日本出土の朝鮮産土器・陶器

―新石器時代から統一新羅時代まで―

出典：『日本出土の舶載陶磁』（2000）

(3)で馬韓土器の概念を強調したことは，国内の発表論文としてはかなり早いほうに属するが，6世紀の馬韓土器を軽視しているのは失考であった。2001年になって馬韓土器の内容が複雑であることを「百済土器・馬韓土器と倭」として発表した。

(5)の加耶土器については，「○○タイプ」「○○系」「○○式」などの従来の用語を敬遠し，「○○地域加耶土器」などとした。これは，金海について「金海地域加耶土器」「金海地域新羅土器」の両概念を操作していることにも関連する。小地域ごとの動向と大勢力の動向とを捉えるための試みである。

百済土器・新羅土器・軟質土器は次のファイルに譲る。（15/Apr/2002）

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4.原三国・三国時代―弥生後期・古墳時代

紀元前108年，漢の武帝が衛氏朝鮮を滅ぼし、その故地である朝鮮半島北部・大同江流域を中心に現地支配機構として4郡を建てた。楽浪郡以外の3郡は、いずれも廃止・移転し、紀元前1世紀前葉には楽浪郡に他郡の属県も編入され大郡となった（大楽浪郡時代）。現在の平壌地域では、楽浪郡の遺跡である古墳や土城が数多く調査されており、その実態はある程度研究されているが、それによると、楽浪郡には漢文化が移植され、その中に在地の文化も取り込まれた。土器においては、漢代の灰陶の流れを汲む還元焔焼成の楽浪瓦質土器と、在地土器（古朝鮮土器）の流れを汲む滑石混和土器がみられる。その後楽浪郡の南に帯方郡が分置されるが、帯方郡治下の土器も楽浪土器の概念に包括する。

北方に楽浪郡が建てられると、南朝鮮でも楽浪瓦質土器の影響を受けた還元焔焼成の土器が作られるようになる。三韓瓦質土器と呼ばれ、南朝鮮無文土器の流れを汲む三韓軟質土器とともに、三韓土器と総称される〔武末1985〕。三韓とは、『三国志』に記す南朝鮮の馬韓・弁韓・辰韓の総称であり、三韓土器がそれらの地域・時代に対応することからの命名である。しかし近年、朝鮮西南部（京畿道・忠清南北道・全羅南北道）の馬韓の土器に対する認識が深まり、また、それらが少数ながら日本列島にも舶載されていることがわかったので、本稿ではこれを馬韓土器として分離し、残る東南部（慶尚南北道）の三韓土器は弁・辰韓土器とする。

北方の高句麗は楽浪郡を313年に圧倒して中国東北地方と朝鮮半島北半にまたがる版図を誇り、南方では馬韓から百済が、辰韓から新羅が台頭した。弁韓でも加耶諸国が成立した。これより676年に新羅が朝鮮半島を統一するまでを三国時代と呼ぶ。

三国時代は支配者の巨大な墳墓、金工品の発展、陶質土器によって特徴づけられる。陶質土器は瓦質土器よりも高温での焼成が可能となったものである。陶質土器のうち日本列島に主に流入するのは慶尚南北道、新羅・加耶地域のものである。しかし、三国時代の初め、ほぼ4世紀に当たるころのこの地域は土器の地域性が明確でない。また、地域性が発現することと、古墳などのほかの文化現象との関連性も想定されている。地域性発現以前の慶尚南北道の土器は「古式陶質土器」と呼ばれるが、この時点で、慶尚南北道の土器と馬韓や百済の土器とはかなり異なっているので、馬韓・百済の土器と区別するため，慶尚南北道のものについては武末純一の提唱する古式新羅加耶土器の用語を用いることとする〔武末1985：138〕。

5世紀初頭ごろ、古式新羅加耶土器は地域性が明確になり、新羅土器と加耶土器が分立するが、本稿でいう新羅土器は、ほかの文献と異なる場合があるかもしれない。それというのも、慶州を除く慶尚南北道の洛東江東側地域にみられる陶質土器の解釈が研究者によって異なるからである。これを検証なきまま加耶土器とみなすのは日本の考古学者に多い傾向であり、「任那」論の残映ともいうべきである〔白井1996e：109〕。一方で、新羅土器とみなす見解もある〔金元龍1960〕。こうした意見の対立は、土器の形態差と政治的な関係とをいかに対比するか、その態度の違いを反映している。定森秀夫が諸条件を考慮してこれらに「江東系陶質土器」〔定森1999：9〕の名を与えて分離しているのも、そうした事情による。最近、李煕濬は洛東江東側が古くより新羅との連盟関係にあるとみなし、その政治的な関係を墳墓と副葬品から推定できるとした〔李煕濬1996〕。本稿もこの考えにほぼ従っている。そのため、以下に述べる新羅土器には、従来加耶土器や江東系陶質土器として扱われていたものの一部が含まれることになる。

一方、加耶土器の中にも明確な地域性があり、具体的な政治集団と関連付けて理解されている。代表的なものに慶尚南道金海市を中心とする金官加耶、慶尚南道咸安郡を中心とする阿羅加耶、慶尚南道固城郡を中心とする小加耶、慶尚北道高霊郡を中心とする大加耶がある〔韓国古代史研究会（編）1998〕。そこで、本稿ではそれぞれについて金海地域加耶土器、咸安地域加耶土器、泗川・固城地域加耶土器、高霊地域加耶土器と呼び、さらに陜川地域加耶土器にも独自の項目を立てた。

このほか、三国時代には主に生活用の土器として原三国時代以来の軟質土器がある。これらも日本で出土しているが、故地を決めがたいものが多いので、独立の節を立てることにする。

北方の高句麗にも独自の土器があったが，6世紀までの日本での出土例が知られていないので、本章では扱わない。

なお、三国時代のうちではあるが、6世紀末以降は朝鮮産土器・陶器の日本での出土傾向に顕著な変化がみられる。これを「三国抗争期」として分離するのはすでに述べたとおりである。

(1) 楽浪土器

日本列島出土の楽浪土器について、まず、『三国志』に記す、帯方郡使の通過した「国」名にしたがってみていこう。

「対馬国」に比定される対馬では、長崎県上県郡峰町・木坂遺跡2号石棺墓（図18）などの出土例があるが、遺跡ごとの出土点数はわずかであり、武末純一は「内容物に伴う移動の可能性が高い」とする〔武末1996：26〕。

「一支国」に比定される長崎県壱岐郡勝本町・カラカミ遺跡出土の壺（図15）〔小田・韓（編）1991：38、193〕は、精選された胎土であり、楽浪壺形土器の典型的なものである。このほかに丸底壺（図16）も出土しており、この遺跡は対外交渉の拠点と目されている。

「伊都国」に比定される福岡県前原（まえばる）市・三雲遺跡番上II-5地区土器溜では、壺・杯（つき）・器台など、多くの楽浪土器が廃棄された状態で出土した（図17）〔柳田・小池（編）1982〕。弥生後期であるが、廃棄の始まりを弥生中期後半に求める意見もある〔武末1987：849〕。さらに、同県糸島郡志摩町・御床松原（みとこまつばら）遺跡D-6区3層上部（弥生後期）出土の楽浪土器片〔井上（編）1983：130-131〕、同郡二丈町・深江井牟田遺跡出土の鉢・壺〔川上1995：28〕など、糸島半島が当時の交流の玄関口であったことを物語っている。特に三雲遺跡の例は、郡使の一時滞在を示唆するものかもしれない〔武末1996：26〕。

「奴国」に比定される福岡市博多区・雀居遺跡第4次調査溝状遺構SD03上層（弥生後期後半から古墳前期）出土の楽浪土器はロクロ目が明瞭な薄手の瓦質土器で、胎土も精選されている〔下村（編）1995：121〕。明らかに舶載品である。雀居遺跡では第4次調査溝状遺構I区SD-02、第5次調査溝状遺構SD-002（両者は一連の遺構；弥生後期後半）の木製案（机）などの楽浪系遺物も知られており〔下村（編）1995；松村（編）1995〕、活発な対外交渉を物語っている。

福岡市博多区・博多遺跡群第17次調査SB169でも、楽浪土器類似の例が知られている。遺構は6世紀末から7世紀前葉にかけてのものであるが、器形・胎土・色調からみて、楽浪土器の可能性が考えられる〔柳沢・杉山（編）1985：15〕。

福岡県築上（ちくじょう）郡築城（ついき）町・十双遺跡では、弥生後期終末と推定される第13号住居跡の床面から楽浪土器鉢が出土している。この例では、竪穴住居跡から、しかも内面に赤色顔料が付着した楽浪土器が出土したことから、弥生人が何かの理由で楽浪土器を入手・使用したことがわかる。また、同じ遺跡の第9号住居跡の床面から、やはり楽浪製と推定される銀製品が出土している。集落自体は農業を経営していたと考えられているが、九州東岸という位置や、東瀬戸内系の土器を出土することから考えて、広域の交易にも有利な立場にあったのだろう〔中間（編）1992〕。

なお、これらの日本出土楽浪土器は、器形や胎土・焼成などが、平壌市・楽浪土城のそれ〔谷1984・1985・1986〕よりも洗練されているようである。つまり、通常の生活用土器ではなく、選ばれた土器だけが搬入されるような状況が想定される。

また、岡山県赤磐郡山陽町・門前池東方遺跡4号住居跡の柱穴からは筒杯形土器が出土している。器形は楽浪土城の出土例を彷彿とさせるが、胎土・焼成は在地の弥生土器のそれであり、楽浪土器に特徴的な底部の糸切りも行わない。しかし、この器形の類似は、何らかの理由で楽浪土器を知りうる状況が弥生後期後半ごろに存在したことを示していよう〔則武ほか1994：47-48〕。

これらの事例によると、今のところ、可能性の高い数例を除けば、確実に弥生中期に遡る楽浪瓦質土器の例はなく、また、弥生後期以降の出土例は対馬・壱岐・北部九州に集中している。

(2) 弁・辰韓土器―いわゆる三韓瓦質土器と三韓軟質土器

瓦質土器

最近の出土例と研究により、朝鮮南部での瓦質土器の出現は紀元前1世紀、日本の弥生中期後半に並行する時期であることが明らかになってきた〔高久1999〕。しかし、朝鮮半島では慶尚南道金海市・池内洞甕棺墓のように瓦質土器と弥生土器（中期末）の共伴が確認できる〔沈奉謹1982a〕のに対し、弥生中期後半の日本列島では、前章で触れた無文土器とともに、瓦質土器もほとんど知られていない。出土例の多くは弥生後期の遺構からである。やはり、対馬・壱岐と北部九州に事例が多い。

対馬では、長崎県上県郡上県町・佐護白岳遺跡から前期瓦質土器の巾着形壺と、後期瓦質土器の台付壺脚部が出土している〔水野（編）1953：23-24〕。同郡峰町・木坂遺跡2号石棺墓からは壺（図23）が出土している。

壱岐では、長崎県壱岐郡勝本町・カラカミ遺跡出土の瓦質土器短頸壺（図22）〔小田・韓（編）1991：193〕が知られる。

福岡市早良区・次郎丸遺跡では、第3次調査第10号溝から瓦質土器が出土している。古墳時代中期とされる遺構の時期とずれを生ずるが、器形や叩き目などから、古い時期の瓦質土器とみなされる〔中村（編）1996：20-21〕。

福岡市早良区・有田遺跡群第81次調査の谷SD07上層上面からは、ほぼ完形の瓦質土器平底壺（図24）が出土している。削平された集落遺物の再堆積と思われ、弥生・古墳時代の遺物を多く含んで時期を限定しがたいが、弥生終末ごろに山陰・畿内など外来系遺物が多く流入することが知られており、示唆的である〔濱石（編）1986〕。

福岡市博多区・比恵遺跡群第6次調査の井戸SE30（弥生後期）からは縄目叩きと沈線を施した壺肩部破片が出土している〔横山（編）1986：66-67〕、また、第51次調査の掘立柱建物SB-301（弥生終末）の柱穴からも、瓦質土器壺の底部破片が出土している〔白井（編）1996：7〕。弥生終末に多くの外来系土器が流入する遺跡であり、注目される。

福岡市西区・元岡遺跡群では、器形は弥生土器でありながら、格子叩きを施す器台が見つかっている。弥生後期に比定されており、「文化受容の失敗例」とみなされている〔武末1991c〕。製作技法に影響を及ぼすほどに、渡来人との交流が盛んであった証拠であろう。

広島県東広島市・東広島ニュータウン遺跡群胡麻5号遺跡SX3テラス遺構は、石棺墓SK43に伴うと思われるが、供献土器の高杯は、在地産とは思われるものの、器形が弁・辰韓の後期瓦質土器に類似する〔青山・沢元（編）1990：177〕。

また、鳥取県気高郡青谷町・青谷上寺地（あおやかみじち）遺跡では瓦質土器類似の弥生土器とされる出土例があり、弥生時代中期後半とされている〔大阪府立弥生文化博物館（編）1999：71-73〕が、その器形は瓦質土器としても新しい時期のものなので、直接の関係は想定しがたく、弥生土器の変異の範囲内で捉えるべきであろう。

大阪府堺市・四ツ池遺跡自然河川II第I層では瓦質土器の甕口縁部が出土している〔樋口（編）1985：36、45、55〕。

さらに、奈良県桜井市・上之宮遺跡建物06柱掘方12から瓦質土器脚付杯が出土している〔清水1989〕。遺構からは6世紀以前としか限定できないが、川上洋一は慶尚南道金海郡・良洞里21号墳出土の「複合器形土器」〔韓永煕ほか1989：77-78〕に類例を求めており〔川上（編）1994：53〕、さすれば弥生後期後半に相当する2世紀ごろに比定できよう。畿内地域の瓦質土器の事例として重要である。

名古屋市南区・見晴台（みはらしだい）遺跡では弥生後期に伴う斜格子叩きの鉢が出土しており、定森秀夫は「瓦質土器の最東限になる可能性」を指摘している〔定森1999：63〕。

瓦質土器でも末期のものと思われ、かつ示唆的な例として、奈良県桜井市・纒向（まきむく）遺跡巻野内地区出土のものが挙げられる〔橋本・村上1998〕。布留0式に位置づけられており、この時期の纒向遺跡の重要性に照らしても、注目される事例である。

軟質土器

このほかに、三韓軟質土器とも呼ぶべき酸化焔焼成の土器の事例が知られている。大阪府東大阪市・芝ヶ丘遺跡溝出土の軟質鉢〔武末1991b〕がそれである。弥生後期に比定されている。

福岡市博多区・雀居遺跡第5次調査溝状遺構SD-221（弥生終末）では、完形品はないものの、まとまった量の縄蓆文土器（縄目タタキの後、胴部に螺旋状沈線を施した甕）が出土している〔松村（編）1995：95、101〕。焼成良好で灰褐色ないし暗茶褐色であり、舶載の軟質土器とみなされているが、タタキ後のナデやハケメが観察されるものもあり、あるいは縄目タタキを用いた西新式土器、ともいうべきものかもしれない。このほかにも、雀居遺跡からは弥生後期・終末に比定される叩き目文土器が多く出土しており、朝鮮半島に由来するものも含まれている。

(3) 馬韓土器―両耳付壺・鋸歯文土器・有孔広口小壺・鳥足文叩き土器

現在の全羅南道・栄山江流域は、原三国時代には馬韓の領域であったが、4世紀以降は百済の領域となったと考えられてきた。近年、この地域の墓制や遺物の独自性を評価し、全羅南道地域の百済への服属を5世紀末ごろと捉え、それ以前は成人甕棺葬などを特徴とする独自の勢力が存在したと考えられるようになってきた。原三国時代の馬韓の流れを汲むもの、あるいは『宋書』にいう「慕韓」に比定されることもある〔東1995〕。それらは北方から百済に圧迫されて領域を南に狭めつつも、5世紀末ごろまでは独自の古墳文化（大型成人甕棺など）を維持していた。前方後円形の古墳〔岡内（編）1996〕や埴輪類似の円筒形土器〔小栗1997〕が存在するほか、栄山江式石室が九州の横穴式石室に類似すること〔林永珍1997：50-51〕、この地域の陶質土器が須恵器の器形に影響を与えていることなど、日本との関わりは深い。栄山江流域の土器についても、百済土器ではなく独自の土器文化として捉えられる。独自の項目を立てるゆえんである。

しかし「慕韓」は、『宋書』に倭国王済や倭王武の官位の一部としてみられるほか史料的な根拠に乏しく、栄山江流域の考古資料を呼称する用語としては不足である。また、以下に述べるように、原三国時代において京畿道・忠清道・全羅道に広く存在した馬韓の文化との継続性が認められることなども考慮して、5世紀までのものをも「馬韓土器」と呼んでおく。

馬韓土器として認められる土器には、両耳付壺、鋸歯文土器、有孔広口小壺、鳥足文叩き土器がある。

両耳付壺

両耳付壺は耳に縦方向の穿孔があり、同様の耳を持つ蓋と組み合うものである。馬韓地域の3・4世紀に主にみられるという〔金鍾萬1999〕。

日本列島では、弥生後期の長崎県上県郡（対馬）上対馬町・塔の首2号石棺墓から両耳付壺（図19）と鉢（図20）が出土している〔小田ほか1974：471；小田1978a〕。

舶載品ではないが、福岡県前原市・浦志遺跡A地点の溝状遺構から在地における模倣品（図21）が出土している〔常松（編）1984：21，24〕。赤色顔料を外面に塗付しており、特別な土器として祭祀に用いられたものであろう。福岡市博多区・比恵遺跡群出土の三耳付壺〔小田・韓（編）1991：41〕も馬韓土器の模倣品の可能性がある。とすれば、北部九州でも弥生後期に馬韓地域の両耳付壺に関する知見が存在したことになり、おそらく製品も渡来していたのであろう。

その後に位置づけられるものとして、和歌山県和歌山市・六十谷（むそた）大同寺遺跡の両耳付壺・蓋（図34）〔河上・奥田1972：163〕が、また、蓋だけの例として大阪府堺市・小阪遺跡C地区河川I遺物群2〔大阪府教育委員会（編）1992：293〕，同市・伏尾遺跡1766-OO土坑〔岸本・岡戸（編）1990：61-62〕の例がある。これらをみると、遺跡の年代観自体が金鍾萬の考える両耳付壺の存続年代より新しく、特に蓋の型式は、金鍾萬が古く位置づけたもの〔金鍾萬1999：58-59〕の方に近い。おそらく、両耳付壺は馬韓土器の存続期間の末（馬韓滅亡時）まで存続していたのであろう。

鋸歯文土器

鋸歯文土器とは、何らかの叩き工具（大型土器の場合は、通常の叩き板＝paddleをそのまま用いる）によって三角形の押圧を口縁部直下などに多数めぐらせた鋸歯文帯をもつ土器である〔金承玉1997〕。日本では、福岡県糸島郡志摩町・新町貝塚表土（挿図1）〔志摩町歴史資料館1997〕、福岡市博多区・博多遺跡群第17次調査の道路側溝SD159〔柳沢・杉山（編）1985：10，15〕での出土が知られている。前者は採集資料であるが、後者は布留式土器との共伴が知られており、古墳時代前期に属す。いずれも対外交渉の拠点と目される遺跡である。

有孔広口小壺

有孔広口小壺（須恵器でいう𤭯（はそう））は、𤭯を器種構成に含む須恵器の源流を示唆する。5世紀前半ごろにみられる平底の有孔広口小壺は舶載品の可能性がある。

福岡県浮羽郡吉井町・塚堂（つかんどう）遺跡D9号住居跡出土の有孔広口小壺（図43）〔馬田（編）1985：78-80〕は、これを模倣したと思われる須恵器と土師器の𤭯を伴うという興味深い事例である。口縁部に突線、肩部に竹管文をめぐらす独特の装飾が施され、胎土も在地のものとは異なる〔馬田（編）1985：80〕。このほか、香川県善通寺市・村黒遺跡採集の有孔広口小壺〔財団法人大阪府埋蔵文化財協会（編）1987c：46-47〕、栃木県栃木市・白山台（はくさんだい）遺跡包含層出土の有孔広口小壺〔財団法人大阪府埋蔵文化財協会（編）1987b：664〕がある。いずれも5世紀と考えられている。

千葉県市原市・草刈六之台遺跡806号住居跡出土の有孔広口小壺は、布を巻いた叩き板による叩きを底部に施しつつ平底気味に仕上げる手法であるという〔財団法人千葉県文化財センター（編）1994：541，543〕。定森はこれを縄目叩きとみなす一方で、胎土・焼成などから須恵器の可能性を指摘している〔定森1999：32〕。しかし、叩き技法で平底気味（抹角平底）に仕上げる平底叩き技法は馬韓や百済にみられるものである〔白井1993：190〕。

鳥足文叩き土器

鳥足文叩き土器について、田中清美らは、この叩き目が朝鮮半島西南部に多いことから、百済土器の可能性を想定していた〔田中1985；泉1988；竹谷1995〕が、田中は鳥足文叩き土器の成立が漢江流域の原三国時代に遡り、百済の成立・拡大と対外交渉に伴って分布を広げていることを明らかにした〔田中1994〕。

田中はこれによって鳥足文叩き土器を百済土器とみなしたが、朴仲煥は、鳥足文叩き土器が百済の支配者層の墳墓から出土せず、むしろ土着の土壙墓系墓制〔林永珍1989〕と関係が深いこと、共伴遺物に典型的な百済土器がみられないことを挙げて、これらが百済ではなく馬韓のものであり、百済との対立で自意識が高揚したことにより顕在化した土器と捉えた〔朴仲煥1999：117-118〕。すなわち、鳥足文叩き土器も馬韓土器である。

大阪市平野区・長原遺跡での畿内第V様式を伴う例〔田中1985〕が国内出土の最古の鳥足文叩き土器であり、これは鳥足文叩き土器の馬韓での初現時期（京畿道河南市・渼沙洞遺跡026号竪穴住居跡出土例〔尹世英・李弘鍾1994：125〕）に対応する。

福岡県糟屋郡新宮町・夜臼三代遺跡群大森地区（OMR-6区）第7層では、大量の土師器とともに軟質土器甕が出土した〔西田（編）1994b〕。このうち鳥足文を叩き出した1点は舶載軟質土器と思われ、ほか9点は現地での変容を示したもののようである。だんだんと土師器の器形に近づいていく様相が読み取れ、興味深い。5世紀初頭、須恵器が登場する直前ごろに比定される。

福岡県京都（みやこ）郡苅田（かんだ）町・番塚古墳では横穴式石室から鳥足文叩きの軟質甕が出土している。5世紀末から6世紀初めの時期に比定されている〔岡村・重藤（編）1993〕。舶載品ではあろうが、底部の穿孔など、日本での利用が想定される。

陶質土器としては、福岡市城南区・梅林古墳横穴式石室出土の甕が、5世紀後半の初葬時の副葬品と推定されている〔濱石ほか（編）1991：24-25，39-40〕。さらに、福岡県小郡市・ハサコの宮2号墳〔森田・馬田（編）1979：16-17〕、同県前原市・井原上学（いわらじょうがく）遺跡溝3下層礫層（軟質で穿孔あり）〔岡部（編）1987：81-82、84〕、同県宗像（むなかた）郡津屋崎町・在自小田（あらじおだ）遺跡包含層〔池ノ上・安武（編）1994：26-27〕、同県糸島郡志摩町・御床松原遺跡27号住居跡〔井上（編）1983：78-79〕などに事例がある。このうち在自小田遺跡では、初期須恵器や、土師器をまねた須恵器、須恵器をまねた土師器の存在から、渡来人と土師器工人の協力による初期須恵器窯の存在が想定されている〔池ノ上・安武（編）1994：33-34〕。

福岡市早良区・吉武遺跡群第5次調査G区表土出土の甕破片は内面の当て具に鳥足文が刻まれている〔濱石（編）1989：74-75〕。内面当て具痕が明瞭になることを、内面が“見る対象”になったため〔白井1996c：22〕と考えれば、5世紀末以降のものといえようか〔亀田1989〕。

また、大阪市平野区・長原遺跡では5世紀の遺構からも鳥足文を叩き出した軟質の鍋・甑・甕・鉢都合6点がまとまって出土しており、全羅道からの渡来人が居住し、用いた炊飯具と考えられている〔櫻井1996〕。さらに、同区・城山遺跡〔赤木（編）1986〕、奈良県天理市・星塚1号墳〔泉・山田（編）1990〕には陶質の例がある。

このように、鳥足文叩き土器は長原遺跡の最古例を除いて5世紀に集中している〔田中1994：187〕。それ以後鳥足文叩き土器が乏しくなることは、後述する朝鮮系軟質土器の消長と軌を一にするともいえるが、また、栄山江流域の馬韓勢力の消滅時期にも一致する。大阪市中央区・難波宮（なにわのみや）下層遺跡にみる大型倉庫群（法円坂建物群）が陶邑（すえむら）TK23型式を下限とすることも、馬韓滅亡のころ、難波津の機能に何らかの変化があったことを示唆している。

分布をみると、北部九州と近畿、特に大阪府に集中しており、北部九州から瀬戸内を経て大阪湾に至るルートを想定できる〔田中1994：198〕。ただし、弁・辰韓土器や古式新羅加耶土器と違って、瀬戸内海沿岸の事例に乏しく、大阪湾を明確な目的地とするかのようである。瀬戸内海の東西交通が幹線ルートとして確立するのは、次章で述べる三国抗争期―飛鳥時代以降であるが、そのときの新羅土器の分布と5世紀の馬韓土器の分布に共通性が見出せることは興味深い。

このほかの馬韓土器

山形県山形市・東金井出土の長脚高杯2点（図40左）〔小野1980：9-10；定森1993b：44-45〕は、定森秀夫によって全羅南道咸平郡・月渓里石渓90-4号墳出土土器との類似が指摘されており、6世紀前葉ごろと考えられている〔定森1999：14-15、17〕。

(4) 古式新羅加耶土器―古式陶質土器

まず、生活遺構での出土例は福岡県糸島郡志摩町・御床松原遺跡35号・37号・59号住居跡〔井上（編）1983：80，82-83，85，90-91〕など、北部九州に集中している。北部九州の生活遺構での畿内布留式系土器の登場と陶質土器の登場が同時期であることは、柳田康雄がすでに指摘している〔柳田1991：43〕。

福岡県前原市・三雲遺跡寺口II-17地区6号住居跡では、陶質土器とともに算盤玉形の瓦質紡錘車が出土している〔小池（編）1983：41〕。福岡市西区・大原（おおばる）D遺跡第3次調査では、自然流路SD-01から高杯が出土している〔松村ほか（編）1996：80、82〕。福岡市早良区・西新町（にしじんまち）遺跡では、布留式段階の遺構から数多くの陶質土器が出土している〔池崎ほか（編）1982；柳田（編）1985；松村（編）1989；長家（編）1994〕のみならず、竪穴住居跡に作りつけのカマドが設置されており、渡来人の居住の可能性を示している。福岡市東区・箱崎遺跡群第8次調査の竪穴住居跡SC58でも陶質土器壺が飯蛸壺や播磨型庄内甕などと共伴しており、注目される〔田上（編）1999〕。

久住猛雄は、西新町遺跡、博多遺跡群、箱崎遺跡のような、この時期博多湾岸にみられる砂丘遺跡を「市」として評価し、弥生終末・古墳初頭の地域間交渉と社会関係の手がかりにしようとしている〔久住1999〕。そのような遺跡に陶質土器の出土が知られることは注目してよい。

福岡県甘木市・上々浦（かみかみうら）遺跡溝-8上層（古墳前期・布留式古段階）出土の台付把手壺は、水神信仰に基づく祭祀に用いられたと考えられている〔佐々木（編）1982：68、72、81〕。

神戸市東灘区・森北町遺跡下層土器群5では両耳付土器が出土しており、渡来人の存在が想定されている〔鎌木・亀田1989〕。

大阪府八尾市・久宝寺遺跡第18次調査SD-201、SD-202、SK-303から両耳付甕と炉形土器が出土しており〔坪田1996〕、庄内式期III・IVに比定される〔米田・奥田1996〕。これらは久宝寺付近の胎土で作られており、まとまった点数があることからみて、やはり搬入よりは製作者の渡来が想定されよう。同市・小阪合遺跡では瓦質土器高杯が出土し、古墳時代前期に比定されている〔（財）大阪府文化財調査研究センター（編）2000：46〕。

東日本でも静岡県浜松市・恒武山ノ花遺跡出土の短頸壺〔鈴木1998：17〕や同県藤枝市・下藪田遺跡出土の短頸壺の例があり〔定森1999：55-56〕、さらに東京都足立区・伊興（いこう）遺跡では、いわゆる縄蓆文短頸壺が出土しており、4世紀後半から5世紀前半ごろと考えられている〔佐々木ほか（編）1997：236-238〕。

墳墓としては、まず、長崎県上県郡（対馬）上県町・大将軍山古墳では、陶質土器双耳壺（図28）と瓦質土器双耳壺が4世紀ごろの箱式石棺に副葬されていた〔小田1978a〕。

佐賀県佐賀市・藤附（とうつけ）K遺跡ST001古墳石室周辺撹乱土出土の短頸壺〔杠1981〕を蒲原らは百済土器とみている〔蒲原ほか1985：31〕が、古式新羅加耶土器とみなしておこう。

久宝寺遺跡と一連の大阪市平野区・加美遺跡1号方形周溝墓出土の短頸壺（図26）〔田中1996〕については議論も多いが、陶質土器としてよかろう。庄内式期IIIに並行するという〔米田・奥田1996〕。

以上のように、古式新羅加耶土器は北部九州から瀬戸内を経て大阪湾に至る経路上に多く見られ、これは弁・辰韓土器のみられる地域にほぼ一致する。

(5) 加耶土器

金海地域加耶土器（金官加耶）

慶尚南道金海地域は、金官加耶国（『日本書紀』にいう南加羅）の故地と考えられている。金官加耶国は、はじめ加耶連盟の盟主であった（前期加耶連盟）が、5世紀中ごろに盟主の座を慶尚北道高霊地域の大加耶に譲る。その後、532年には国王・金仇亥が新羅に投降する。

ここでは、5世紀中葉までを金海地域加耶土器として扱い、その後の金海地域土器は新羅土器の節で扱うこととする。なお、釜山地域については新羅土器の中で扱うべきものもあると考えるが、金海地域加耶土器と一連のものとして扱う。

まず、各地・各時代の朝鮮産陶磁を多く出土する対馬において、金海地域加耶土器が目立たないことを、指摘しておこう。

集落出土例では、最近、福岡県前原市・三雲八龍遺跡の古墳時代中期包含層で高杯が出土した〔角1999：2〕。5世紀初頭ごろと思われるが、脚部突帯の形状に須恵器的な様相があり、あるいは糸島半島の未知の窯で焼成された初期須恵器であろうか。同市・三雲遺跡堺地区6・7号住居跡では台付把手壺（図29）が出土している〔小池（編）1983：196-202〕。

福岡市早良区・有田遺跡群第4次調査（31街区）2号住居址上層では、台付把手壺と蓋が出土している。廃絶した住居の上層に初期須恵器とともに廃棄されており、5世紀中ごろに比定されている〔山崎1979；山崎・井沢（編）1994：46-47〕。

福岡県宗像郡津屋崎町・在自小田遺跡の包含層からは、大型の長頸壺が出土している〔池ノ上・安武（編）1994：28，30〕。

大分県大分市・下郡遺跡群E区l-12地区1号竪穴住居跡出土の器台は、胎土分析により、朝鮮半島産か牛頸産とされているが、牛頸の開窯より古く、陶質土器とみなすべきものである。豊後地域では希少な陶質土器出土例である〔坪根・河野1990〕。

広島市安芸（あき）区・砂走遺跡出土の台付把手壺は、組紐文などから釜山・金海地域に由来が求められている〔新谷1993〕。

次に古墳出土例をみると、北部九州よりも、むしろ本州に多く分布するようである。

佐賀県佐賀郡大和町・礫石8号墳で採集されたジョッキ形土器〔蒲原ほか1985：12-13〕は、釜山市・五倫台古墳群〔金廷鶴・鄭澄元1973〕に類例が求められている。

熊本県下益城郡城南町・塚原15号方形周溝墓周溝出土の高杯（挿図2）〔熊本県教育委員会（編）1975〕については、釜山市・東莱福泉洞東亜大調査1号墳〔金東鎬1971〕に口縁部形態が異なる類似例が、同釜山市博調査53号墳〔釜山直轄市立博物館（編）1993〕に脚端形態の異なる類似例があるものの、以前から初期須恵器とみる意見があり〔山崎1979：145〕、また、大阪府堺市・大庭寺（おばでら）遺跡TG232号窯でも類似例が出土している〔岡戸（編）1995a：123〕。脚部の透窓4辺を“一筆描き”の要領で工具を動かして切り開ける手法は陶質土器に主にみられるものである〔定森・白井1999：92-93〕が、写真をみる限り、大庭寺製品にも“一筆描き”の可能性は考えられる〔岡戸（編）1995b：図版77〕。

5世紀前葉の広島市安佐南（あさみなみ）区・池の内3号墳A主体部直上では、台付把手壺（図30）が破砕されてばらまかれていた〔新谷1986〕。また，岡山県岡山市・榊山古墳でも類似の土器片が採集されている〔島崎1982：98-99〕。

島根県能義（のぎ）郡伯太（はくた）町・長尾古墳採集の器台はコンパス状工具による波状文が施されている〔川原1978〕。

京都府竹野郡弥栄（やさか）町・奈具岡北（なぐおかきた）1号墳は5世紀前半の前方後円墳であるが、第1主体部の上より高杯・器台など、加耶土器と初期須恵器が出土した〔河野1997〕。前方後円墳の祭祀に渡来人が関与した事例として注目され、本州の日本海岸では初の事例である。釜山・金海地域の初期の加耶土器と思われる〔定森1997：172〕。

大阪府岸和田市・持ノ木古墳（久米田方墳）では周溝から大量の陶質土器が出土し、古墳の祭祀に用いられたと推定されている〔虎間1993・1994；三辻・虎間1994〕。虎間英喜は早くから持ノ木古墳出土の鉢形器台が釜山市・東莱福泉洞31・32号墳のそれ〔釜山大学校博物館（編）1990：83〕に酷似していると指摘しており〔虎間1993：83〕、定森秀夫も追認していた〔定森1994a：85〕が、さらに定森は両者を実見して共通性を確かめ、同一工人による同工品と認定した〔定森1997：171〕。また、台付把手壺〔虎間1994：77-78〕なども金海地域に類例を求められる。この古墳でわずかに出土した初期須恵器は大阪府堺市・大庭寺遺跡TG231・232号窯跡の製品に類似しており、極めて示唆的な事例である。

大阪府藤井寺市・野中古墳出土の台付把手壺・蓋（図32）〔北野（編）1976：137-141〕も釜山・金海地域加耶土器と考えられていたが、胎土分析によると，同府南河内郡河南町・一須賀（いちすか）2号窯の製品に最も近いという〔三辻ほか1999〕。

5世紀前半と考えられている奈良県橿原（かしはら）市・南山4号墳の騎馬人物形土器は金海地域のもののようである。また、四口壺破片（図42）も釜山地域に類例を求められる〔阪口1986；財団法人大阪府埋蔵文化財協会（編）1987b：486-487；定森1994a：92〕。

和歌山県和歌山市・楠見（くすみ）遺跡出土の鉢形器台〔薗田ほか（編）1972：138〕は、釜山地域に5世紀前葉にみられる。

岐阜県大垣市・遊塚古墳出土の蓋（図36）は4世紀後葉ごろの型式とする意見〔定森1982：85-86〕もあるが、古墳自体は5世紀初頭ごろであり〔木下1985：174-176〕、また、同県岐阜市・鎧塚古墳出土の筒形器台は5世紀中葉ごろの釜山・金海地域の加耶土器と考えられる〔伊藤・尾谷1991〕。美濃と釜山・金海地域の関係を物語る資料である。

以上のように、金海地域加耶土器は5世紀前半に多い。特に5世紀の初頭ごろに大きな画期があるように見受けられる。すなわち、奈具岡北古墳や持ノ木古墳のように、古墳祭祀に陶質土器が用いられ、祭祀への渡来人の関与が想定される事例である。

また、両古墳と楠見遺跡からは釜山地域に由来する鉢形器台が出土しているが、ほぼ同一時期のものである。実は、その故地である釜山地域でも、この器形の器台はこれ以前の炉形器台に直接の系譜をたどることができず、むしろ慶尚南道西部地域の炉形器台〔趙榮濟1986〕の系譜を引くものである。この西部慶南炉形土器の釜山・金海地域への登場は、洛東江を挟んだ東西の土器の違い（新羅土器と加耶土器）が明確になる現象と同時期であり、何らかの社会的変動を暗示するであろう。奈具岡北古墳・持ノ木古墳への金海・釜山地域加耶土器の搬入も、そうした変動の余波ではないだろうか。

一方、日本列島で金海地域加耶土器が5世紀後半以降激減することは従来から指摘されており、朴天秀はこれを加耶連盟の主導権が金官加耶から大加耶（高霊地域）に移ったためと考えた〔朴天秀1995：79〕。金官加耶王墓とみなされる慶尚南道金海市・大成洞古墳群の造営終了とも軌を一にしている〔申敬澈1991〕。これは一面で事実であろうが、新羅による交渉の窓口の封鎖を契機に倭と高霊地域の交流が深まった、とする朴天秀に対し、筆者はいくぶん異なる考えを持っている。すなわち、5世紀後葉以降、金海地域は新羅土器の分布地となり〔釜山大学校博物館（編）1993〕、土器の地域性を認識しにくくなるが、その後も金海地域新羅土器が日本に搬入されているのである。これについては新羅土器の節で触れるとしよう。

咸安地域加耶土器（阿羅加耶）

咸安地域加耶土器は慶尚南道咸安郡・昌原郡・馬山市などに分布し、金海地域の西に位置する。阿羅加耶の土器と考えられる。

長崎県上県郡（対馬）上対馬町・コフノ[阜采]（こふのさえ）遺跡遺構7出土の台付把手壺〔藤田（編）1984：36-37〕は、昌原・馬山地域に由来が求められる。また三角形透窓をもつ無蓋高杯が、コフノ[阜采]遺跡のほか、長崎県上県郡（対馬）峰町・恵比須山（えべすやま）2号石棺（図37），同町・トウトゴ山墳墓群など、対馬の墳墓に盛んに副葬されていることは興味深い。トウトゴ山遺跡で採集された高杯〔坂田1975：95-96〕も、おそらく副葬品であったろう。

和歌山県和歌山市・楠見遺跡の高杯〔薗田ほか（編）1972：139；武内1989〕は、脚部に刺突による小孔を多数開ける咸安地域加耶土器の特徴を示す。刺突による脚部透孔のある台付把手壺として、大阪府藤井寺市・野中古墳〔北野（編）1976：137-141〕、長野県更埴市・城の内遺跡〔木下1985〕の例がある。

円孔ではあるが、福島県郡山（こおりやま）市・南山田1号墳周溝出土の台付把手壺〔渡邊1990：13-14；（財）郡山市埋蔵文化財発掘調査事業団（編）1990：26〕も咸安地域に由来するかもしれない。

また、火焔形透窓も咸安地域加耶土器の特徴とされており、大阪府八尾市・久宝寺北遺跡NR5001（河川）や奈良県天理市・布留（ふる）遺跡での出土例がある〔竹谷1983〕。

咸安地域加耶土器の蓋も、最近識別されるようになってきた。栃木県河内郡南河内町・二ノ谷遺跡D5-SI002住居跡に廃棄されていた蓋〔（財）栃木県文化振興事業団（編）1988：43-46〕は、5世紀前半と考えられている〔定森1999：24〕。

岐阜県吉城郡古川町・下気多出土の無蓋高杯〔中村1985：64，67〕は細長い三角形透窓から5世紀前葉の咸安地域加耶土器と考えられる〔定森1999：68〕が、脚端の断面形がやや異例ではなかろうか。

以上の例は、ほぼ5世紀の前半に集中する。地域的には対馬に非常に多く，これは咸安地域加耶土器の分布地が対馬の最も近い対岸であることによるのであろう。また、北部九州にはほとんどみられず、本州の畿内・和歌山・東日本に出土するありかたは、金海地域加耶土器の古墳出土品分布に似ている。すなわち、阿羅加耶は地理的な近さで特別に親しかった対馬を除いては、ほぼ金海地域加耶土器と類似の交渉ルートで本州の諸地域と交渉していたのであろう。

泗川・固城地域加耶土器（小加耶）

泗川・固城地域加耶土器は慶尚南道泗川郡・固城郡・晋州市などに分布し、咸安地域のさらに西、馬韓の東に位置する。小加耶の土器と考えられる。

佐賀県佐賀市・鈴熊遺跡ST001・ST002古墳〔堤（編）1981〕でそれぞれ出土した2点の小壺は、𤭯とみなされている〔蒲原ほか1985：19、21-22〕が、いずれも破片のため円孔の位置がはっきりせず、また波状文もみられない。口縁部形態や平底気味の底部からみて、泗川・固城地域加耶土器に近いが、胎土分析の結果はいずれも朝倉産とされている。陶邑ON46型式ごろに位置づけられている〔蒲原ほか1985：31〕。福岡県甘木市・池の上墳墓群〔橋口（編）1979〕や同市・古寺（こでら）墳墓群〔橋口（編）1982〕の副葬須恵器にも泗川・固城系とみられるものが多く、また、須恵器を古墳主体部に副葬する行為も朝鮮半島に由来すると考えられており、この地への渡来文化の影響を物語っている。

長崎県上県郡（対馬）上対馬町・コフノ[阜采]遺跡出土の蓋〔藤田（編）1984：32-33〕、同郡（対馬）峰町・下ガヤノキ遺跡〔小田ほか（編）1974：313，315〕や同県下県郡（対馬）美津島町・島山赤崎遺跡4号石棺〔小田ほか（編）1974：37〕出土の高杯脚部、佐賀県神埼郡三田川町・下中杖遺跡井戸SE213出土の蓋〔七田（編）1980；蒲原ほか1985：24-25〕は6世紀前葉、滋賀県坂田郡米原（まいばら）町・入江内湖（いりえないこ）遺跡出土の高杯（図38）〔定森1989b：32-33〕は6世紀前葉から中葉、福岡市早良区・吉武遺跡群第4次調査（飯盛遺跡圃場整備第3次調査）I-12地区SD-01東岸〔横山ほか1987：26，29〕出土の蓋は6世紀中葉から後葉にかけてのものと、それぞれ定森の整理によって6世紀に集中していることが指摘された〔定森1991〕。

なお、吉武遺跡群では第4次調査と同様の蓋の出土が多く、たとえば第7次調査でも出土している〔横山・下村（編）1988：98-99〕。

このほか、石川県七尾市・矢田遺跡の蓋〔定森1999：50、51〕や、山形県東置賜郡高畠（たかはた）町・源福寺山古墳群の脚付短頸壺〔定森1999：17-18〕など、北陸や東北地方日本海側の事例が指摘されている。

以上のように、東日本にも分布するものの、対馬と北部九州に例が集中することは興味深い。5世紀中葉から6世紀前葉までの北部九州に、新羅土器やほかの地域の加耶土器があまり多くないこととは対照的である。

高霊地域加耶土器（大加耶）

大加耶は、慶尚北道高霊郡・池山洞古墳群〔金鍾徹（編）1981〕を王墓とする加耶の政治集団である。5世紀後半に台頭して独力で中国・斉に使者を送るまでとなり（加羅王荷知）、次第に周辺の加耶諸国を従えるようになった（後期加耶連盟）。高霊地域加耶土器は加耶地域に広く分布して全羅北道の一部におよび、その分布範囲内に地域的な変異を生んだ。ただし、大加耶は562年に新羅によって滅ぼされてしまい、高霊地域加耶土器の分布圏は、一転して新羅土器の分布圏になっていく。

ここでは大加耶勢力下のものについても高霊地域加耶土器と呼んでおく。

時期の古いものとしては、5世紀前半と考えられる福岡県宗像郡津屋崎町・奴山正園（ぬやましょうぞの）古墳（奴山5号墳）から鉢形器台が出土している〔橋口（編）1979：126-127〕。5世紀中葉に位置づけられる大阪府泉南郡岬町・西小山古墳の長頸壺口頸部は墳頂に置かれていたものと推定されている〔定森1989b：34〕。

和歌山県和歌山市・六十谷大同寺遺跡では陶質土器5件（図31・33・34・35）が採集されており、渡来人の祭祀の痕跡とも考えられる〔後藤1927；河上・奥田1972〕。まず、台付把手壺（図31）〔河上・奥田1972：162-163〕は、黒色物質が噴き出した様相、脚部の形態と三角形透窓から、高霊地域加耶土器と思われる。また、脚付壺（図33）〔河上・奥田1972：163-164〕も、脚端の形状などからみて、高霊地域加耶土器であろう。このほか、家形容器（図35）・把手付広口小壺・両耳付壺（図34）が出土している〔河上・奥田1972：160-163〕が、両耳付壺が馬韓土器であるほかは、ひとまず高霊地域加耶土器と考えておこう。

新しい時期のものとして、福岡市早良区・吉武遺跡群第4次調査（飯盛遺跡圃場整備3次調査）石祠内出土の長頸壺口縁部〔横山ほか1987：25-26〕、福岡県宗像市・池浦古墳出土の高杯〔小川・中村1986〕が6世紀前～中葉と考えられている。

福岡県小郡市・津古片曽葉（つこかたそば）1号墳周辺から高霊地域加耶土器らしき小壺が出土しているが、古墳（古墳前期）に伴うものではない〔宮田（編）1992：80、81；白井1997a〕。

熊本県八代郡竜北町・物見櫓古墳（陶邑MT15型式）では、高霊地域加耶土器の把手付有蓋鉢破片と、やはり加耶系の金製垂飾付耳飾が出土している〔今田（編）1999〕。

愛媛県には事例が多い。松山市・小野小学校所蔵の長頸壺は6世紀前葉から中葉と推定されており、近隣の群集墳・播磨塚古墳群との関係が推定されている〔定森1989b：28-30〕。東宇和郡宇和町・伝伊勢山大塚（古墳は6世紀後半）出土の長頸壺口縁部破片は、高霊地域の長頸壺を日本で模倣したものとされている〔十亀1991：89-90〕。越智郡朝倉村・城ケ谷古墳の横穴式石室入口部分で出土したと伝えられる高杯・蓋は、6世紀前半から中葉に比定される〔豊田1984：52-53；正岡1991：82-83〕。今治市唐子台No.80古墳では、工事中に高霊地域加耶土器と思われる蓋1点と高杯2点が出土している〔正岡1991：77-78〕。同一器形の2点が同一地点で出土した例は希少である。

島根県浜田市・森ケ曽根古墳は古墳時代後期の円墳であるが、円形透窓をもつ小型器台の破片が出土している〔川口・向田（編）1986；定森1989b：28、31〕。伴う壺はなく、また、破片であるところから考えると、新奇な品として副葬されたのであろうか。

滋賀県坂田郡米原町・入江内湖遺跡では先述の泗川・固城地域加耶土器高杯（図38）のほか、高霊地域加耶土器の長頸壺と蓋（図41・39）が出土しており、6世紀前・中葉に位置づけられる〔定森1989b：31-33〕。

このほか、岐阜県岐阜市・権現山古墳で明治時代に採集された壺は6世紀前・中葉、富山県富山市・伝福居古墳出土の台付長頸壺〔富山県（編）1972：549、562〕は6世紀中葉とされている〔定森1989b：33-34〕。

以上のように、わずかな例を除いて、大加耶勢力が伸張した6世紀前・中葉のものであり、しかも古墳からの出土が目立つことに気づかされる。また、愛媛県に多くの例がみられることも特徴的である。これは、この地で資料の再認識が進んでいることも一因ではあるが、同一地点での高杯の複数出土などの例をみると、何か高霊地域との強い結びつきがあったのかもしれない。

陜川地域加耶土器（多羅）

大加耶の勢力下にある多羅国の故地・慶尚南道陜川郡では、高霊地域加耶土器の中でも地域性がみられ、定森秀夫によって識別されている。

佐賀県佐賀市・藤附C遺跡ST008古墳周溝出土の短頸壺〔森田（編）1980〕は、口縁下に突帯をめぐらす状況が6世紀前半の陜川地域の特徴とされている〔定森1989b：29〕。古墳は横穴式石室を有する円墳で、周溝からは陶邑TK47からTK43型式（5世紀末～6世紀後半）にわたる須恵器が出土している。なお、埋蔵文化財研究集会で陶質土器として挙げられていたのは、この短頸壺とは異なる高杯脚部であった〔埋蔵文化財研究会（編）1989：58〕

愛媛県越智郡朝倉村内で出土したとされる短頸壺〔正岡1985〕は、叩きにより底部に平坦面を作り出す「抹角平底」であり、底部に格子目叩きを残し、内面はナデるなど、特に百済土器に近いものである。また、定森は口縁下の突帯など、陜川地域に由来を求めている〔定森1989b：28，30-31〕が、内面にハケメが施されているところなど、日本化した様相とも見受けられる〔白井1996c〕。また、同県東宇和郡宇和町・伝伊勢山大塚（古墳は6世紀後半）出土の短頸壺〔十亀1991：87-89〕も、陜川地域に由来を求められよう。

5世紀前半と考えられている奈良県橿原市・南山4号墳の器台は陜川地域に類例が求められている〔阪口1986；財団法人大阪府埋蔵文化財協会（編）1987b：486-487：定森1994a：92〕。

山形県山形市・東金井出土と伝える短脚高杯（図45）〔小野1980：9-10〕は、器形や刺突による半貫通の円孔など、百済的なものとみられていたが、伴う蓋（図70右）は高霊地域のそれに近く、陜川地域に由来する6世紀前葉ごろの例とされた〔定森1993b：48-50〕。

陜川地域と由来を限定できる陶質土器は限られているが、逆に、高霊地域加耶土器として捉えられているものに、陜川地域のものが含まれている可能性はある。