■殺人証明
誰に、は置いておこう。
伊音は果たして、如何なる行為を以ってその任務遂行能力が有ることを証明したのだろう。その手段として最も有効なのは、自分の意思で、自身の手で愛しい兄を殺めることだったのではないか。
そんなことさえ易々とできてしまう自分へのやりきれない感情こそが【自己からの侮蔑】というダーザインに結晶しているのではないか。
妹を守るため、妹の手に掛かることを選んだ兄の想いが【兄からの純愛】というダーザインに象徴されているのではないか。
肉親でさえ殺せた彼女が、ただ一人殺せない相手――それが、彼女とともに戦うギアドライバーとなるのだろうか。
もちろん、全ての真相はまだ闇の中だ。……ただ、仮に彼女が事故ではなく、自分の意思で兄を殺めた経験があるならば、自分の意思でひと一人斬った経験があるのなら。暗殺任務遂行能力の証明としては十分に過ぎる。
しかもいかな戦時中とは言え、草薙家が剣術の名門である(と思われる)とは言え、たかだか14の小娘が既に生身でひと一人、それも肉親を斬り殺したなどと普通は想像しないだろうから、これも暗殺任務には有利に働きそうだ。
(ヴィヴリオ大佐あたりは気付いていそうで、これはこれで怖い)
そして恐らくは、この辺りが「パソコンゲーム版エンゼルギア」における伊音の物語の入り口になっていくのだろう。
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