考古学のおやつ

九州沈没−実物主義の神話・前篇

萬維網考古夜話 第56話 27/Apr/2000

前話・高天原はなかったは,どうせアクセスが少ないだろうと思って,好き勝手に(久しぶりに本人ノリノリで)話したら,なぜか過去2番目の多数アクセスがありました(第1位は第34話 朝日のデッサン−逆サバ全国区・中篇)(^^;ゞ。最近は当サイトに限らずアクセスが多めのようでして,どうやら新学期の始まりのせいのようです。

そうすると,アレでしょうか。大学の新入生とかも見てるんでしょうか。こんなチンピラなサイトは見ない方がいいですよ。アクセス制限をかけている公共機関もあることですし。

それから,大学の先生の前で「考古学のおやつを見てます」と言ってしまってもいいかどうか,よ〜く顔色を窺っておきましょう。「あれは面白いから見なさい」などと言って,実はご自身が一番ハマっている,という先生なら安心ですが,そうじゃない先生の方が多いでしょうから。

さて,新年度に入ってかなり時間が経過してはしまいましたが,3回ばかりかけて,新入生向けの話でもしましょう。まあ,新入生向けと言っても,私がするような話ですから,話半分に聞いといてください。今回が「九州沈没」,次回が「黒色列点紋」,第58話 次々回が「5番目の花」です(3回シリーズですが,内容につながりはあまりない予定です)。


前にどこかで書きましたが,本当のところは,こんなサイト見てないで,現場に行ったり遺物を見たりする方がよっぽど勉強になります。考古学は物質資料から立論していく学問ですから,大学で資料の考古学的な取扱いを学んだら(これ自体,行政で学んだ方がいいという人もいる),端から実践して行った方がいいに決まってます。

私自身が,こんなこと他人に言えるような立派な学生生活を送ったかどうか,大いに疑問ですが(^^;ゞ。

コピー機もFaxもインターネットも,できるだけ容易に考古資料に接近するための道具として,この業界に登場したはずですが,いつの間にか,学生さんを考古資料から遠ざける役割をしているような気がしてなりません。「行政の現場は禁止」とかにしている大学の先生も,今度は「インターネット禁止」とかに切り替えた方がいいかも知れませんね(←自家撞着)。

そういえば,何年か前の11月,九州某所で発掘報告書を調べていたら,某大学の学生さんも,調べものをしていました。どうやら古墳の報告書を調べているようです。

その学生さんには見覚えがありましたが,その時点では名前も覚えていませんでした。でも,この季節に報告書を当たっているのは,多分大学の3年生あたりが,卒論の準備を始めたというところでしょう。

はぁ(--;?

学生さんの手にした報告書は,熊本県宇土市・向野田古墳

11月だぞ,じゅーいちがつッ(--#! あ,いや,ここで怒っても仕方がないか(^^;ゞ。

富樫卯三郎・平山修一・高木恭二(編),1978,『向野田古墳 宇土市埋蔵文化財調査報告書第2集』,宇土市教育委員会

11月になってこんな報告書調べてるようじゃ,実物資料に当たっての研究とか,遺構・遺物に即した話なんてできっこないよねぇ。そんなんでいいのか?これは悪い例だから,みんなは真似しないように。

しかし,人間の行動には模倣がつきもの。理屈は模倣の後から追いかけてきます。悪い例でもいい例でも模倣されるわけですから,いい/悪いの基準が見えていなかったり,また,基準はわかっていても周囲が悪い例ばっかりだったら,やっぱり悪い例が模倣されてしまいますよね。

で,これまた九州某所の話ですが,九州の学生さんは資料調査に来ないんだそうです。埋文体制もかなり充実して,重要資料がワンサカある土地なのに,それを研究に利用しようという姿勢が欠けているようなんです。だから,そういう例を模倣しちゃいけないんだけど……,でも,周囲がそればっかりだったら,やっぱり模倣するしかないんでしょうねぇ。

聞くところによると,九州の学生さんなんかより,むしろ関西や,さらには関東の学生さんの方が資料調査に来ているとか。

関西の学生さんは,それなりにしっかりした歴史観(同意するかどうかは,ひとまず措いといて)を持っているし,関東の学生さんも,その視野が関西どころか九州まで届いている人が増えたので,まったく侮れません。それに対して,九州の学生さんが地元でさえ資料調査を怠っているとしたらどうなるんでしょう?そんな学生さんが本州の考古資料を緻密にチェックしているとは到底思えないので,結局は本州の人たちの研究にはかなわない,ということになるでしょうね。

上の世代が埋文行政でがんばって,今の調査体制や調査成果を生んだというのに,これでは九州の地盤沈下は避けられないところ……,いえ,もしかすると沈没するしかないのかも知れません。

だからって,本州の大学の考古学が理想的かっていうと,そうも言えないわけで,かなり事態は深刻です。

そんなわけで,当コラムには珍しく,ものすごく月並みな結論なんですが,やはり学生さんは,現場に出たり,資料調査をしよう,と言いたいわけです。


もう1年半も前に,前に書きっぱなしにしていたことですが,私が2度目に京都大学を訪れたときのことです。

あ,前に書いたときは「初めて」にしてましたね(^^;ゞ。ありゃりゃ。

博物館の2階(だったかな?)にある研究室を訪れて,学生さんたちとお話をしてたんですが,当時助手だった高橋克壽さんから,お会いしてからものの数分で叱られてしまいました(^^;。そのため,この時の訪問はとても印象に残っています。そのときの言葉がなかったら,多分その後,もっと違った研究をして,違った仕事をしてたかも知れません。

ほかの会話は全部忘れてしまったのですが,唯一覚えているその言葉は,次のようなものでした。

「君は見たこともない土器を研究するのか?」

それ以来,資料紹介ばかりの私も,本音はそろそろほかのことがしたいなぁ(^^;ゞ。

次回は,資料調査の実際について,お話しする予定です……て,これは考古学通信講座か(^^;?


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