栗本薫作品の年表-判定理由(その4)
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by 八巻大樹さん
&CUDJOさん
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---MLの成果1
さて、あとは「絃の聖域」以前の事件を残すのみなのですが、、、
これが非常にやっかいでした。
この時期にくる作品は「伊集院大介の初恋」「伊集院大介の追憶」
「伊集院大介の青春」「青ひげ荘の殺人」「伊集院大介の失敗」の
5作品です。このうち、「伊集院大介の青春」は作中に「1968
年夏」の記述があり、70年安保に向けての学生運動と関連して語
られているのでこの年代は非常に信頼性が高いものと考えられます。
一方、作中でこれらの作品以外で伊集院大介の年齢に触れられてい
るものは以下のとおりです。もちろん、語り手は大介ではありませ
んので信頼性は多少落ちると考えられます。
・優しい密室−24歳
・猫目石−35歳
・ごく平凡な殺人−稔の20歳年上
・誰かを早死させる方法−37〜40歳
・伊集院大介の私生活−40近く
・天狼星−30〜45歳(何だこりゃ(^^;;)
このうち比較的明確な「優しい密室」と「猫目石」を基準にすると、
実はこれまでの推測で「優しい密室」が1974年5〜6月、「猫
目石」が1985年の7〜9月としていましたから、「優しい密室」
の記述通り大介が2月生まれであるなら、大介が1950年2月の
生まれであれば非常によくあいます。
しかしながら、これでは「伊
集院大介の青春」の記述と大きく矛盾してしまいます。「伊集院大
介の青春」では大介はK大文学部国文科3回生、となっているので
少なくとも20歳でなくてはなりませんが、1950年の生まれだ
とすると18歳にしかなりません。さらに作中では大介は同級生の
達郎の2歳年上だ、というのですからお話になりません。また、「伊
集院大介の失敗」でも矛盾が起こってしまいます。「伊集院大介
の失敗」は2月の事件で、大介が「24です。もうすぐ5になりま
す。」といっていることから、1950年生まれだとすると197
5年の事件になります。
実は「失敗」の中で森カオルが大介も具体
的な時期をいわないので推測だが、と断わった上で「優しい密室」
直後の話ではないか、といっているので一見もっともであるように
も思えますが、これは森カオルの勘違いではないかと思います。と
いうのは、「失敗」は長野(軽井沢)での事件なのですが、ここで
大介は長野県警からまったく相手にされていないのです。しかしな
がら、「優しい密室」では大介はすでに長野では有名な名探偵にな
っていて、東京からの問い合わせに対して長野県警はデータもなる
べく提供してやってくれ、などといっています。したがって、「失
敗」は「優しい密室」よりもかなり前の事件である、と推測できま
す。
すなわち、このへんについてはあちらたてればこちらたたずの状態
でどうしようもありません。いろいろな解釈の仕方があると思いま
す。ただ、私としては最初に挙げた原則で「現実世界の事件の記述
によって特定される年代」を優先することにしましたので、いろい
ろな人の語る大介の年齢はいったん無視して、「伊集院大介の青春」
−1968年9月を基準にすることにして、なるべく年齢が記述年
齢と近く、しかも矛盾が少なくなるよう努力してみました。
「青春」では、大介は24、5歳とされていますが、これはとりあ
えずおいといて、大介がK大文学部国文科3回生で同級生より2歳
年上、ということから最低22歳になります。ただし、この時点ま
でで2つの大学で2年ずつ学んでいる、とありますので、最低24
歳であるかもしれません。ただし、2つの大学のうちの1つをK大
での1、2回生の2年間と苦しい解釈をすれば22歳でいけそうで
す。他の事件における大介の年齢の記述との開きを小さくするため
に、ここは22歳説でいきたいと思います。
「伊集院大介の失敗」および「伊集院大介の初恋」「青ひげ荘の殺
人」は語り手が実質的に大介であり、ここで語られる大介の年齢は
比較的信頼できると思われます。したがって、「青春」−1968
年9月−22歳を基準にすれば、
・伊集院大介の失敗−1971年2月(25歳直前)
・伊集院大介の初恋−1962年2〜3月(高校1年、16歳)
・青ひげ荘の殺人−1968〜69年(22、3歳、ただし実際
の事件はその5、6年前か)
となります。また、
・伊集院大介の追憶−1964〜65年頃
大介は大学生ですが、まだ少年といったほうが近い、と記述されていますので、
まだ10代ではないかと思います。
・伊集院大介の追跡」−1989年1月
北国A・・・市で森カオルがであったマリー・セレスト号の
ような、宿屋一軒の人間の消失事件です。
この作品では、伊集院大介は1年近く姿を消している最中で、
結局電話による推理だけで一度も姿をあらわしません。魔人
シリウス・芳沢胡蝶などの名前も出てきますし、森カオルは
松之原カオルになっています。また、伊集院大介の生死のほど
が判らないというところから天狼星の2と3の間、伊集院大介
が胡蝶さんを奪還して帰国した頃の話だと思われます。
もっとも、この作品にはもっとストレートに年代を特定できる
記述があって、「元号のかわった正月」「去年の新年には、
もうすぐ大介が見つかるだろうと考えていた」というのがそれ
にあたります。ん??? 八巻さんの理論では蝶の墓の事件は
1988年7〜8月のはずですから、この作品はそれより後に
なりますね。じゃ、天狼星事件が完全に解決した後、世を
はかなんだ大介が姿を消していた時期の話と解釈しましょう。
・間の悪い男−1990年7月〜8月
伊庭緑郎の持って来た、タクシー運転手殺人事件です。大介は
この事件をパソコン通信でデータベース検索をすることで推理
して見せます。
この作品は、当然「仮面舞踏会」よりも後の事件です。「僕と
滝沢くん−−またの名を『アトム』くんのパソコンネットの街で
のいくつかの冒険」というセリフも出て来ますし、大介は意外な
ほど素早くキーボードを叩いています。
また、この作品には去年優勝したプロ野球チームの監督が、
今年の成績低迷を理由にクビになった話が出て来ます。常識的に
考えて、プロ野球の監督がクビになるのは6月以降と考えて、
7〜8月の事件とします。
まえ
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