3.すべてを国に管理される管理社会への第一歩

 この手の話題はいつも取り上げられています。

 特に反対派の新聞で恣意的なのが、「氏名、生年月日、性別、変更履歴などの個人情報」という書きぶりです。

 ・・・それ以外には「住所」しかないんですけど(あともちろん住民票コード)。

 しかも変更履歴は過去5年までのはずです。別に「その人の一生について、これを見ればわかる」というものではないのです。

 このあたり、「など」とすればほかにいろいろあるのではないか、読者(市民)を疑心暗鬼にさせようという恣意的な画策がみえみえです。そういうのはマスコミはやめるべきです。

 一方、日刊スポーツでは「将来、この番号で病歴、職歴、交通違反などが管理される可能性もあります」など、恐怖を煽っていました。

 また週刊誌でも「あなたのプライバシーがすべて管理される」なんて吊り広告も見かけました。

 しかし・・みなさんは病歴を近所の市役所や役場にいちいち申請していますか?職歴は?交通違反は?

 少なくともすべての病歴や職歴など提出することはないはずです。交通違反も警察が他省に情報を提供することは普通ありません。

 つまり、これは「妄想」の世界です。

 事実、住民基本台帳法には、記載すべき事項が法定されています。何でもかんでも国が恣意的にできるわけではないのです。

(参考)住民基本台帳法

 (住民票の記載事項) 
第七条  住民票には、次に掲げる事項について記載(前条第三項の規定により磁気ディスクをもつて調製
 する住民票にあつては、記録。以下同じ。)をする。
 一  氏名
 二  出生の年月日
 三  男女の別
 四  世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
 五  戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨
 六  住民となつた年月日
 七  住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日
 八  新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日(職権で住民票の記載をした者については、その年月日)及び従前の住所
 九  選挙人名簿に登録された者については、その
 十  国民健康保険の被保険者(国民健康保険法 (昭和三十三年法律第百九十二号)第五条及び第六条の規定による国民健康保険の被保険者をいう。第二十八条及び第三十一条第三項において同じ。) である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
 十の二  介護保険の被保険者(介護保険法 (平成九年法律第百二十三号)第九条 の規定による介護保険の被保険者(同条第二号 に規定する第二号 被保険者を除く。)をいう。第二十八条の二及び第三十一条第三項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
 十一  国民年金の被保険者(国民年金法 (昭和三十四年法律第百四十一号)第七条 その他政令で定める法令の規定による国民年金の被保険者(同法第七条第一項第二号 に規定する第二号被保険者及び同項第三号 に規定する第三号 被保険者を除く。)をいう。第二十九条及び第三十一条第三項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
 十一の二  児童手当の支給を受けている者(児童手当法 (昭和四十六年法律第七十三号)第七条 の規定により認定を受けた受給資格者をいう。第二十九条の二及び第三十一条第三項において同じ。)については、その受給資格に関する事項で政令で定めるもの
 十二  米穀の配給を受ける者(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 (平成六年法律第百十三号)第八十三条第一項 の規定に基づく政令の規定により米穀の配給が実施される場合におけるその配給に基づき米穀の配給を受ける者で政令で定めるものをいう。第三十条及び第三十一条第三項において同じ。)については、その米穀の配給に関する事項で政令で定めるもの
 十三  前各号に掲げる事項のほか、政令で定める事項

 さて、少し目を転じますと、お医者さんのカルテはすなわち病歴となりますが、どのように対応しているのでしょうか。企業や官公庁は求人の際提出された履歴書の「賞罰」欄をどのように取り扱っているのでしょうか。

 適切に取り扱っているはずです。

 これらを「人間を管理するために」入手しているのか、業務上必要だから入手しているのかを考えれば、自ずと答えは出ます。

 だからこそ、「住民基本台帳」の記載内容も住民の代表たる国会の審議が必要な法律に記載されているのです。
 住民基本台帳に職歴を記載しようとしたら法律改正を要すると言うことです。
公務員が業務の域を超えて勝手に国民のプライバシーを侵害しないように国会がチェックするということです。

 注意するとすれば13号の「政令で定める事項」を改めに行ったときですが、この場合もパブリックコメントをHP等で募集するとともに、閣議決定の二日前に記者発表をすることになりますので、まともなマスコミなら気づきます。
 それがおかしければばしばし叩いてもらった上、我々一般市民は自分の選挙区の政治家に文句言えばいいだけのことです。

 このようにみると、「不安」を煽って、「管理社会」を想像させる記事を書くのはまさに「すばらしい小説家」であって、国民全体に政策をきちんと伝えているということではありません。
 例えば「人に番号をつけ、生涯管理しようとする発想は、人格を無視するもの。このシステムと共存できる個人情報保護法などありえない」
と作家やジャーナリストを中心とした反対団体は声明を出したそうです。

 さすが作家です。
 すばらしい想像力です。

 きっと彼らは、学校の出席番号も「人に番号をつけ学校が物扱いして管理しようとする発想だ!」となり、銀行の口座番号も「銀行が個人の住所などの個人情報や貯金を管理し、悪用するに違いない」となり、レンタルビデオ店で会員番号をつけられるのも「レンタルビデオ店による管理だ!人格を無視している!」となるのでしょうか。

 なにより、戦後は民主主義の下、公務員も国民です。これを強調したいと思います。共産主義国家などと違い特権階級ではないのです。
 法の下の平等の憲法の原則の下、法律は職業にかかわらずあまねく適用されるのです。
 
 しかしこのような「空想」をマスコミが取り上げ、市民の声と称するのはまた問題です
 つまり
1.自分たちの会社(新聞社、雑誌社)の主張なのに国民の声とうそをついている
2.番号が今までついていないという根本的な勉強不足
ということです。

 1.については、最近とみにひどいと思います。自分たちの主張なら堂々と言えばいいのです。国民の名前を借りる必要はありません。

 2.についてはより深刻です。

 なぜなら、国家がつける番号としては、国民年金受給者(ほとんどの労働者)はそっちの方でもう番号持ってます(基礎年金番号)から(笑)。

 逆に言えば、本気で国民を管理するための情報を集めようとするなら、そっちである程度の情報はわかっているので、わざわざ寝た子を起こすようなまねをして住基ネットなんてやる必要ないのです。
 

 もちろん人それぞれいろいろ考えるのは自由です。しかし、こういう空想による決めつけの意見を反対派の代表例の一つとして取り上げること自体恥ずかしいことだと思います。

 マスコミの使命、「真実を国民に伝える」というプロ意識を思い出してほしいです。
 

4.「選択制」は認められるか?

 認められないと思います。

 まずは問題の条文を見てみたいと思います。

(都道府県知事への通知) 
第三十条の五 市町村長は、住民票の記載、消除又は第七条第一号から第三号まで、第七号及び第十三号に掲げる事項(同条第七号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部についての記載の修正を行つた場合には、当該住民票の記載等に係る本人確認情報(住民票に記載されている同条第一号から第三号まで、第七号及び第十三号に掲げる事項(住民票の消除を行つた場合には、当該住民票に記載されていたこれらの事項)並びに住民票の記載等に関する事項で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を都道府県知事に通知するものとする。 
2 前項の規定による通知は、総務省令で定めるところにより、市町村長の使用に係る電子計算機から電気通信回線を通じて都道府県知事の使用に係る電子計算機に送信することによつて行うものとする。 
3 (略)

 つまり、市町村長は、都道府県知事に通知する「ものとする」となっているわけです。

 おそらくはこの「ものとする」が「しなければならない」でないから義務ではない、と考えているのでしょう。

 しかし、「ものとする」はまともに法律をやった者なら普通は「義務規定」と理解できるはずなのです。

 ちょっとマニアックにご説明しますと、もともと「ものとする」は、義務なんだがそれを「しなければならない」にすると、他の行政官庁に対しきつすぎるので少し柔らかく書いたという場合に使用されます。

 例えて言えば日常会話にすると同僚や部下に対し「掃除しなきゃダメだからな」はちょっときついので「掃除しておくように」としたようなものなんです。

 この例ですと、「掃除しておくように」といったら、「掃除しなくてはならない」でないから「掃除しなくても良いんだな」と思うでしょうか。

 そういうことなのです。

 もちろん「しなければならない」と書いてないわけですから、「義務規定ではない」という解釈の余地はあります。しかし、立法者(総務省)が「趣旨は選択制を認めない」としている以上あとは裁判所に持ち込むしかありません。

 横浜市などはこれをどういう考えで選択制と考えたのか。特に国会議員という「立法府」の経験者が首長の市でこういうことが起こるのは驚きです。

 中田市長は国会議員の期間中法律の細かい解釈など立法技術を全く知らずに「議員立法」をしようとしていたのでしょうか。
 中田市長はタレント議員だったのでしょうか?自民党を倒し、世の中をよくする立場で(市民はそれを期待していたのに)、実はその若手が国会議員の本職たる法律をよく知らなかったなんて・・。

 幸い最近の報道では「選択制」と言っていないと軌道修正したようです。
 とはいえ、マスコミ報道に対し最近まで否定していないわけですから、法を誤解していた可能性は大きいと思っています。

 この点、同じ元国会議員でも「法の読み込みが足りない」と一喝した石原東京都知事とは法律の知識も含め格が違うと言うことでしょう。
 

 ですから「総務省の解釈はおかしく、県と協議する余地があると思う」というのは論外です。
 そういうセリフが市民局長の口から出ること自体、自分の無能を公開したと言うことです。これに本人も気づかないし、マスコミも指摘しないというのは本当に恐ろしいことだと思います。
 横浜市の局長さんは今まで何をやっていたのか。局長さんですよ・・。

 繰り返しになりますが、前述のように「法律」の所管は国です。ですから法の解釈の権限は国にあるわけです。
 ですから国が解釈をした以上、「県との協議」などありえません。ですからこの場合は神奈川県の方が正しいのです。あとは裁判所へ行くしかありません。

 誤解を恐れずに言えば、私は経験上、県や市の法令の理解度は大きくばらつきがあるな、と認識しています。

 国も異動の頻繁さから時期的な問題(異動したての時など)や能力的な問題で理解度の低い人がおりますが、地方自治体の場合は組織的に(例えば課単位で)精鋭(国以上)の部分とそうでない部分の差が激しいように思えます。

 実際、私は法律に明るい都道府県や市町村のベテラン職員の方に相当助けていただきました反面、全くの間違いを大声で主張する方(大声出せば主張が通ると思っているのでしょうか?)には閉口したものです。

 例えば・・「全国市長会の要望」、というと、当然みなさんは「市長の集まりが要望するんだからそれまでに内容は十分チェックされており、間違いなどあるはずない」とお思いになると思います。

 私もそう思っていました。

 しかし、現実には「地方自治法で定める都市(いわゆる政令指定都市)」と、個別法で定める「政令で定める都市」の区別すらできてないものもありました。

 これは、簡単に言いますと、A法でその法律の特例を与える都市があるとします。この場合のA法で特例を認める「政令(この場合はA法施行令など)で定める都市」と、世間一般で言う京都市、福岡市などの政令指定都市は当然関係ありません。

 そういう基本的なことについて法律を施行する責任者が理解せず、「要望」を出しているわけです。

 そのときは正直、驚きました(と同時に怒りでいっぱいでした)。なぜなら、法律担当者が、「これは間違っている」といっても「市長さんが言っていることだからとりあえずそのままにしておいてよ」というばかげたことになったからです。

 何考えてるんだ?市長の体面の方が市民に対する法の曲解より重要なのか?
 

 話がそれました。それはさておき・・。

 本件でさらに問題なのは仮に「選択制」などといっても、横浜市には「市民自身が受け取りを拒否した」はずの住民票コードがインプットされているのです。

 受け取り拒否したからといって住民票コードがつかない(「返上」した)わけではないのです。
 これをきちんと説明しているのでしょうか?報道を聞く限りでは、私は「返上すれば住民票コードはつかない」と勘違いされている市民の方が多いように思えます。
 だとしたら市民に勘違いさせる、いわば裏切り行為ではないでしょうか?

 最後になりますが、仮に解釈の余地があるとして選択制を認めるとなると、横浜市は住民基本台帳の制度そのものを崩壊させることに気づいていないようです。まずは下の条文を見てみます。

  (住民基本台帳の備付け) 
第五条  市町村は、住民基本台帳を備え、その住民につき、第七条に規定する事項を記録するものとする。
 

 第七条とは、前にも出ていますが、「名前」など、住民基本台帳に記載すべきものが載っている規定です。これがもし「でなければならない」ではない(義務規定ではない)とその市町村が解釈した場合、恐ろしいことが生じます。

 そうです。

 その論理ですと、記載内容がすべて選択制になってしまうのです。
 市によって住民基本台帳に記載する内容がバラバラになってしまうのです。
 極論すれば、市によっては名前も基本台帳に載せなくてもよくなるんですね。

 そんなはずはないでしょう。

 こういった点でも横浜市はもう少し法律をきちんとチェックすべきではないでしょうか。
 自分たちがいかに危険なことを言っているのか、理解すべきだと思います。
 

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