■ツバサの学校
さて、そこで興味深いのが、瑞穂基地以前にツバサが通っていた学校である。
「ツバサBB付属本」を紐解くと、2年前の彼女は「タバコを吸っているのが見つかれば即退学」というくらい、校則の厳しい学校に通っていたらしい(ちなみに制服はセーラー)。
普通、生徒がタバコを吸っていたのが見つかったとしても、いきなり退学というのは少し厳しすぎる気がする。まずは数日間の自宅謹慎、それでも繰り返すようなら停学、それでもダメなら……というのが順当な手順だろう。ここまで厳しいとなると、やはり相当に名門のお坊ちゃん、お嬢ちゃん学校であったと推測できる。
なお、彼女はタバコを吸っている現場を見つけて注意してくれた男子を共犯にしただけでなく初体験の相手にしているが、恐らくはコレがバレてこの学校を退学になったものと思われる。本人曰く、その彼に「告られたけど断った」そうなので、もしかすると退学になったのはツバサだけかも知れない。 その後、彼女は黒髪を金髪に染め、ブレザー系の制服の学校に転校している。
この学校は前とは違って、堂々と休み時間に早退を繰り返しても何のお咎めも無く(せいぜい、クラス委員長のお下げ+メガネの少女にしょっちゅう注意される程度)、水を得た魚の如く、ツバサは男をとっかえひっかえするだらしのない生活をしていたらしい。
だが、多分にこの学校はもう一つの側面を持っていたと思われる。
ある日、校内でタバコを吸う場所を探していたツバサは、例の委員長が男子生徒に体育倉庫に連れ込まれた現場に出くわし、彼女の身代わりを申し出る(こんなコトがまかり通るくらい、最初の学校とは比べ物にならないくらい規律が緩い)のだが、その男子生徒のうちの1人はツバサどころか父親の素性まで知っており、さらにヘルプストハイム検査の意味、“天使”の存在価値と大戦中の扱われ方まで認識していた。
彼の父親は、“天使”に関わる禁制品の薬物を違法に扱っていたとして、ツバサの父に消されたらしいのだが、驚くべきは息子であるこの少年がその事実を知っており、さらには問題の禁制品まで“ちょうどここに”所持していたことだ。
――どうにもこの少年、軍人の家系らしく最初からツバサをハメるために、まず委員長を体育倉庫に連れ込んだようにしか思えない。しかも彼女を抑えていた位置的に、わざと声を出させてツバサの注意を引いているようなのだ。
ともあれ、この後でツバサは委員長が呼んだ黒服黒眼鏡の大人たちによって救出されるが、ここで彼らは自分たちが軍人であり、ツバサが第三世代人間戦車の適性者であることまでペラペラと述べている。つまり、委員長は学校の教師ではなく、どう見ても見かけの怪しい軍人を選んで呼んで来ている。
作劇上の都合として説明するのは簡単だが、ここに1つの仮定を入れてみたい。
この学校は、ツバサや彼女に復讐しようとした少年のような、問題のある軍人の子女を集めた、意図的な問題校だったのではないだろうか。ゆえに規律などあってなきようなモノ。タバコだろうと禁制品の薬物だろうと持ち込み放題。そして軍人の子女ばかりが通うゆえに、生徒たちも一般人である教師とは別に、軍人の大人を察する能力に長ける……。
こう考えると、この後に瑞穂中学校へ転校した彼女が、ドライクロイツの制服であるブレザー軍服を嫌い、瑞穂中学校のセーラーを着ているのにも何となく理由が見えるようで面白い。
なお、ツバサは例の委員長について「前の委員長は元気かな」などと呑気に回想しているので、この学校の場所は、帝都や八門結界の破れた地域では無いだろう。おそらく、ツバサはアパートか何かに一人住まいだったと思われるので、そういう意味ではとても都合の良い環境だったと思われる。
(余談だが、最初の学校は名門っぽいだけに、帝都に位置する可能性を否定しきれない。その場合は……(合掌)) |