考古学のおやつ

鳥取県に訪れた冷たい冬

萬維網考古夜話 第10話 26/Jan/1999

第8話までは、登録日当日に閲覧者の半数が覗いてくれたのに、前話は1/3以下でした。さすがにそろそろ、飽きられてきたかのでしょうか?ちょっと早すぎる気もしますが(^^;ゞ。
ひょっとすると、みなさん、業界内幕ネタとかがお望みなのかも知れません。伏せ字トークみたいにしたら、たくさんアクセスしてくださいますか?(もちろん、アクセス数がすべてではないですが)
とはいえ、登場人物は同じ考古学業界で生活する仲間(しかも大半が先生・先輩)だし、こっちは実名も出してるわけですから、言えないこと多いんですよね(^^。

コーナー開始当初に用意していたネタは、だいたい前話で使い切ったことですし、ここであっさりやめてしまうという手もありますね(^^。一応、20話くらい分の予定がありますが、予定だけで、中身はこれから書かなきゃいけませんし。う〜ん。死ぬかも(^^;ゞ。やっぱり、そろそろ考え直すかな?

これ、1月20日ごろの認識なんですが、どうやら以前のような登録直後の集中アクセスではなく、少し分散されてきたためのようです。定着してきたってことでしょうか。前話も50アクセス以上ありました。杞憂だったわけですね。みなさん、ありがとうございますm(_ _)m。

前話で少し話題にした文化庁の「通知」がらみも、私の立場ではちょっと発言しにくいんですよね。

ただ、これは単に立場の問題ではありません。

文化庁の通知について、断片的なことなら、それぞれに言いたいこと、言えることがあると思いますが、一つの意見として練り上げるのは大変ではないですか?みなさん。
ついつい、自分の「経験」に寄っかかって、小さなことだけ論じがちになると思うんです(私も、そんな話ならいくつも思いつきます)。もちろん、それらの断片断片が、それぞれに大切なことではありますが、でも、それだけではリアクションとして、ちょっと寒いですね。だからといって、でかい話がいい話とも限らないし……。一方で、端(はた)から知った風に妙な一般論を言うのもよくないですしね(でも、きっと現れるよ、そんな人)。

その上、9月の通知がどこかで止まっていて考古学業界に周知されないという事態。問題が複雑すぎます(^^;。論点を整理するところから始めないと、いけませんね。

ここまでの文は、チャット(2004年5月31日廃止)でおがみ大五郎(植田隆司)さんと会話した中の、私の発言をまとめたものです。少し言葉を補いましたが、語尾などはチャットのままです。
「この会話をそのまま第10話にすりゃよかったかも。とりあえず、第10話の枕くらいには使いましょう(^^。」という私の言葉を実現させたことになりますね(安直なページ作りかも(^^;ゞ)。
なお、発言の責任は白井に帰するものです。

長〜い前置きでした(^^;。ここからが今回の本題です。
さて今回は、前置きにいきなり逆らいまして(^^;ゞ、鳥取県大山町と淀江町(2005年3月31日から米子市)の妻木晩田(むきばんだ)遺跡群に関連して、妙な一般論でお茶を濁したいと思います。

きまぐれNEWSLINKにも載せましたとおり、ゴルフ場開発予定地に見つかったこの遺跡について、長期にわたって結論が出ぬまま、掘りっぱなしの遺跡が放置されてきましたが、ついに鳥取県は遺跡の全面保存を断念し、ゴルフ場との「共存」案を作成することにしました。西尾知事の任期中に、という言葉は果たされたわけですが、遺跡の崩壊はその間に進んでしまいました。知事の任期がどうのこうのという問題ではないのです。

ちょっと前にも話題にしたニュースステーションテレビ朝日系)も、昨年、妻木晩田遺跡群(むきばんだいせきぐん)を特集しましたね。あの、茶番と評された鳥取県議会。ひどい話でしたね。

全面保存を粘り強く訴えてきた人たちに対しては、少し酷な言い方かも知れませんが、何かの“結論”は出さなきゃいけないわけで、結論が出ないよりはいいわけです。もちろん、結論の正しさは追求しなければなりませんし、全面保存の理想を追う気持ちは、私にもわかります。むしろ、問題はその結論に至る経過です。今回の問題も、経過次第では別の結論に落ち着いたかも知れないし、同じような結論でも、経過次第では問題は別の形になっていたはずです。

そんなわけで、今回は必ずしも考古学の話ではありません。行政の話です。なお、以下は必ずしも鳥取県がそうだ、と言っているわけではありません。

行政にとって大切なこと、この抽象的な題目の下には、いろいろな標語を書き込むことができるでしょうが、私が今回強調しておきたいのは、「信頼」ということです。

「市民の信頼がどうのこうの」といいながら、実は「市民は黙って俺の言うことを聞いてればいいんだ」という意味だったりする噴飯物の人は論外として、やはり行政は市民の信頼に支えられて仕事をしたいものです(この辺、今回はちょっと理想に走っている(^^;)。

民間企業は業績が悪化すると倒産してしまいますが、役所は倒産しません。しかし、外見的に生き延びていても、「信頼」を失った役所に、どれだけの存在意義があるのでしょう。何をやっても「どうせお役所だから」と相手にされなかったら、後々困ることも多いはずです(すでにそうなってるところもあるでしょうが)。

時に権利が衝突するまさにその現場(これは発掘「現場」に限りません。「窓口」は大体みんなそうです)で、権利を調整する「公共の福祉」が、確かに公共の福祉に他ならぬと納得されるには、その手続きの適切さを示すしかないのです。胡散臭さ満点の不透明な経緯のあとで、「○○法でそうなってますから」とか、「上の機関の方針ですから」とか言っても(そして、仮にその発言にウソがなくても)、やっぱり納得できないですよ、普通。

市民からの信頼にもっとも敏感なのは、彼らに日常的に接する窓口を持つ市町村でしょう。市町村では市民に顔を合わせない部署は少ないし、そんな部署に一度も配属されたことがない職員なんて稀です(もしそんな職員がいれば、よほど特殊な技術職か、無能の烙印が押された職員か、どちらかでしょう)。まして埋蔵文化財の担当者なんて、衆人環視の中に置かれているわけです。当然、言葉にも気を遣うようになるし(無頓着な方もいますが)、どこかよその部署や議員が言った言葉の影響に悩ませられることも多いでしょう。

「あれでもマシなのか」の声が聞こえてきそうですが、残念ながら、「あれでもマシ」が実態なのです。

県以上になると(「以上」という言い回し自体が疎ましいですが)、相手は役所か、限られたいくつかの企業くらいになってしまいます。県の場合、一般の窓口って、旅券発給事務(つまり、パスポートですね)くらいですよね。

私も政令市にいましたから、よく「市町村って言っても、あなたのところは県並みでしょ」なんて言われましたが、わかってないですね。役所の性格を量的にしか、捉えられないのかなぁ。

こんなこと言う人は、だいたい行政経験のない大学人か、まさにどこかのの職員だったりします。あ、念のため言っときますけど、福岡県の人じゃないですよ(^^;ゞ。

市民を直接相手にしているところと、役所を相手にしているところは、本質的に違うんですよ。もちろん、そんな違いがなきゃいいと思うんですけど、現実には意識の差が厳然とあるように思います。ですから、何十万人しか人口がいなくても、県は県、何百万人の人口がいようと、市は市なのです。

そのまた上(これも疎ましい)は……って、ここから先はお話しにくいんですけど、大体趣旨はお察しいただけますよね。

地方から転職してきたお上りさんの私にとっては、「地方の人は自分たちより野蛮で幼稚に違いない」と思っている人が中央官庁の一部(強調しておきますが、一部です)にいることに、呆れ返ってしまいます。いや、そういう一面はあるかもしれないけど、あなたを基準にしてそれ以下、って考えるのはひどいんじゃない?(やばーい(^^;)

でも残念ながら、窓口を持たない役所が、窓口を持つ役所の監督をしているのが、現実なのです。もちろん、高い視点、広い視野を持つ機関が上位に立って当然なのですが、最前線の人たちの苦労が見えなくなったら、ただの浮ついた視点になっちゃいますよね。

役所の間の上下関係など、固定した関係の中で話をしているのとは違い、市民の信頼というのは、そう簡単に得られるものじゃないでしょう?そう、萬維網考古夜話で何か言ったくらいじゃ、埒があきませんよね。そして、埋文担当者がほとんど独力で長年かかって築いてきた、市民や地元企業との信頼関係が、異動してきたバカな新任課長の一言でチャラになってしまうことだってあります。まして、“上”の方の機関が変なことしちゃったら(そして、それはありがちなのですが)、もうお話になりません。しかも、その場合、悪い対応のために苦労させられるのは、やはり市町村の最前線の担当者、ということになります。

う〜ん。話し始めた当初からの予定とは言え、今回は暗い話ですね。すっかり気が重くなったところで、鳥取県に話を戻しましょう。

今回の過程で最も苦しんだのは、鳥取県の市町村の担当者ではないか、と思えてなりません。そして、その苦しみは、今後しばらく祟るように思われます。

大遺跡の保存にこぎつけた県でも、やっぱり市町村にとってはつらくなった、なんて例もありますけど。

鳥取県に訪れた冷たい冬。その凍える寒さで崩れ落ちていくのは、傷ついた遺跡だけではすみません。


次回は、立春直前企画のつもりです。


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