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ほえづら

−1999年1月「ウルトラ契約説−キツネ目のバルタン星人」

[12月|2月|編年表]
30/Jan/1999(Sat)

今月は「ウルトラ契約説−キツネ目のバルタン星人」をお送りしています。一応,古い作品から順に触れているので,初めての方は第1回第2回第3回と順にお読みください。

第4回 光を継ぐ者

80年代の半ば,異様な気分が世間を覆っていました。コンビニで売っているお菓子に,青酸が入っているかも知れなかったのです。お菓子メーカーを脅迫したかい人21面相(それにしても,クラシックなネーミングだこと)の活動ですね。ちなみに,当時私の実家のあたりには「コンビニ」なんてなかったので,実はちょっと感覚が違ったんですけどね。

かい人21面相ときたら,派手な誘拐はやるし,脅迫状はいろんなところに送りつけるし,防犯カメラには写るし,似顔絵は描かれるし,ものすごく目立ってました。それでも捕まらないあたりがすごいですね(別に犯罪者を誉めるわけではないですが)。

脅迫状の中で,思いっきり警察をコケにしたり,なかなかすごい連中(多分複数犯)でして,その,警察と自分たちとお菓子メーカーの間の関係を確認し,宣言しつつ行動するその様は,まさに今月の「ほえづらコラム」で話題にしている「契約」に基づく行動,という気がします。相互に確認された関係の中で,お互いが役割を果たしていたというわけです。脅迫という名の「契約」でしたけど。

そういう点では,キツネ目の男=かい人21面相って,宇宙忍者バルタン星人みたいな人物ですね。ただ一つ違うところは,うっかり弱点を喋ったりしないし,かい人21面相Jr.なんて後継者がいないことでしょう。

誰だったか,かい人21面相を学生運動経験者と推定した人もいましたが,往年の学生運動(直接には知らないんですが)って,対立する双方(相手は当局)がお互いの立場を明らかにして衝突していたわけだから,その点では「契約」の匂いがします。

そうか。『ウルトラマン』あたりは,そういった名乗りを上げて自分の行動を説明する「契約」時代の作品だったんですね。

それに比べると,昨今の事件といったら,何だか薄気味の悪いものが多いですね。和歌山の砒素カレーは,一応容疑者が捕まったけど,動機がよくわからないし,新潟や長野の毒物事件はいまだ容疑者が特定されていません。人知れず毒物が入っていて,動機が不明で,犯行声明もない,何とも気色悪い事件です。そこには「契約」もなく,「契約」破綻もよく見えず,行動を裏付ける理由を想像すらできないわけです。

一方でメディアが発達しているので,私たちのすぐとなりに,どこかの匿名希望さんが潜んでいるかも知れません。いえ,それだけではすみません。私たち自身が,自分でも知らないうちに,誰かにとって「隣の匿名希望さん」になっているかも知れないのです。

う〜ん。そうすると,やっぱりバルタン星人やキツネ目の男が,敵ながら天晴れなヤツのように思えてきました。

そんな1998年の暮れも迫ったある日,劇場版の『ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ』を見ました。もちろん,テレビで。さすがに劇場公開をこの歳になって見に行くわけにもいきませんからね(^^;ゞ。

モネラ星人の侵略で危機に瀕する地球。ついには頼みのダイナも彼らに惨敗,もはや地球もこれまでか……。

ここでティガが登場して危機を救うというのは,この映画のタイトルにも明らか,バレバレだったのですが,そこに持って行くまでがいいんです。

目に光が失われ,身動きすらしないダイナ。自慢の最新鋭戦艦は乗っ取られ,もはやこれまでとあきらめでいっぱいの防衛軍長官。しかし,圧倒的に不利でも最後まで諦めず攻撃の手をゆるめないヒビキ隊長以下,スーパーGUTSのメンバー。見かねて戦闘機で援護に飛ぶ旧GUTSのイルマ元隊長。

「ダメだよ。ダイナだってかなわなかったんだ」

暗い地下室に避難した人々は絶望に沈んでいました。

でも,一人だけ,諦めない男の子がいました。“人の光”で一緒に戦うと。

人の光……?『家の光』なら知ってるけど。

男の子の言葉とスーパーGUTSの奮戦で,打ちひしがれた人々に,奇跡を信じる心が生まれたのです。

「そうだ,俺も戦う!!」

奇跡を信じて諦めない人々の“光”は,深海の底に石像として沈んでいるウルトラマンティガのもとに届き,ついにティガは復活!駆けつけてダイナを救い,復活したダイナとともにモネラ星人を退治したのでした。

おぉ,これって,「契約」じゃないのか?

かつての「ウルトラ契約」が,別の社会を営むM78星雲とかの設定から脱し,新たな形で表現されているのです。しかも,かなり構造がすっきりして,「第三者が地球を守ってくれる」ことの内包する危うさがなくなっています。

しかも,その過程にアスカ隊員=ウルトラマンダイナの精神的な成長を絡めるストーリー。(劇場版なんだから,これぐらいの工夫はしないとね)

また,契約の代理人とも言うべきスーパーGUTSのメンバーの奮戦もいいですね。しかも,ヒビキ隊長は弱気のアスカの一人相撲を指摘し,イルマ元隊長はアスカにティガの勝利の秘密は“光”だと伝える役割も果たしています。これには,ヒビキ隊長役の木之元亮さん,イルマ元隊長役の高樹澪さんの熱演に負うところも大きかったですね。

平成のウルトラマンは,少し違った原点に戻ったようです。その「契約」は,諦めない心と結ばれていたのでした。


やぁれやれ,やっと書き終わった。これを転送すると,また理由のない明日が来るのか……。

いや,まてよ。ぼくの明日って,ホントに理由がないのかな?


2月は伏せ字がいっぱいの予定です(^^;ゞ。


27/Jan/1999(Wed)

更新が遅れてますが,今月は「ウルトラ契約説−キツネ目のバルタン星人」をお送りしています。

第3回 バルタン星人の限りなきチャレンジ魂

『帰ってきたウルトラマン』で,隊員がウルトラマンジャック(現在はこう呼ばれているそうです)の力を過信してそれに頼ってオイル怪獣タッコングと戦おうとしたが,なぜか変身できない,というエピソードがありました。第1回でお話しした,『ウルトラマン』のイデ隊員がウルトラマン(初代)を頼ってやる気喪失していたエピソードと比べられるエピソードなんですけど,ここで以前と違うのは,郷隊員は他ならぬウルトラマンジャック自身だと言うことですね。

古代怪獣キングザウルスIII世に敗れると,郷隊員は特訓して難局を克服しようとするし,なぁんか,以前の2作品と違うんですよねー。

もちろん,先に見たこちらの作品の方が,私にとっては印象深かったわけですが。

『ウルトラマンA』になると,異次元人ヤプールとかいう妙な連中が登場して,どうも“善と悪”の対比がはっきりしてるらしいんですね。

『ウルトラマンT』になるとファミリーの設定が強化されちゃって,ウルトラ戦士が擬人化され過ぎ。

『ウルトラマンレオ』なんてスポ根だし。う〜ん。どうしちゃったんだろ。

まぁ,『ウルトラマン』みたいな世界は特殊だと思いますが,『ウルトラセブン』みたいな話はないのかな?

そういえば,毒ガス怪獣モグネズンは,旧日本軍が開発した毒ガス兵器イエローガス(サリンみたいなものか?)を吐き,現代の日本人やウルトラマンジャックさえも,苦しめられるという話で,『ウルトラセブン』的ですよね。

ウルトラマンジャックよりも旧日本軍の毒ガス兵器が強いってことは,旧日本軍に勝ったアメリカは,ウルトラマンジャックよりはるかに強いことになっちゃいますね。それで,ウルトラ戦士はあまりアメリカに行かないのかな?

あと巨大魚怪獣ムルチ(とても魚には見えんが(^^;)とかの話もそうでしょうかね。

でもこれって,発端は『ウルトラセブン』的ですけど,だからって,ウルトラ戦士の行動自体は,ちょっと違う気がしませんか。「契約」が破綻した世界の中で,周囲の人々との関係の中で自らの行動を見出していったセブン(そして,そこには危うさがつきまとっていたわけですが)と違って,第2期と言われるこのころのウルトラ戦士たちは,使命だから,善玉だから,そうすると決まっているから戦っているだけみたいに見えます(円谷よりも東映みたいな感じですね)。

目標が決まってて,目標と自分との間の完結した世界を生きる,そう,まるで受験生のようなウルトラ戦士の姿がそこにありました。

地球のように,身勝手な住人が大勢住んでて,しかもやたらに怪獣や宇宙人に襲われる星は,ウルトラ戦士の中でもエリートが派遣されていたことでしょう。彼らもM78星雲の受験戦争を勝ち抜いてきたのかな?こればっかりはスペシウム光線でカタがつかないので,大変だったでしょうね。
地球に単身赴任したらしたで,過労死寸前の激務。心中いつも「暇な星に左遷されたい」と思ってたりして(^^。

目標にされる側も,どんどんエスカレートして,『ウルトラマンレオ』に出てくる連中の気色悪いこと,気色悪いこと。おかげで,以前から知ってるはずのM78星雲のウルトラ戦士たちさえ,ゲスト出演したときは気色悪く見えました。

今はそう思うのですが,当時は毎週面白がってみてました(^^;ゞ。

う〜ん。「契約」はどこ行ったのかな?

アニメ版のシリーズ,『ザ☆ウルトラマン』ってのがありましたが(このころは毎週見ていたわけではない),この番組の終わりごろになると,ウルトラマンジョーニアス(って言うんだってさ)とヒカリ超一郎ははっきり別人格となって,さらにウルトラマンと科学警備隊の関係も,『ウルトラマン』のころの「契約」が戻ってきました。

大急ぎで,『ウルトラマン80』に行きます。この番組だと,最初,矢的猛ウルトラマン80は,なぜか中学の教師で(時代を感じさせますね),そこで,人の「醜い心,悪い心」が怪獣になるという意味のことを言いまして,これが『ウルトラマン80』の怪獣観になっています。その心を治療することと,怪獣を退治することが重ね合わされているわけです。ある意味,これも「契約」が戻ってきたのかな,と思いますが,何か違う気がしますね。

一応注釈をつけておきますと,今月は各回のサブタイトルにウルトラシリーズのエピソードのサブタイトルを流用(一部改変あり)してまして,今回の「バルタン星人の限りなきチャレンジ魂」は,『ウルトラマン80』第45話で実際に使われていたものです。昔はかっこよかったバルタン星人も,こんな風になっちゃったんですね(joj;。

ものすごくすっ飛ばした話になっていますが,あと1回,なんとか今月中に追加して,無理やり結論に持っていきたいと思います。


26/Jan/1999(Tue)

う〜ん。今月はちょっと生活パターンが変わったためか(言い訳(^^;ゞ),筆が進みません。あと2回は書きたいんですけど。1月が終わりそうですね。


16/Jan/1999(Sat)

今月は「ウルトラ契約説−キツネ目のバルタン星人」をお送りしています。

第2回 史上最大の破綻

『ウルトラセブン』は,私が生まれたすぐあとに始まりました。

前作の『ウルトラマン』が,「契約」を行動の裏付けとしているぐらいで,敵に「侵略者」という雰囲気が今ひとつ希薄なのに対し,『ウルトラセブン』では知的侵略者との戦いが中心になっていて,雰囲気が一変します。

侵略する側とされる側(人類の方が侵略する側に回っているとしか思えないエピソードもありますね)の戦いなのですが,『ウルトラマン』の時のように,お互いの「契約」に基づいて戦うわけじゃなく,また,「契約」が破綻するところから侵略ストーリーが始まったりします。

破綻は「はたん」と読んでくださいね(^^。

そう,『ウルトラセブン』は「契約」破綻の物語なのです。ですから,「契約」の物語である『ウルトラマン』と比べると,登場人物が行動する理由は違っているのです。「契約」によって行動しているのではありません。

だいたい,ウルトラセブンはなぜ地球に滞在しているのか,を考えると,彼は本来M78星雲から来た「恒点観測員」(って,何なんでしょうね(^^;ゞ)で,地球人の青年の美しい心に胸を打たれたからです。ウルトラマンハヤタ隊員との「契約」(示談交渉という感じもしますが(^^;ゞ)の結果,地球に滞在したのとは,まったく異なる動機に発しているのです。

ですから,セブンが地球を去る部分も違っているのです。度重なる苛酷な戦いに疲労したモロボシ・ダン=セブンに対し,上司が帰還を勧告しますが,セブンは応じません。「契約」以外のものが登場人物を突き動かしている『ウルトラセブン』では,職務に基づく上司の言葉などに,行動が制約されることはないのです。

幽霊怪人ゴース星人の操る双頭怪獣パンドンとの激しい戦いの中,モロボシ・ダン=ウルトラセブンは,アンヌ隊員に自らの正体を明かしますが,ここはもう私なんかが説明するまでもない有名なシーンですね。そして,傷ついたからだながらも変身し,アマギ隊員を救出するために戦うセブン。

「契約」が効力を失い,「契約」が破綻しているからこそ戦いが発生する『ウルトラセブン』の世界では,セブンが行動する理由は,人間の美しい心への感動仲間への愛や友情(書いてて恥ずかしー(^^;)だったのです。

おっと,今回の結論を先取りして書いてしまった。ちょっと話を戻しましょうね。

どうして戦いが生ずるのか,というところから見ないといけませんね。

例えば,決して共存できないもの同士の戦い。まったく「契約」の成立しようがない状態です。放浪宇宙人ペガッサ星人が,宇宙をさすらうペガッサ市もろとも滅ぼされた話がそうですね。この話,ある意味で『ウルトラマン』第2話「侵略者を撃て」の地球人と宇宙忍者バルタン星人の関係に似ているようにも見えますが,お互い戦うべき関係であると確認するや,巨大化して空中戦を展開したウルトラマンとバルタン星人との関係に比べると,ペガッサ市はなぜか沈黙し,無抵抗でウルトラ警備隊に(!)滅ぼされてしまい,『ウルトラマン』とは違う異様な物語となっています。お互いの位置関係,役割を同意できないところに戦いが生じ,ついに一方の滅亡により外見的な結末だけがもたらされる,「契約」不在のストーリーなのです。

有名な「ノンマルトの使者」では,地球原人(って,この別名は差別的でないかい?)ノンマルトと蛸怪獣ガイロスに対する人類の行いは,これまで地球人を悩ませてきた侵略宇宙人と大して変わらないわけでして,これじゃぁウルトラ警備隊は正義じゃないことになってしまうし,一方の側に荷担するウルトラセブンもノンマルトにとっては侵略者なんですよね。で,どうしてこの戦いが起こったかというと,人間とノンマルトは,一つの世界(この話の場合は海)に共存できない関係にあったからなんです。お互いの位置関係を確認することのできないまま,ウルトラ警備隊のキリヤマ隊長(この人は,歴代防衛チームの中でも好戦的なキャラクターとして有名ですね)はノンマルトの海底都市を殲滅して,勝ち誇ります。もはや,「契約」など成立不可能,お互いの位置を確認するなんて悠長なことが言ってられないところに,この戦い(そして,一方の滅亡)の由来があるのです。

それどころか,宇宙狩人クール星人は地球人を昆虫呼ばわり(という言い方は昆虫さんたちに失礼かも知れませんが(^^;)するし,幻覚宇宙人メトロン星人は,地球人同士の信頼を失わせる作戦に出ます。

メトロン星人が登場するエピソード「狙われた街」は,「私たち人類はまだ,宇宙人に狙われるほどお互いを信頼していません」というナレーションで終わります。『ウルトラセブン』の「契約」破綻ぶりが窺えますね。

侵略宇宙人の側は,もはや地球人を対等の交渉の相手として見てはいないのです。

子供心にも,と言うよりも,子供だったからこそ,この『ウルトラセブン』の世界観には恐ろしいものを感じました。もちろん当時は,「契約」破綻がどうこう,などとは思い至りませんでしたが,作中,なぜセブンが戦わねばならないのか,その理由づけを理解できない回さえありました(今にして思えば,それは制作側の問題提起だった)。

「契約」が成立しないからこそ起こる戦い。そこで人類(この場合はウルトラ警備隊)が戦う理由は,実は正義のためではなく,種族(自分)が生存するためでしかありません。それでは,この世界ではもはや絶対の正義でいることを許されないウルトラセブンは,なぜ戦うのか。それは,すでに先取りして言ってしまいましたね。

でも,これって怖い話だと思いません?


11/Jan/1999(Mon)

遅くなってすみませんm(_ _)m(でも,こんなコラムを待ちわびてる人なんているのかな?)。今月のほえづらコラムはウルトラマンの話題を通じて,現代世相を見ようというものです(ホントか?)。でも,ウルトラマンに思い入れのない世代の人には,どうでもいい話かも知れませんね。こんな話でも読んでやろうという人は,この1月もほえづらコラムにおつきあいください。

ウルトラ契約説−キツネ目のバルタン星人

『ウルトラマン』って,もう30年以上も前の作品ですが,根強い人気がありますね。実は,『ウルトラQ』や『ウルトラマン』は私が生まれる以前の作品,『ウルトラセブン』は私が生まれた直後に始まった作品なんです。当然,これらはリアルタイムでは見ていません。私がリアルタイムで見たのは『ウルトラマンA』とか,『ウルトラマンT』とかでした。さらに,夕方何度も再放送していた『帰ってきたウルトラマン』も強く印象に残っています。古い方の『ウルトラマン』『ウルトラセブン』は,後のシリーズにゲストで登場するときの勇姿から想像するしかなかったのです。ようやくそれらの作品を見たときは,まもなく中学に上がろうかという時でした。そして,もうそろそろ子供番組も卒業,というときに見たこの2作品は,予想もつかないものだったのです。

第1回 ウルトラ契約第一号

『ウルトラマン』では,ウルトラマンと怪獣の,意外にも静かな戦いぶりが,何とも不思議でした。何だ,これは?そして,私が親しんでいたその後の「ウルトラ」シリーズにはない,独特の大人びた雰囲気。

今,思い返すと,『ウルトラマン』にあってその後の,いわゆる第2期のシリーズにないものは,「契約」だったような気がします。

『ウルトラマン』の世界を成立させたのは,偶然の事故でした。宇宙怪獣ベムラーを追って地球に来たウルトラマンは,ベムラーの追跡中,科学特捜隊のハヤタ隊員が乗る戦闘機ビートルに衝突し,その結果ハヤタは死んでしまうのです。そこで,ウルトラマンはハヤタと一心同体となることにより,彼を死から救い,それ以後,ともに戦うようになります。つまり,事故をきっかけに,ハヤタとウルトラマンの間に「契約」が結ばれたわけです。

この「契約」は,最終回,ウルトラマンが宇宙恐竜ゼットンに敗北することをきっかけに,解消されます。傷ついたウルトラマンを助けに来たゾフィーに対し,ウルトラマンは,自分が命を落としても,ハヤタを救いたいと言います。しかし,ゾフィーは,地球の平和は地球人自身の手によって守られるべきことを説き,持ってきた“ふたつの命”により,ハヤタとウルトラマンの双方を蘇生させます。これによって2人の「契約」は解除され,物語は終わりを告げるわけです。つまり,ハヤタとウルトラマンの契約が締結されてから解消されるまでの物語が,『ウルトラマン』だったのです。

この「契約」とは別に,ウルトラマンと科学特捜隊との間にも見えない「契約」が結ばれています。怪獣酋長ジェロニモンが過去の怪獣を復活させようとしている非常事態なのに(毎週が非常事態ではありますが),科学特捜隊のイデ隊員は,「どうせウルトラマンが怪獣を倒してくれる」と,やる気がなく,それが元で友好珍獣ピグモンを死なせてしまうというエピソードです。このとき,地球人のぎりぎりまでの努力があと一歩およばないときに登場する救世主がウルトラマンである,という「契約」が認識されるのです(『ウルトラマン』の原形になった企画の段階で,すでにこの設定が決まっていたそうです)。だから,科学特捜隊もウルトラマンに頼らず戦うし,変身怪人ゼットン星人の円盤編隊が迫ってくるとムラマツキャップは「我々の敗北は,地球全体の敗北だ」とゲキを飛ばすのです。そこに,番組の主人公であるはずのウルトラマンの存在など,考慮されてはいません。それに,科学特捜隊は,怪獣とけっこう対等に戦っているんです。そして,互角の戦いだからこそ,「契約」通りウルトラマンが駆けつけるのです。最終回に至っては,ウルトラマンをも倒したゼットンを,たった1個の爆弾で退治してしまいますよね。その点は,軍事色濃厚なくせにすぐ「脱出!」してしまうその後の○○○(適当なアルファベット3文字を入れてください)と違うところですね。

ただ,第三者であるはずの宇宙人が地球の平和を守ってくれるけど,そのためには地球人の努力が前提,という「契約」には,一種の危うさが残っていました。最終回,科学特捜隊が新兵器によって立派にゼットンを退治したことで,もはや「契約」は実質無効となっていました。だからこそ,ゾフィーは地球人の自衛を説き,ウルトラマンの二つの「契約」を解除させたのでしょう。

これだけじゃありません。『ウルトラマン』には,もう一つの「契約」があります。

宇宙忍者バルタン星人は,アラシ隊員の肉体を借りて,ハヤタことウルトラマンと交渉をします。母星を失ったバルタン星人たちが地球に移住できるようにと。しかし,すでにバルタン星人は宇宙忍者の名に恥じない独特の超能力を発揮して地球人を翻弄しており,一方的な侵略だってできたんです。しかも“生命”という観念を持たず,地球人やウルトラマンとはまったく異質の考えの持ち主なのに,敢えて交渉するんですよね。その上,ハヤタ=ウルトラマンから火星への定着を勧められる(これも,よく考えるとひどい提案とは思うが)と,火星には苦手なものがあるからと,黙っときゃいいような弱点まで喋りそうになるんです。結局,バルタン星人の苦手はスペシウムであることがばれ,スペシウム光線でバルタン星人は敗れるわけですが,これというのも,対等な交渉をしようとしたせいです。ここに,『ウルトラマン』の世界観では,敵と味方の間にも「契約」が想定されていると言えます。

バルタン星人のようにアラシ隊員の肉体を利用して交渉しなくても,もっと野獣的な怪獣に対しても,科学特捜隊やウルトラマンは,それらと自分との立場・関係を把握した上で行動しているように見えます。つまり,ほとんどの場合“敵”として振る舞う怪獣との間にも,見えない「契約」があって,その「契約」が確認されたとき,お互いの自らの取るべき行動も認識されるのです。その好例が,亡霊怪獣シーボーズが登場する「怪獣墓場」ですね。

この「契約」が興味深い形で出てくるのが,悪質宇宙人メフィラス星人です。メフィラス星人はサトル少年を地球人の代表とし,さまざまな超能力を披露して,「地球をあなたにあげます」と言わせようと脅しをかけます。これらの超能力や,配下に置くバルタン星人・凶悪宇宙人 ザラブ星人・誘拐怪人ケムール人などを使えば,おそらく地球の侵略などたやすいはずです。実際,一時はハヤタを変身不能に追い込むし,ウルトラマンとの戦いでは互角の戦いを見せます。それでも,子供に「地球をあげます」と言わせようとするあたり,「契約」の気配がしますね。メフィラス星人はハヤタ=ウルトラマンと,

メフィラス星人「貴様は宇宙人なのか?人間なのか?」
ハヤタ=ウルトラマン「両方さ」

と会話するんですが,これなんか,ウルトラマンとハヤタ,ウルトラマンと地球人の間の「契約」を問いただしてる発言ですよね。

また,宇宙人の側も,単なる敵と言うよりも,例えば三面怪人ダダなんて,無線で上司の指示を仰いだり,彼らも何らかの社会的な「契約」のもとに行動していることが描写されています。

そんなわけで,『ウルトラマン』の世界は「契約」社会だと思うのですが,これは物語の舞台となる「近未来」とともに,独特の雰囲気を出しています。単に科学技術の発達というだけの未来像ではなく,「契約」によって人の行動が動機づけられる,人間の理性を重視した世界観が背景にあるんですね。ウルトラマンの静かな戦いに「武士道」を見る人がいるのも,ウルトラマンと怪獣との間に,お互いの立場・関係を確認しつつ戦うという,「契約」の中での戦いだからではないでしょうか。

このネタ,けっこう書くの大変なんだけど,1ヶ月続くかな?(弱気^^;)


3/Jan/1999(Sun)

思い返してみると,12月の「考古学のおやつ」って,お説教みたいな話が多いですね。読んでて疲れません?自分でも読み返して疲れちゃいます(おいおい)。

ちょっと気合いが入りすぎてたのかなー。とりとめもなく書いてて,「何か結論を出さなきゃ」と変な色気を出すと,結局お説教みたいになるんですよね。何話しても説教になるなんて,こりゃぁ“オヤジ化”の兆しかも知れない。あー,大変だ(^^;;;;。

よし,“オヤジ化”阻止のため,今月の「ほえづらコラム」は童心にかえって,ウルトラマンの話をしよう!
え?童心にかえりすぎ?いーの。もう決めたの!(強情^^;)

そんなわけで,現在準備中です。もうしばらくお待ちください。


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