■シュネルギア:シュトルム/神楽&凍
ひとつ、不思議なことがある。
凍の反応速度に誰もついていけないのなら、凍が反応速度を落とすわけには行かないのだろうか? 結論から言うと、たぶんそれはできないのだろう。
凍はシュネルギアを運用するための戦闘人形として八坂機関に造られた存在――というのが私の見方だが、これを援用すれば、凍はその調整によって、自分の反応速度を一般人レベルに落とすこともできない仕様になっていると考えられる。
(何らかの理由で性能が落ちかければ“調整”が待っていることは、公式シナリオでも言及されている)
すなわち凍に反応速度を落とせと言うのは、F1カーで公道を走れと言うに等しい無茶な要求なのだ。兵器としては汎用性に欠けた不良品とも見てとれるが、彼女がそう調整されているならば、やはりそうされる理由があると思うのは考えすぎだろうか。
ともあれ、天野ツバサやアクシア・リヒトヴィッツでも追随できない反応速度を持つ八坂凍を運用する方法は、3つ考えられる。
(1)シュトルムを単座式にして出撃させる。
(2)シュネルギアを操縦できる完全機械化兵を開発する。
(3)凍に追随できるギアドライバーを探し出す。
このうち、(1)は最も現実的な選択だが、それゆえに選択されていない。シュネルギアという兵器が2人乗りを強く前提条件とする以上、また単座式の方が天使化の危険性も高まる以上、この選択は(よほどの非常時、あるいは非戦闘時でなければ)考えられない。 (2)については、クベルタの存在や、T−Xのそもそもの開発目的なども併せて、ある程度考慮されている節もある。常人でついていけないとはいえ、凍は(スペックを鵜呑みにするなら)生身の人間であり、完全機械化兵の反応を上回るなど眉唾ものだろう。
また、完全機械化兵がフライングユニットや戦闘機、アペルギアを操縦できるなら、技能的にシュネルギアを操縦できない理由は存在しない。すなわち“黒い天使核”を内蔵した完全機械化兵さえ建造できれば、ドライバーとナビゲーターの相性や技量にいちいち悩む必要もなくなる――。しかし第10世代の完全機械化兵は、この時代ではまだ試作機ができるかどうかも怪しい段階であって、これも現実的な選択ではない。 ならば(3)はどうだろうか。
そうそう簡単に、そんな都合の良い人材が見つかればヤシマ陸軍情報部も苦労はしないだろう。だが、実はここに「エンゼルギア」の物語を読み解く鍵の1つが潜んでいる気がしてならない。神楽・K・ガイストはおそらく凍の反応速度についていける“天才”的なギアドライバーだと思われるが、真実は逆かも知れない。
神楽が凍についていけるのではなく、神楽についていける専用のナビゲーターとして八坂機関に用意されたのが、凍という存在だと仮定すると――。神楽の出自も含めた、維馬篭代胤の複雑な感情のひだが見えてきそうである。
また、それはパソコンゲーム版「エンゼルギア」において、主人公が神楽であり、タイトルヒロインが凍であることそのものを象徴づける物語となりうるのだが――。 |