税措置などの優遇措置を増やすことで、少子化をくい止めない限り、これからどんどん高年齢層の負担が増えていくのはやむを得ないところでしょう。
 また、このような厳しい状況ですから、あと20年後に出るであろう、年金を納めない者(納めたくても納めない人とは違います)に対する温情は不要です。納めない人はもらえないのです。

 ですから、この点学校の授業等でもしっかり教育することも重要だと思います。もはや、年金の問題は、厚生省だけでは(財政問題だけでは)解決できない問題になっているのです。 

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