考古学のおやつ

場面の中に、ぼくらはいた−新羅土偶物語・前篇

萬維網考古夜話 第12話 9/Feb/1999

注意 女性の多い職場でこのページを閲覧すると,セクシャルハラスメントで告発されるかも知れません。お気をつけください。また,18歳未満の方は,閲覧をお控えください。……って,こんぐらい断っときゃいいか?

韓国の国立慶州博物館には,新羅王朝の遺物が数多く展示されています。そのうちの一つの行灯ケースには,いつも多くのお客さんが群がっています。

行灯ケースとは平面形が正方形の,縦長のケースです。立体的な作品を四方から観察するのに適しています。

嶺南考古学会九州考古学会第2回合同学会(な,長い(^^;ゞ)のとき,見学の日程に慶州博物館が入ってまして,そのときも日本から訪れた多くの考古学者が,このケースを囲んでいました。いえいえ,よく見ると“囲んで”なんかいません。四方から観察できるケースなのに,なぜか特定の一方向にばかり群がっていました。●●大学の◇◇助教授も,◎◎市教育委員会の▲▲さんも……。

そのケースには慶州市・味鄒王陵地区鶏林路30号墳(これも長いな(^^;)から出土した長頸壺が展示されていたのでしたが,この壺の肩にはいくつもの土偶が配置されていて,何かを表現しています。琴を弾く人物,カメ,カエル,ヘビ,トリ……それらとともに,四つん這いになった人物(多分女性)と,その背後で局部を露出する男。この部分に,日本から訪れた考古学者たちは釘付けになっていたのです(情けな……)。

この土器は,以前から図録などでおなじみの遺物で,写真を載せるときは,だいたいこの男女の土偶が写真の右側に来るようになっています。人物や動物の土偶自体はこの壺の肩をめぐっているんですけどね(^^;。

小泉顕夫先生の『韓国古代遺跡の遍歴』に「公開を憚る皇南里のセックス土偶」と題して,こんな一節があります。

私共を最も驚かせたのは人物像の大部分が男女の性的行為をリアルに表現したものである。特殊なものでは仰臥した妊婦と介添えの女,小舟の上で自慰にふける男等があり,いずれも局部を極端に誇張しており,大型壺の中には胴部を繞って裸形の男が大の字に手を繋いで並び,いずれも巨大な局部を突出させている物など公開を憚るものが大部分を占めていた。(p.49)

この本の48ページには,先ほどの有名な長頸壺とともに,もっとすごい状態の土偶の写真も並べて掲載しています。
しかし,私のつたない筆じゃ性描写はできないなー*^^*(赤面)。しかも「考古学のおやつ」は画像をできるだけ載せない主義ですし,著作権を尊重してますので,やっぱり載せてません(^^。今からこの本を買おうにも,六興出版はなくなっちゃいましたしね。

小泉顕夫,1986,『朝鮮古代遺跡の遍歴−発掘調査三十年の回想−』,東京,六興出版

ところが,このすごい状態の土偶(国立中央博物館蔵),展示されてしまったんです。特別展『新羅土偶』で。

この展覧会は,国立慶州博物館で1997年冬に始まり,その後好評につき会期が延長されたそうです。やっぱりあれが好評だったのでしょうか(笑)。

そのカタログには,当然展示作品のカラー写真がいっぱい載ってまして,3ページにわたって絡み合った男女の土偶の写真が続いています(作品名も「性交中の男女」)。これ,職場で開けないんですよね(開いてるけど(^^;)。

国立慶州博物館,1997,『新羅土偶−新羅人の生,その永遠なる現在−』,ソウル,通川文化社

今回と次回の2話にわたり,この新羅土偶の世界をお話しします。子供は見ちゃダメだよー。保護者か先生の同伴でね。でも,やっぱり画像はないよ。


新羅の土偶は,みなさんおなじみの日本の縄文時代のそれよりもかなり新しく,西暦で5・6世紀ぐらいのものです。ちょうど日本では形象埴輪のころですね。日本では古墳時代,朝鮮では三国時代と,支配者の大きな墳墓が作られて,支配制度が整っていきます。

「いや,とっくに支配制度が整っていた」と主張する人もいるでしょうね。まぁ,とりあえず大目に見てくださいm(_ _;)m。

三国ってのは高句麗,百濟,新羅のことで,このほかに加耶諸国などがしのぎを削ってましたが,土偶は主に新羅で作られました。……と心ひそかに思っていたのですが,昨年国立中央博物館の宋義政さんが来日されたとき,「形象土器のたぐいは新羅が本場」と話されたのを聞いて,大いに意を強くしました(単純)。

新羅は朝鮮半島の東南部の小国から,だんだんと勢力を増して,7世紀には朝鮮半島を統一します。土偶を作ったころは,飛躍的に支配制度が整備されていく時期に当たってるんですね。

で,丸出しの男とかの存在につい気を取られちゃいますけど,いたって素朴に見える新羅の土偶にも,いろいろと作り方のルールがあるみたいなんです。これらの土偶は,古墳の副葬品として使われてますので,当時のお葬式のしきたりに沿うように作られてるはずですよね。逆に言うと,造形のルールを突き詰めていくと,当時の社会のあり方や,人びとの世界観にいくらかでも近づけるかもしれません。

で,服着てる土偶は次回に回すことにして,衣服の表現がない土偶が多いのは,すぐに気づきます。単に衣服の表現を省略してるんじゃなく,それどころか,明らかにこの人は裸の男性だ,とわかってしまうような表現です(なんちゅ〜婉曲な言い方(^^;ゞ)。こうした表現は新羅土偶の特徴の一つです。

で,もう一つ気にしておきたいのが,土偶の場面です。土偶は一つ一つバラバラに作ることもありますが,先ほどの鶏林路30号墳の壺のように,土器の上にいくつか土偶を並べて,全体で場面を構成することもあるんです。もちろん,単体の土偶も,墳墓の中で並べて場面を作っていたかもしれませんが,その辺がわかる調査例が少ないので,その代わりに,土器の上で群像になっている土偶の「場面」を分析したら,土偶の意味に手がかりが得られるかも知れません。

で,料理番組のようにいきなり話は進みますけど,場面を構成できる土偶と,場面を構成できない土偶があるみたいなんです。

いえ,厳密に言いますと,墳墓での出土状況がよくわからない以上は,「場面を構成できない」と言い切ることは危険ですね。実際は,一つの土器を「舞台」として共有して場面を作ることができない,というべきなんです。土器を共有しないけど,実は場面を構成していたかもしれないわけですから。
ま,研究論文なら厳密にしたいところですが,これまた大目に見てm(_ _;)m。

で,この場面構成型土偶(……と,いきなり勝手な用語を作ってしまうのが考古学業界の悪弊なのであった)のキャスティングを見ていきますと,先ほど出てきたカメ,カエル,ヘビ,トリ,それからシカ,イヌ,変わったところでカニやヒトデ,そうそう,忘れちゃいけないのが裸の男女とその行為ですね。人間も含めて,自然のままの姿をしています。ヘビがカエルにかみついた表現もよく見られますね。

慶州市・路東洞11号墳で出土した長頸壺にも,土器の肩から頸にかけて,土偶が貼り付けられています。やはりヘビがカエルにかみついたモチーフがあります。また,杖のようなものを持った人物も表現されていますが,この人物も,男性の大事なものをさらけ出して,しかも右手でつかんでいます(何してんだ?)。

いろんな動物や人物の群像があるのですが,こんな土偶の場面で特に繰り返し表現されているのは,男女の交わりのシーンと,ヘビがカエルにかみつくシーンです。

土偶がお葬式で亡き人に副葬されるとすると,土偶には当時の人の願いがこめられたはずです。とすると,ヘビがカエルにかみつくシーンも,何かいい意味があったから表現したはずです。困りましたね。ヘビがカエルにかみつくことに,どんないい意味があるんでしょう。カエルにとっちゃ迷惑な話です(ヘビとカエルを焼酎に浸して精力剤にした,という傑作な説がありますけどね(^^)。

で,もうファイルサイズが大きくなってきたから,無理矢理こじつけますが(おいおい),ヘビがカエルにかみつくことは,自然の摂理といいましょうか,自然界の秩序にかなっているということでしょう。多くの人は,ヘビがカエルを食べるのは自然のありのままの秩序で,当然のことだと思っていますね。カエルが一味神水してヘビに反撃し始めたら,もうこの世の終わりかも知れません。かといって,ヘビがカエルにかみつくシーンを日常的に目撃することもないでしょう。そうした,日常的には見られないけれども自然界のあるべき姿を,土偶で表現して,「あるべき世界」を死者の墓に供えたんじゃないでしょうか。

そうしますと,男女の交わりのシーンの意味も,同様に考えることができます。男女の交わりも自然の秩序ですが,かといって日常的に目撃するわけではありません(そういう人もいるだろうけどね)。

彼らが表現された世界では,人も動物も生まれたままの世界で共存しています。とっても水平的な世界です。

土偶の場面を作り出した作者は,そうした自然の秩序といいますか,あるべき世界を表現していたのではないでしょうか。死した後,自然の秩序にかなった平和で牧歌的な世界で幸せになれるようにという願いが,この土偶の背景にあると考えられます……いやいや,考えたいんです。

でも,これって古墳から出るんですよね。もう世の中,平等なんかじゃないんです(それ以前に平等な世界があったかどうかもわからないしね)。ただ,平等な世界を,たとえ虚構でも,夢想することができた時代だったんでしょう。

と,伏線を張っといて,次回へ続きます。場面の中で戯れる二人を待つ運命は……。


今回と次回の話は,1997年7月1日に一般向けに話した内容をアレンジし,いくつかの文献・情報を追加したものです。


[第11話 花開け! 考古学コラム|第13話 禁じられた楽園−新羅土偶物語・後篇|編年表]
白井克也 Copyright © SHIRAI Katsuya 1999-2005. All rights reserved.