*小学5年のまだ冬の三月、父親が転勤すると告げられ、幼稚園と5年間の小学校生活を続けていた北海道登別から、札幌への引越が決まった。*物心ついて以来、小さな登別で過ごしていた私にとって、札幌は都会だった。*一年だけの在学であるが、札幌市立二条小学校に在学、市内では中心部にあった。*大通公園まで、歩いて行けるエリアであり、雪祭りは開幕の前日に完成している雪像を十分に鑑賞できるということを知った。*そのころ、級友のOに貸りて、はじめて文庫本を読んだ。赤川次郎。霧の夜に、とかで始まるタイトルで、少し哀感のあるトーンであり、背伸びをする感覚を味わった。*文庫本は小難しいそうだが、やけにたくさん並んでいるぞと、本屋では遠巻きに指をくわえていたエリアにつっこんだ最初だった。*未開の地にモノがたくさんあると突入したくなるのは、そのころからの習性らしい。*小学校のそばに官舎があったのか、裁判所に勤めている人の子供らが、そのガッコウには何人かいた。*このころ、将来の志望として始めて具体的に考えたのが、法律家だった。イメージだった志望は、旭川市で卒業した中学校では、卒業文集に載せられるほどには、カタチになっていた。*文庫本はやがて、作者を移りつつ、絨毯爆撃のように、気に入れば気の済むまで連続して読んでいた。*はじめに読みつぶしていったのは赤川次郎であり、西村京太郎であり、和久峻三であり、いずれも作品はたくさんあっても、永遠ループに入り込んだように、同じ本を読み続けている気になった。*そしてもはや14年ほど経つ今でも、絨毯爆撃は目標を変えつつ継続し、雪への思いは憧憬ではなく郷愁であり、六法は立ち向かうべき妥当な相手と思っている。*その意味での原点は、この地にあるのかもしれない。
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