4.最近の「改革」について思うこと・・

1)特殊法人改革はたぶんうまくいかない

 ショッキングなタイトルですが、私はそう思います。
 というのも、改革の基本が決まっていないからです。

 この議論で私が一番の疑問は、「特殊法人はすべて民営化、廃止又は独立行政法人化」という議論が真っ先に出ていることです。
 こういう人達は「形を変える」というパフォーマンスのみで、本気で改革する気がないのでは、と思います。

 では原点に立ち返って、「特殊法人」はなぜ必要なのでしょうか。

 本来は、特殊法人というものは、採算性・公共性を含め、民間ではできないことを政府の出資で行うというものでした。もちろんこれは国民に対して長期的に見たら還元されるべきものだから、という理由です。

 これは、高度成長期など、日本がまだまだ恵まれておらず、国土整備や企業の競争などのために公的な支援が必要であった時代の考え方です。
 この考え方は、「持たざる時代」においては、役に立ちました(もちろんそれに乗じた役人の汚職は容認できるはずもありません)。

 ですから、恵まれた時代になった今、「必要でなくなったものは廃止」という議論になるわけです。そして、わざわざ国がやらなくても、民間企業で十分に商売になるなら、国がやる必要はありません。
 しかし、現在の議論では、これらの本質的問題が、「不採算なものはつぶし(廃止し)、そうでないものは民営化」と変わってしまうのは全くおかしな事だと思います。

 なぜなら、「民間でできることは民間に」とは、「公的補助を受けた団体(特殊法人や公益法人)が、市場を独占あるいは政府からの資金により有利になっている、という不公正さを是正すること」であって、「特殊法人をすべて廃止して良い」ということではないからです。
 特殊法人は「公共の福祉に寄与するが民間では採算がとれない事業に対し、政府が支援する」という観点からすると、この議論はおかしいわけです。

 ですから、この議論の大前提として、

・すでに民間がその業務を代行できる世の中になったか
・その「政策」が、特定の一部のものを甘やかすのみで、国民全体のためにならな いか
・無駄遣いが多く、存在自体に疑念があるのか

 こういった条件を考慮した上で、「廃止」「民営化」などの議論がなされなければおかしのです。

 しかし、そうではありません。
 行革本部もマスコミも「はじめに廃止(又は民営化)」ありきです。
 このやり方では絶対失敗します。

 なぜなら、今後数十年にわたっての長期的な国民利益の観点からの「特殊法人の必要性」が考慮されていないからです。

 繰り返しになりますが、特殊法人は、民間では出来ないが、国民全体の利益から見て必要だと考えられたものに対して設置されています。
 ですから、一つ一つ個別の検討が必要なのです。

 一言で特殊法人と言っても、国土開発からセイフティーネット(保険みたいなものです)、社会保障など様々な分野があります。それを十把ひとからげにするのは無理がありすぎます。

 具体的に言えば、まずその特殊法人の存在理由、歴史、財務などの面を検討、それと現在及び将来の見通しなどを加味した上で、一つ一つ決定すべきだと考えます。もちろん「順番に」という意味ではありません。それではいつまでかかるかわかりません。
  少なくとも、いくつかの特殊法人をパッケージにして、それに対し評価を下す専従の職員を3,4人、そしてそれを各特殊法人ごとに配置することが必要、ということです。そうでないと、十分な把握など出来ません。

 「数あわせ」で終わった橋本行革の反省を政治家はよくすべきです。

 省庁再編で、通産省VS郵政省の情報行政は変わりましたか?狂牛病対策でも明らかなように、厚生省VS農水省の権限争いは全然解決していません。

 「形だけ」つくって「本質」にはメスを入れない改革なら、やらない方がましです。国民サービスなどに当てるエネルギーを意味のないパフォーマンス改革のために使うほど無駄なことはありません。

2)「何も知らない人」がものを言い過ぎる

 マスコミを中心に「何も知らない人」があたかも国民の代弁者のごとく評論していること、そして政治家を中心に「利害関係者」が大騒ぎしすぎることに大問題があります。

 一番のポイントは、この議論に必要なのは「第三者」であり、「素人」や「よく知っていると称する地元優先の利害関係者」ではないということです。
 この議論は「勉強(又は経験)をしている第三者」が必要なのです。

 特に「評論家」や「現職国会議員」という看板だけで、表面だけを見て、実際の勉強に欠けている人たちをなんとかして欲しい、と思います。

 十分に勉強をしていない人が、「評価」を行ったり、「記事」を書いている現実では、「改革」は絶対良い結果をもたらしません。

 よく言われる「素人の意見が必要」は勉強不足をごまかすためのまやかしです。

 もちろん「よく知っている人」とは、「中にいる人」(役人)という意味ではありません。

 「廃止」を叫ぶのなら、その特殊法人の歴史や果たしていた役割について勉強して、必要でなくなったことを理論的に言わないとなりません。
 「民営化すべき」というなら経営学や経済学など、「民間企業として成り立つか」「独占の弊害はないか」など、広い視野からの、専門知識(や経験)を生かした評価が必要なのです。

 何より、国会議員という立法府の人間なら、これまで国庫から出ていた出資金などをどうするのか、保有財産の扱いをどうするのか、そういう法的な面の指摘も含め行わないと、「ややこしいところは官僚任せ」という無責任な発言です。

 特に、特殊法人の果たしていた役割についてきちんとした勉強を行わず「無駄遣い」を連呼するやり方は間違っています。

 「無駄遣い」と「将来への投資」「弱者保護」は全く異なります。

 ここで一例を挙げます。

 中小企業は大手銀行などはお金をなかなか貸してくれません。また中小企業向け融資が多い信組や信金も企業である以上融資には限界があります。
 そこで、中小企業金融や「共済」などのセイフティネットを扱う特殊法人が存在します。

 仮に、この特殊法人が「無駄遣い」や「理事の給与が高すぎる」という問題があったとしましょう。

 そこでいきなり「この特殊法人をつぶしてしまえ」というのはいかにも乱暴です。中小企業対策がなされていればともかく、そうでないのにつぶしてしまう必要があるでしょうか。

 この場合の必要な処置は、「廃止」ではなく「無駄遣いの削減」「理事の給与削減」「天下りの抑制」などです。

 今の議論で問題なのは、こういった様々な問題がある点をそれぞれ検討せずに、「無駄使いは特殊法人だから」「だから民営化か廃止」と決めつけている点です。

 先ほどの例で言えば、中小企業の実態を知っている人がいれば、いきなり「廃止」を最初に持ってくるはずはないと思います。まずは中小企業の実態に合わせて今後も必要かどうか、民間で本当に出来るのかどうか、などの検討が必要なのです。

 仮に廃止するにしても、前述の問題以外に、その特殊法人は今も現に返済中の中小企業がいるわけですから、その企業からの債権回収をどうするのかなど様々な問題を解決しなければならないのです。

 このように、論評や議論をするのであれば、ただ「無駄」「無駄」などと言っている人は偽物です。逆に、知ってる範囲の特殊法人の背景や歴史、そしてその対象となる方々(中小企業であったり、地方の人であったり)の現状を把握した上で議論や批判をされている方、これが本物だと思います。

 しかし、多くは見る限りでは残念ながらそうではないようです。何より石原行革大臣自身、勉強不足の発言がしばしば見られるからです。
 外国に行って外国の例を視察する暇があったら、すべての特殊法人の歴史や業績、そして現状を勉強されてはいかがですか?

 行革本部事務局(要は「役人」)にすべて任せて良いんですか?めんどくさいとこだけ役人にやらせて、役人批判するなら「役人が決めた」とか言わないで欲しいです。

 野党や評論家も、ぜひ法案や、現実の処理方法(対象となる方々への説明など)を含めて、反論して欲しいものです。

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