考古学のおやつ

頭突き兄弟

萬維網考古夜話 第60話 14/Aug/2000

警察官の交通違反なら取り締まらない県警とか,ハエ入りトマトジュースのことを言わぬよう被害者に口止めする企業とか,困った役所や企業は絶えません。今回の話も,1か月近く前に考えていたもので,時間がたって話題が古くなるかと思いましたが,どんどん新手が登場するので,ネタにする役所や企業を入れ替えるだけで,ほとんど同じ話ができそうです。

でも,やはり一連の騒ぎで最初の方に登場したリサイクル産業……じゃなくて★製品会社はすごい。
問題がほとんどバレバレなのに,一番言ってはいけないこと,してはいけない対応を連発して,どんどん企業イメージが悪くなってしまいました。社長が「9月に辞任する」と発表しても,「どうせ,また言い分が変わるんだろ」と聞き流されていたところ,実際は予告より早く辞任して,ウラのウラをかいてきました。

ここは操業も再開したし,すでにいろんなところで批判されているので,このくらいにしておきましょう。もっと問題なのは,「ひとごとなのか?」ということです。

これらの役所や企業の対応が,なぜとても情けなく見えるのか,それは,ミウチにしか通用しない論理を,それと知らず外部に対して表明してしまうことにあります。
では,考古学業界は?……という具合に固い話をすると疲れるので,今回は業界内部の,さらに小さなミウチの論理のお話を(^^;ゞ。


今年の7月中旬から下旬は地震に台風,火山に梅雨がやたらに襲ってきて,内閣に朗読大臣ができたと思ったら,あれが実は首相だというし,しかも食中毒は怖いし……,という天災・地災・人災の3拍子そろったとんでもない状況でした。そんなわけで,というわけでもないですが,このころ私は国外に逃亡して,嶺南考古学会九州考古学会の合同学会に行っていました。

(^o^)/ 第4回九州考古学会・嶺南考古学会合同考古学会大会 考古学からみた弁・辰韓と倭
2000年7月19日(水)〜21日(金):東亜大学校大新洞キャンパス/韓国・釜山市(29/Nov/1999,14/Dec/1999)
(1/Jan/2010補足)福岡県前原市は2010年1月1日から糸島市

内容は,いずれ『九州考古学』誌上で報告されるでしょうから,今回は内容を云々……,という話はしません。

学会の実現までには,両学会の実行委員のご苦労があったことと思いますが,中でも,学会終了まで気を抜けないのが通訳を担当した人たちです。留学生や留学経験者はたいへんですねぇ。

発言者が通訳しやすいように話しているうちはいいのですが,訳がつくことなんて念頭に置いてない人というのもいるわけで,そのようなときの通訳者の苦労は測り知れません。それでも,今回の通訳はなかなかの熟練技を見せてくれました。

例えば●氏は,△氏の発表の通訳を担当しました。△氏は,通訳を想定しない,しかも切れ目なく割り込みにくい話し方で,●氏は最初,訳を割り込ませるのに苦労していましたが,発表の中で徐々にタイミングをつかみ,後半は絶妙の割り込み技を披露してくれました。ただ,その後,△氏への質問に立った◆氏がこれまた別の割り込みにくい話し方で,●氏の苦労は絶えることがなかったわけですが。

通訳者の努力により,学会が進んでいるのですが,通訳以前の問題も見逃すわけにはいきません。両学会員の親睦を深めることが重要な目的であるとはいえ,やはり,話が通じないのでは困ります。何かを話しても,そのままでは参加者の半分にしか理解できないわけですから。
ところが,通訳の存在など想定していない話題や話し方では,通訳者に過剰な負担を強いて(機転を効かせて適当にかわす通訳というのもアリかも知れないが),しかも話が通じないということになりかねません。

今回の学会では,どうも,「これ,訳しただけで通じるのか?」と思う瞬間があっただけでなく,甚だしきは,司会者がみずから通訳無視の一方的なしゃべりを披露するという事態さえありました。進行を焦ったのでしょうか(いや,単にどうしても言いたいことがあっただけかも知れませんが)。

また,通訳しやすく話す,という問題は,実は,通訳よりもさらに大きな問題を含んでいます。日本語の話で,通訳者が訳に困っている場合,実は日本人のはずの私も,「これって,何が言いたいんだ?」とか,「これって,質問とズレてないか?」と思っていたりします。
また,日本人同士なら,あるいは,同じ県の人同士なら,あるいは,同じテーマで研究している人同士なら通じる表現でも,その仲間から一歩出ると通じないということもありますね。つまり,ミウチだけ,あるいはオノレだけにしか通じないことを,知らず知らずのうちに言っているのです。
いつもは,理解できない多くの人(あるいは聞き手全員)が聞き流していれば良かったのでしょうが,全部聞いて理解して伝えなければいけない通訳者が存在することで,もとの発言の欠陥がみえてくるのです。

ミウチにしか通じない発言で典型的なのが,時期を「中期」とか言うだけですませるやり方です。今回,日本の人が「中期」と言った場合にその意味は「弥生中期」一つしかなかった(関東では限定なしの「中期」は別の時期を指すような気がする)わけですが,たとえ「弥生」を頭に付けていても,韓国の人にその背景のニュアンスが違ったかどうか,並行関係や実年代について,対照したり,合意を取り付けておく必要はなかったか,疑問が残ります。岩永さんの発表とその質疑で少し並行関係に話が接近した以外では,ほとんど何の注釈もないまま,これらの言葉が使われていて,結局は学会の最後に,実は話が通じていなかったと痛感させられる事態になりました。

発表者などの壇上の人物だけではなくて,参加者にも,このような問題を回避するための心構えや行動があっていいのではないでしょうか。
一方の側の発表は,そのままでは,どんな意義があるのか,どんな問題を提起するのか,他方の側の考古学にどのような影響を及ぼすのか,伝わりにくい部分もあります。そこで,発表の意義を要約したり,また,議論の中で使われた論理の応用性などを強調する質問やコメントがあってもいいでしょう。また,運営サイドがそのようなコメンテイターをあらかじめ準備しておくのも一案です(度が過ぎると不毛なやらせになってしまうので,限度がありますね)。

いずれにせよ,ただ自分の訊きたいことを問いただすためだけ(……と言っても,本来質問とはそういうものですが(^^;)の質問では,これまでもありがちだったように,日本側の発表に質問するのは日本人だけ,韓国側の発表に質問するのは韓国人だけ,という状況に陥ってしまい,せっかくの国際学会が,結論をぶつけ合うだけの場になってしまうことでしょう。

そう言えば,熊本で行われた前回の合同学会「環濠集落と農耕社会の形成」の時,ある発表に対して◎教授が,相手方の国の人には理解できないような,しかも,自国でもごく数人にしか関係ないような,しかも,発表の内容から外れたような質問をされて,その数人以外はだれも話に参加できない(もともとの発表者も参加していなかったような気もする)という事態に陥りました。
偉い先生なんだから,もっと合同学会の意義を高めるような質問をすればいいのに。

だからといって,私のした質問が適切だったかどうか,心許ないものはあります(あのとき,会場,引いてたしなぁ(^^;)。そう言えば,質問しろと唆されながらも最後までそのチャンスを得られなかった某大学院生氏は,どういう質問を用意していたんでしょうね。


ところで,学会2日目が終わったとき,話題に畿内の遺跡などが登場しないことにご不満の■教授が,

□教授 「なんだ,これは九州考古学会か」

と言っておられましたが,そんなこと,韓国に渡航する前に気づかれなかったのでしょうか????

お断り このコラムでは従来,伏せ字ともとの言葉との字数を合わせることを原則としてきましたが,今回は例外としました。

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