森に帰ったしな乃
森にかえったしな乃 交通事故のない社会を目指して

        挽歌 その2


      アツモリソウ 森にかえったしな乃

 

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今宵こそ夢に出てきて抱かれよと祈りてけふも睡眠薬飲むなり   つづまりは幽けさ具えおり夏日にむかうひるがおに似て  温泉も好きな子なりふたりしてこっそり泳ぎ肩すくめあひ  娘の眸はイワカガミ咲く蓼科の山をとどめて、夏の日に逝く  子の捕りし鮒を返すとふ、送り火にバケツの底の魚は動かず  利きみればわが家に失せり児の薫りたとえば甘き菓子のごと汗 背伸びしていくつになったら母さんを越せると笑みし児よ、今は亡し  何がため生まれきたかと問いており二番雛抱く玄鳥を見つつ  うつろなる目にて野いばらさがしあて吾子に供えり棘いたきまま  夏草の繁れるなかにここばかりかおり清かに野茨の花  吾の命より何より大事な娘ゆゑひしと抱き締めしこと幾たびもあり  雨に咲く露草の濃きむらさきを子は好めりと母は傘架く  かけつけし母を待たずて吾子ははや開きたる瞳の持ち主となれり  通夜の夜に読みかけの本読み聞かすなぜにあばかり冷静であり 
二美子 二美子 二美子 二美子 二美子 二美子 二美子


             しな乃の作品   しな乃の作品
                   6歳  土面                   7歳 アリストロメリア
しな乃の作品 しな乃の作品
                7歳  パイナップル               7歳  わたしの母さん


児一人が放つ精気が充溢すそれが家庭の温もりといふもの  汝がありて保つ若さとおもいけり鏡に映る今朝の老い顔  今が大事この一瞬こそと思いつつ汝と歩きし山数えきれぬ  夏の日は天の川にて泳ぐとや水着もたせて送りし吾子は  呼ばえども還らぬ吾子としりながら母哀れみて還るとも思ふ   小夜ふけてふと目覚むれば児のたてるかろき鼾のなきがかなしき  目覚め時吾子は夢に閃めきぬ母さん有難う九年もと言う  かたときもわが傍らを離れじと子の転生か、はげし蝉啼く  噴きあぐる吾子恋しさに今宵また泣き叫びをり獣のごとく  庭かげに我を呼ぶ声しかとあり酔いにもまさる痴呆はうれし  吾子と二人北海道を巡りし夏幸せの続くを疑いもせず  枕辺に寝起き伴する児の写真利尻富士背のたのもし笑顔  一度だけただ一度だけ抱かせよと神にも鬼にも祈る我なり  果てし子の悲し思いで多いゆえ西瓜は買わずと妻の宣言
二美子 二美子 二美子 二美子 二美子 二美子 二美子


しな乃の作品 しな乃の作品
7歳  ひなげし 8歳  シクラメン
しな乃の作品 しな乃の作品
8歳  りんご 8歳  トウモロコシ


   

カブトムシ 森にかえったしな乃 しな乃は、その短い人生の証として、実にたくさんの作品を私たちに残してくれました。
 その多くは絵画の類いですが、陶芸、粘土像、版画や書道などの他、スッケチブックやノートの片すみに描かれたものなどが、おびただしい数にのぼります。
 しな乃が絵の勉強を始めたのは、5歳の中ごろでした。当時、兄の孝一郎が通っていた岡田嘉夫絵画教室に、入会条件である小学生以上という枠を、特別に外してもらっての入会でした。
 毎週土曜日の、午後の数時間、しな乃のもっとも充実した時間の産物がこれらの作品です。その中でも群を抜いて多いのが、花を題材に扱った絵の数々です。
 岡田先生は、子供の感ずるままを自由に描かせて、その中から才能を引き出すよう指導をしてくださいました。そこで、しな乃は自由にのびのびと筆を走らせ、ダイナミックな色づかいを身につけました。
 この作品集では岡田教室の作品を中心に、小学校で図工の時間に、学校生活を描いたものを数点加えて、構成しました。
母親の顔を描いた作品は、アサヒタウンズの「わたしのお母さん」というコンクールに入選して、同紙に掲載されたものです。
 これらの作品は、私たちにとって希望の芽でしたが、永久に夢叶うことなく埃を被っていこうとしています。
 しな乃の作品に添えた写真の花は、すべてしな乃が愛した花々です。旅先や山登りで出合ったシナノキンバイやヤナギランなど、特別な所でしか見られないものもありますが、それ以外の多くの花は、その気になって探せば簡単に見つけることのできる、身近で平凡ながら、美しい花たちです。ヤマモモ 森にかえったしな乃
 イワカガミは、しな乃が天国に連れていった思いでの花ですし、レンゲショウマは森陰にひっそりと咲く、まさにしな乃を映したような清楚な花です。
 木登りが大好きだったしな乃のために、樹の花も数点とりました。
 季節の移ろいごとに咲く、これらの花を草野に見つけるたび、今また私たちは、在りし日のしな乃に出会ったような気がします。
 しな乃の作品と野辺の花々に、遺された者の拙い挽歌を添えて、しな乃への鎮魂としました。


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