■オープニングフェイズ/シーン1 「一九九七年、七月二十日。晴天」
シーンPC:日影。GM:コンロン東岸を発った呪法船団は、ヤシマへの帰途にあった。
GM:どうにか稼動段階まで持ち込んだ試作兵器――“シュネルギア:アルファ”を伴って乗り組むのも、これで何度目になるだろう。
GM:それと同じ回数だけ、“彼女”ともまた乗り合わせている計算になるわけだが。
GM:アルファがまだ飛ばなかった頃から、陸での調整中も顔を突き合わせているのだから、この付き合いは大概長い。 GM/藤花:「いっやー、すごいいい天気だね!」
GM:――その彼女ときた日は、上部甲板の手すりに腰掛けて、吹く潮風に目を細めつつ、そんなことを抜かしているのである。
GM:パンツルックだから何かと心配はないにせよ、傍から見ていて危なっかしい。
日影:「ああ。お前の脳味噌と良い勝負だな」仏頂面で、一言。
GM/藤花:「あー、木路ひっどー! 私ののーみそが風洞実験器みたいな言い方に聞こえるー!」
日影:「実際そうだろう。普段はまだしも、毎度毎度無茶をして俺の肝を冷やしてくれている行動を生み出すのはこの頭だろう?」こんこんと、藤花の頭をノックして
GM/藤花:「うー」むくれる。
日影:「それと、手摺に座るな。危なっかしい」わきの下に手を入れてひょいと持ち上げ、おろす。
GM/藤花:「わ、いや、大丈夫だってばっ! そうじゃなきゃ、あの子なんて飛ばしてらんないもん」
GM:じたじたじた、と体をゆすって、強引に脱出。軽やかに着地。
日影:「お前に海の藻屑になられても困るからな。念には念をだ」ぐりぐりとまだ「生身」の右腕で頭を撫でる
GM/藤花:「む」猫か何かのように目を細める。
GM/藤花:「……それにしてもさ、よーやくここまで来たんだよね、……あの子も」
GM:一隻の甲板を占拠する格納ブロック――といっても、くぼんだ所をシートで隠しているだけだ――を見て、なんだか感慨深げに言う。
GM:最終的に求められるスペックには及ばないとはいえ、天使と戦うための牙――高出力型V機関と、S.Q.U.I.Dの改良の基礎は完成した。
日影:「……ああ、そうだな。これでようやく、だ。後は、もう少し技術が進んでくれれば」
GM/藤花:「この子の後継機ができたら、あいつらにも、負けないでいられるんだよね」
GM/藤花:「……ねえ、そうだよね、木路?」
GM:“実戦経験”のためにコンロンを転戦した。その間に見た光景は――結界に覆われたヤシマには縁の遠いものだ。
GM:天使兵撃墜スコア11、という常識外の“天才”とはいえ、それに慣れられたかといえば。
日影:「当然だ。俺達が今までどれだけ修羅場をくぐったと思っている?」
GM/藤花:「ええと、十一よりは多かったかなあ? 今回で……」ひーふーみー、と指を折って。
日影:「誇れ。お前は今、俺達の、いや、ヤシマの未来を作っている」
GM/藤花:「もっちろん! 私、自分の生き方誇ってないことなんてないもんね。たぶんだけど」えへん、とばかりに胸を張る。
日影:「よろしい。……そうだな、藤花、手を出せ」
GM/藤花:「?」
GM:お手、というカンジで、ひょい、と手を出す。
日影:その手に、刀の柄尻に結んでいたお守りをぽんと乗せる
GM/藤花:「え、これ、確かなんか大事なものだとか、木路言ってなかったっけ?」
日影:「死んだ母さんがくれたお守りだ。ものすごく大事なものだがお前にやろう」
GM/藤花:「……返せって言っても返したげないよ?」
日影:「返せなどとは言わん。お前一人死地に追いやって安全なところで指揮だけしている俺には不要なものだ」
日影:「せめて、このくらいはな」照れてそっぽ向き。
GM/藤花:「そんなことないと思うんだけどなー。ヤシマから出てくるだけで十分さー。……およ?」
GM:なんか、ちょっと人の悪そうな感じに笑って、
GM/藤花:「……ねーねー木路ー」
日影:「どうした」
GM/藤花:「ヤシマに戻ったらさ、ちょっと休暇もらえるとか言ってたよね? どっか、山の上にでも涼みに行かない? 夏だし」
日影:「山か……悪くないな。良いだろう。戻ったら行くとしようか、藤花」
GM/藤花:「……ちぇ、もう赤くないや。大人ってやだなー」ぷう。
GM/藤花:「でも、約束だからね。絶対だよ。ヤシマ男児に二言はないよね?」
GM:ひょこん、と小指を突き出したにぎりこぶし。
日影:「無い。男に、いや、俺に二言は無い」同じように、小指を出して、絡ませる。
GM/藤花:「よろしい。信じちゃうよ」
GM:青空を背景に満面の笑顔――
GM:――観ることが出来たのは、その日が最後だった。 GM:一九九七年、七月二十一日。――嵐。
GM:ヤシマ沖。八門結界影響圏より数カイリ地点。
GM:呪法船団旗艦艦橋。 GM:風鳴。
GM:雨音。
GM:波濤。
GM:雷鳴。 GM:爆音。 GM:serra,serra,serra,serra――。 GM:爆音。 GM:木の葉のように揺らぐ木路の目の前の甲板に、聖光の至近弾が突き刺さる。
日影:「ちぃ、見つかったか! 総員持ち場に着け! 戦闘要員は順次出撃!」
日影:外部の轟音に負けじと声を張りあげる
GM/管制官:「りょうか――」
GM:通信機から飛び込んでくる悲鳴。怒号。
GM/メーヴェ隊員:『クソ、機関が――、整備のヤツラ何を、うわあああああああっ!』
GM:爆音。
GM/管制官:「――敵天使兵のエーテル係数、なおも上昇中! 実体化止まりません……さ、3000を突破!」
GM:雷鳴に等しい聖光を撒き散らし、暴風に等しい衝撃波を撒き散らし――
GM:悪夢のように螺旋くれた白い巨影が、荒れ狂う黒い水面の上、漆黒の暗雲の下に現れ出でようとしていた。
GM:そう、出でようとしていた――のだ。
GM:メーヴェの精鋭を次々に屠り、大した打撃も受けぬ体でありながら、それは成長していた。
日影:「くっ……藤花少尉を呼べ! 出番のようだ!」
GM/藤花:『待ぁってましたっ!』
GM:こんなときでも無用に元気な声が――空電ノイズ交じりの通信から飛び込んでくる。
日影:「いいか、時間を稼ぐだけで良い! 適当に引き離したら帰還しろ! あと少しでヤシマだ、こんな所で落とされるな!」
GM:雷光で明滅する視界の向こう、覆いを払って、まだ不恰好な白い機体が立ち上がる。
GM/藤花:『大丈夫だいじょーぶ、あとで追いつくから。ぱぱーっと行って、片付けて帰るからさ!』
GM/藤花:『私と木路で育てたアルファだもん、あんなワケのわかんない安っぽいのになんて負けないって! 絶対!』
日影:「ああ、期待しているぞ、少尉」
GM/藤花:『お任せあれっ。……ナビシートが空っぽなのは、ちょーっと寂しいけどねー』
GM/藤花:『そ、れ、と。本土帰ったらデートだかんね。忘れないでよ?』
日影:「ばっ、馬鹿野郎! 時と場所を考えろ!」真っ赤になって怒鳴り返す。
GM/藤花:『あ、照れてる照れてる?』
GM:空電に紛れて聞こえないが、たぶん笑っている。
GM:――至近弾。
GM:爆音。
日影:「〜〜〜〜〜〜っ! とにかく! さっさと行って片付けて来い!」
GM/藤花:『ん、了解っ』
GM/藤花:『――じゃ、行ってきます!』
GM:離床。アペルギアの跳躍とは違う“飛翔”の機動を描いて、嵐の空へ、アルファが舞い上がる。
日影:「ああ、行って来い―――藤花」階級ではなく、名前で呼んで。 GM:一九九七年七月二十一日の木路日影の記憶は、この後五分ほどで途切れる。次に繋がるのは、翌々日。ヤシマ本土の軍病院での事である。
GM:艦橋への聖光の直撃弾。生存は奇跡的であったという。
GM:なお、この交戦による呪法船団への被害は、撃沈1、メーヴェ隊員に死傷者多数。
GM:ほか、試作型兵器一機、及びその乗員一名。
日影:「戻れと―――必ず戻れと、言っただろうが……!」満身創痍、利き腕すら失った重傷で、そう吼える。
GM:シーンエンド。 |